審決取消請求事件 » 平成24年(行ケ)第10261号「周波数選択チャンネル等化・復号装置」事件

名称:「周波数選択チャンネル等化・復号装置」事件(審決取消請求事件)
知的財産高等裁判所第1部:平成24年(行ケ)第10261号
判決日:平成25年1月30日
判決:審決取消(請求容認)
民法111条、特許法50条
キーワード:代理権消滅、代理人の意思能力の欠如、送達受領能力、手続瑕疵
判決全文:http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20130328104025.pdf

[概要]
特許庁が、弁理士 A,B に対して電子情報処理組織を通じて拒絶査定の送達を行った。上記弁理
士 A,B 以外の訴訟代理人が時期に遅れた拒絶査定不服審判を請求し、特許庁がこれを却下した審
決が、上記送達が無効であるとして取り消された事案である。

[経緯]
平成 15 年 9 月 8 日 弁理士A,Bを代理人として、PCT出願を国内移行
平成 20 年 3 年 19 日 弁理士A,Bに対し、電子情報処理組織を通じて拒絶理由通知
平成 21 年 9 月 3 日 弁理士A,Bに対し、電子情報処理組織を通じて拒絶査定謄本送達
平成 22 年 1 月 4 日 (拒絶査定不服審判の請求期限)
平成 23 年 12 月 13 日 本件訴訟代理人が、拒絶査定不服審判を請求した。
平成 24 年 3 月 6 日 請求期間の超過を理由に審判却下の審決

[主な争点]
(1)本件送達の有効性についての誤認・判断の誤り(取消事由1)及び(2)審決の手続的瑕
疵(取消事由2)

<原告の主張(判決文 3 頁 4 行目~4 頁 9 行目)>
・弁理士 B は、平成 18 年 1 月 6 日に成年後見登記がなされ、原告の代理権を有していなかっ
た(民法 111 条)ので、本件送達(拒絶査定謄本送達)は無効である。

・弁理士 A は、拒絶査定謄本送達及びこれに先立つ拒絶理由通知の送達時に、既に弁理士業務
を遂行し得る能力を有していなかったので、送達受領能力を失っており、当該送達は無効である。
・原告らの代理人であった2名の弁理士のうち、Bは既に代理権を失っており、Aは弁理士と
しての職務を遂行できる能力及び代理人としての送達受領能力を失っている。よって、拒絶査定
謄本の送達は、拒絶理由通知が適法になされないまま行われた点で、法50条の手続き上の瑕疵
がある。

<被告の主張(判決文 4 頁 10 行目~5 頁 10 行目)>
・審査官は、拒絶査定の謄本の送達を電子情報処理組織を使用して行うことができるが、相手
方が暗証番号の入力等をして送達を受ける旨の表示をしないときは、この限りではない旨規定さ
れている(工業所有権に関する手続等の特例に関する法律5条1項、同法施行規則23条の6)。

すなわち、拒絶査定の謄本が送達されるためには、相手方が自らの意思で電子計算機を操作して、
識別番号及び暗証番号の入力、等の送達を受けるために必要な一連の手続を行うことが必要であ
る。相手方が一定期間、送達を受ける旨の表示を行わない場合には、拒絶査定の謄本は、郵便に
よる送達に回される。拒絶査定の謄本は、平成 21 年 9 月 3 日に電子情報処理組織によって送達
された。そうすると、Aは上記操作を自らの意思で行ったと考えられ、拒絶査定の謄本の送達を
了承したと考えられる。

・Aは、拒絶理由通知に対して意見書等を提出している。また、他の出願について平成 21 年 9
月 3 日に拒絶理由通知を受け、同年 12 月 2 日に意見書などを提出している。このような手続の
関与を前提とすれば、Aは代理人としての職務を遂行できる状態にあったと考えられる。

[裁判所の判断]
(1) Bについて
Bは,後見開始の審判を受け,同審判は,平成18年1月5日に確定した。本願に関するBの
代理権は,民法111条1項2号の規定により,同審判により消滅した。したがって,Bに対す
る本件送達は無効である。

(2) Aについて
前記1で認定したとおりのAの状況からは,Aに対して本件送達がされた当時,Aは,本件送
達を受領するに足りる意思能力を欠いていたと認めるのが相当である。すなわち,Aは,平成1
9年4月の段階で既に●●との診断を受けており,相当程度,意思能力が制限された状態にあり,
さらに,本件送達がされる以前の平成21年4月には,思考内容の貧困化,意欲減退が顕著であ
り,身体機能も低下し,意思伝達はほとんど不可で,毎日の日課を理解すること,生年月日を言
うこと,短期記憶,自分の名前を言うこと,今の季節を理解することはいずれもできない状況に
あった。そして,Aの上記の状況は,加齢性変化に加えて,Aが患った●●による影響によるも
のであるから,不可逆的であり,本件送達がされるに至るまで漸次悪化していたと認められる。
そうすると,本件送達がされた時点では,Aは,本件送達の意味を理解し適切な行動を行うに足
りる意思能力はなかったと解される。受送達者が送達の意味を理解し適切な行動を取るに足りる
意思能力を欠く場合には,同人に対する送達は無効であり,工業所有権に関する手続等の特則に
関する法律5条1項の規定によるいわゆるオンライン送達の場合も同様に解すべきであるから,
Aに対する本件送達は無効である。

しかし,前記認定したとおりのAの意思能力の欠如の程度に照らすと,「A(外1名)」宛に電
子情報処理組織による送達がされたなどの事実をもって,Aが代理人として職務を遂行できる状
態にあったと判断することは到底できない。

●●にはA及びB以外に,弁理士及び事務員等が所属していたことからすると,被告主張に係
る①又は②の操作並びに拒絶理由通知に対する意見書及び手続補正書の提出は,同事務所内にお
いて,Aの意思に基づくことなく行われたものと推測されるから,本件送達の時点でAが送達を
受領するに足りる意思能力を欠いていたとの前記認定・判断を左右しない。

以上によれば,原告らに対する拒絶査定の謄本の有効な送達はいまだされていないから,特許
法121条1項所定の拒絶査定不服審判の請求期間(拒絶査定の謄本の送達があった日から3月)
は経過していない。したがって,前記期間が経過したことを理由として,本件拒絶査定不服審判
の請求を却下した審決には,同項の「その査定の謄本の送達があつた日」の認定・判断につき誤
りがある

[コメント]
弁理士の業務形態として、個人名義で代理する場合と、特許業務法人として代理する場合、の
2つのパターンがあるが、個人名義で代理する場合の問題の一例を示す事案と言える。高齢の弁
理士で構成される事務所からの中途受任を受ける場合の救済方法の一例として参考になるかもし
れない。