審決取消請求事件 » 平成24年(行ケ)第10292号「強接着再剥離型粘着剤及び粘着テープ」事件

名称:「強接着再剥離型粘着剤及び粘着テープ」事件(審決取消請求事件)
東京高裁第4部:平成24年(行ケ)第10292号 判決日:平成25年6月27日
判決:拒絶審決認容(請求棄却)
特許法第36条第6項第1号
キーワード:サポート要件、実施例、パラメータ
判例全文:http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20130702135137.pdf

[概要]
パラメータを発明特定事項として含む本件発明について、拒絶審決において、サポート要
件を満足しないことが指摘され(当業者にとって過度の試行錯誤を要し,また,本願発明の粘
着剤全般について製造方法や入手方法について開示されているとは,技術常識に照らしても認め
られない)、裁判所でも、その審決が維持された。

[特許請求の範囲](請求項1)
(a)n-ブチルアクリレートを50重量部以上,カルボキシル基を持つビニルモノマー及び
/又は窒素含有ビニルモノマーの一種以上を1~5重量部,水酸基含有ビニルモノマー0.01
~5重量部を必須成分として調製されるアクリル共重合体100重量部と,(b)粘着付与樹脂1
0~40重量部からなる粘着剤組成物を架橋した粘着剤を基材の少なくとも片面に設けてなる粘
着テープであり,前記粘着剤の周波数1Hzにて測定されるtanδ のピークが5℃以下にあり,
50℃での貯蔵弾性率G’が7.0×10 4 ~9.0×10 4 (Pa),130℃でのtanδ が
0.6~0.8であることを特徴とする粘着テープ。

[争点]
<取消事由1>:サポート要件に係る判断の誤り。
<取消事由2>:理由不備の違法。

[裁判所の判断]
<取消事由1> 特許請求の範囲の記載が,明細書のサポート要件に適合するか否かは,特許請
求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し,特許請求の範囲に記載された発明が,発
明の詳細な説明に記載された発明で,発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を
解決できると認識できる範囲のものであるか否か,その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の
技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して
判断すべきものであり(知財大合議判決),この点に関する原告の主張は採用することができない。

本願明細書には,粘弾特性の各パラメータの値が請求項1に記載された範囲を外れる場合には,
再剥離性,耐反発性,定荷重性等の粘着特性が悪化する傾向にあることが記載されている。さら
に,実施例1ないし4及び比較例1及び2には,請求項1に記載された数値範囲を外れると,再
剥離性が劣り(比較例1),また定荷重性が劣ること(比較例2)が記載されている。

甲17(「粘着技術ハンドブック」)によれば,tanδのピークが5℃以下であることは,一
般の粘着剤が備える粘弾特性であると認められるから,これら実施例及び比較例のデータは,発
明の実施の形態として粘着特性の傾向が定性的に記載された粘弾特性の範囲の中でも,特に請求
項1に記載された50℃での貯蔵弾性率G’及び130℃でのtanδの範囲の粘着剤は,優れ
た粘着特性を有すること及び請求項1に記載された粘弾特性を外れると,発明の実施の形態(【0
021】)に記載されたとおり,粘着特性が劣るものとなることを示すものであるといえる。

しかしながら,実施例1ないし4は,請求項1に記載された組成の中のごく一部のものにすぎ
ない。また,請求項1に記載された粘弾特性のパラメータであるtanδのピーク,50℃での
貯蔵弾性率G’及び130℃でのtanδのそれぞれの値を制御するには何を行えばよいのかに
ついて,本願明細書の発明の詳細な説明には,何らの記載もない。

そうすると,粘着剤が請求項1に記載された組成を満たしているとしても,それ以外の多数の
要因を調整しなくては,請求項1に記載された粘弾特性を満たすようにならないことは明らかで
あり,実施例1ないし4という限られた具体例の記載があるとしても,請求項1に記載された組
成及び粘弾特性を兼ね備えた粘着剤全体についての技術的裏付けが,発明の詳細な説明に記載さ
れているということはできない。また,そうである以上,請求項1に記載された粘着剤は,発明
の詳細な説明に記載された事項及び本件出願時の技術常識に基づき,当業者が本願発明の前記課
題を解決できると認識できる範囲のものであるということもできない。以上によれば,本願発明
に係る特許請求の記載の範囲の記載は,サポート要件に適合しないというべきである。

