IP case studies判例研究

平成24年(行ケ)第10207号 「光学活性ピペリジン誘導体」事件

名称:「光学活性ピペリジン誘導体」事件
審決取消請求事件
知的財産高等裁判所第3部 平成24年(行ケ)第10207号
判決日:平成25年7月24日
判決: 請求棄却
特許法第29条第 1 項および第29条第2項
キーワード:ラセミ体が公知の場合の光学活性体の新規性および進歩性
[概要]
ラセミ体が公知の場合であっても、光学活性体に新規性および進歩性ありとして特許維持の無
効審判における審決の判断が維持された事例
[特許請求の範囲]
請求項1.式(Ⅰ)
で示される絶対配置が(S)体である光学活性ピペリジン誘導体のベンゼンスルホン酸塩。
[主な争点(取消事由)]
(1)新規性についての判断
医薬に用いられる化合物の場合に、ラセミ体が開示されていることをもって構成する光学異性
体が開示されているとすることができるか否か
不斎炭素の存在、光学分割の方法の自明性、延長登録と本件特許発明との関係
(2)進歩性についての判断
①光学分割を行うことの困難性の有無。
②一般的に光学異性体のうち一方のみが所望の生理活性を有していることが知られている状況
下において、光学異性体の効果の顕著性を考慮することの是否。
[審決]
本件は、甲 1 公報に記載された発明ではなく、甲1公報等に基づいて当業者が容易に発明をす
ることができたものであるともいえない。
絶対配置が(S)体である本件化合物は、当業者が容易に製造することができなかったもので
ある。
[裁判所の判断]
(1)新規性に関して
①東京高裁平成3年判決は、光学異性体は、一般に、旋光性の方向以外の物理的化学的性質にお
いては差異がないから、ラセミ体の開示をもって光学異性体が開示されているというべきである
として上記発明の新規性を否定した判決であり、本願特許の優先日の技術常識を参酌したもので
はないことが明らかである。ラセミ体自体は公知であっても、それを構成する光学異性体の間で
生物に対する作用が異なることを開示した点に新規性を認めるべき。すなわち、平成8年12月
26日における技術常識に照らして新規性の有無を判断すべきであり、この当時の判決や昭和5
0年の運用指針の規定を根拠とするのは誤りである。
②本件化合物を光学分割する方法が記載されているに等しいとすることはできない。(カラムを使
用して分割できる物質が多数存在するとしても、当該カラムを使用して本件化合物ないしこれと
化学構造が類似した化合物を光学分割できる例が知られていない以上、本件化合物を光学分割す
る方法が記載されているに等しいということはできない。)
③特許庁における延長登録の実務の是否はさておき、甲1公報に係る特許権の存続期間の延長登
録がみとめられているからといって、甲1公報に(S)体の本件化合物のベンゼンスルホン酸塩
が開示されているということにはならない。延長登録が認められたか否かは、本件の新規性の判
断に何ら関係ない。
(2)進歩性に関して
①光学分割の困難性に関しては、優先日当時の技術常識として、光学分割用カラムの重要性も認
識されており、当業者が、本件化合物の光学分割を行う際にジアステレオマー法を最初に検討す
るとした審決の判断には誤りがある。また、本願発明における移動相や固定相の選択も当業者に
容易想到と言える。
②本件明細書の開示と実験成績証明書の内容(モルモットから摘出した回腸におけるヒスタミン
誘発収縮とヒスタミンショック死抑制作用試験結果)から、本件化合物の(S)体は、その(R)
体と比較して、当業者が通常考えるラセミ体を構成する2種の光学異性体間の生物活性の差以上
の高い活性を有するもの、ということができる。本件化合物は、甲1発明であるラセミ体の本件
化合物のベンゼンスルホン酸塩と比較して、当業者が予測することのできない顕著な薬理効果を
有するものといえる。
[コメント]
医薬に係る発明において、ラセミ体が公知の場合であっても、光学活性体に新規性があること
が明確に確認されている。さらに、光学異性体を含む医薬の薬効の顕著性により進歩性がある場
合として、ラセミ体と比較した場合の数値の差が指標になり得ることが示唆されている。
 

平成24年(行ケ)第10207号 「光学活性ピペリジン誘導体」事件

PDFは
こちら

Contactお問合せ

メールでのお問合せ

お電話でのお問合せ