原告は,tanδのピークは,アクリル系粘着剤に一般的に使用されている各種モノマーの中
から適宜選択して組成に基づく計算により推定できるとか,アクリル系粘着剤のTgやアクリル
系粘着剤と粘着付与樹脂の配合量を適宜調整することなどによって,貯蔵弾性率G’が所定の値
である粘着剤Aを製造することは,本件出願時の技術常識から当業者にとって容易であったなど
と主張する。しかしながら,請求項1に上位概念で必須成分と記載されたモノマー(カルボキ
シル基を持つビニルモノマー,窒素含有ビニルモノマー,水酸基含有ビニルモノマー)には粘弾
特性に与える影響(側鎖の長さ等)を異にする多種類のものが含まれる上,必須成分とされてい
ない任意のモノマーは,請求項1の記載によれば,最大48.99重量部(100-(50+1
+0.01)=48.99)まで含まれ得るものであるから,請求項1に記載されたアクリル共
重合体を構成するモノマーの候補は極めて多岐にわたる。また,前記(2)のとおり,原告が挙げる
モノマーの種類や粘着付与樹脂の量などのほかにも,アクリル共重合体の分子量などの要因が粘
弾特性の各パラメータに複合的な影響を与えることが知られている。これらの点を考慮すると,
粘弾特性の各パラメータの制御の仕方についての記載がなくとも,請求項1に記載された組成で,
かつ,粘弾特性を兼ね備えた粘着剤に関する開示が十分であるとまでは認めることができない。

<取消事由2> 原告は,本件審決はサポート要件について,実施可能要件と同様の手法により
判断しており,許されないと主張する。本件審決は,本願発明が発明の詳細な説明に記載されて
いるというためには,本願発明で使用する粘着剤について,技術的な裏付けをするのに十分な記
載がされることが必要であり,具体的には,それを製造ないし入手できるように記載されている
ことが必要と認められるなどと述べているところ,これらの説示は,特許請求の範囲に記載され
た発明が,発明の詳細な説明の記載から十分にサポートを受けているかという観点から述べられ
たものであると認められるから,かかる説示が許されないものということはできない。

原告は,貯蔵弾性率G’及びtanδはその技術的意義や測定方法が明確な物性値であり,特
許請求の範囲の記載は明確であって,技術的範囲についての解釈に疑義はないから,本願発明に
係るサポート要件について,知財高裁大合議判決で用いられた判断手法をそのまま適用すること
は不当であると主張する。しかしながら,サポート要件の適合性については,知財高裁大合議判
決で用いられた判断手法と同様に,これと同様の手法により本願発明に係るサポート要件につい
て判断した本件審決の判断手法が不当であるということはできない。

[コメント]
請求項に記載の内容に比べて、実施例で用いている材料の種類、割合等の選択肢が多いこ
とから、課題との関係で明らかでないことを理由としてサポート要件が否定された。また、
特殊パラメータとはいえない、貯蔵弾性率G’及びtanδについても、これらの組み合わせに
ついては、知財高裁大合議判決のサポート要件が適用される旨が指摘された。

平成21年(行ケ)第10033号の記載「サポート要件適合性の判断における発明の詳細
な説明の記載内容の解釈の手法は,特段の事情のない限り,発明の詳細な説明において実施
例等で記載・開示された技術的事項を形式的に理解すべき」を原告は主張していると思われ
る箇所があるが、本件とは、課題を認定できるか否かの点で相違しており、別事案として判
断されたと思われます。その他、平成22年(行ケ)第10153号では、数値範囲に関して、
実施例に比べて請求の範囲の配合割合が広い場合についても、サポート要件を満足することを認
めているが、この事案においても、課題を認定できたとの前提があり、本件とは別事案になると
思われる。