IP case studies判例研究

平成22年(行ケ)10045号 「ポリマーの回収方法」事件

名称:「ポリマーの回収方法」事件
審決取消請求事件
知的財産高等裁判所:平成 22 年(行ケ)10045 号 判決日:平成 22 年 9 月 21 日
判決 : 請求認容
特許法29条2項
キーワード:進歩性、一致点及び相違点
[概要]
「本願発明は引用発明及び周知の技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることがで
きたから特許法29条2項により特許を受けることができない。」という審決が取り消された
事案。
[特許請求の範囲]
脱水スリットを有し、該脱水スリットが形成された位置よりも押出側にベントを有しない
二軸押出機に水を含むポリマーを供給し、該押出機内において上記ポリマーを供給側から押
出側に移動させつつ加圧しかつ加熱し、その後、該押出機の押出側端部において、該ポリマ
ーを押出機先端内部から押出機外部に押し出すことにより、該ポリマー中の水分を瞬時に気
化させて、該ポリマーを乾燥させることを特徴とするポリマーの回収方法。
[主な争点]
一致点及び相違点の認定に誤りがあるか
本願発明の「脱水スリット」と引用発明の溝付ブレーカボルトの「溝」とが、「水分を除去
する開口」という点で共通するといえるか。
(審決の認定した一致点)
「水分を除去する開口」を有し、水分を除去する開口が形成された位置よりも押出側にベ
ントを有しない二軸押出機に水を含むポリマーを供給し、押出機内においてポリマーを供給
側から押出側に移動させつつ加圧しかつ加熱し、その後、該押出機の押出側端部において、
ポリマーを押出機先端内部から押出機外部に押し出すことにより、ポリマー中の水分を瞬時
に気化させて、ポリマーを乾燥させるポリマーの回収方法 。
(審決の認定した相違点)
水分を除去する開口が、本願発明では、脱水スリットであるのに対して、引用例に記載さ
れた発明では、蒸気を直接外部へ逃すブレーカボルトに設けた溝である点 。
[原告の主張]
引用発明の溝付ブレーカボルトの「溝」は、「蒸気」を除去する開口の役割を果たすにすぎ
ず、本願発明と引用発明とは「開口を有し、開口が形成された位置よりも押出側にベントを
有しない」点で共通し、一方、「開口」が、本願発明では「水分」を除去する「脱水スリット」
であるのに対し、引用発明では「蒸気」を除去する「溝付ブレーカボルト」である点で相違
するものであり、審決は、かかる一致点及び相違点の認定判断を誤ったものである。
[被告の主張]
(※引用例のブレーカボルトの溝が、一種のベント(押出機に設けられ細孔を有する部材で
あることは当事者間に争いがない。)
ベントを介して水分を除去することは、乙1、甲9に示されるように技術常識であり、引
用例の「蒸気を直接外部へ逃す溝を設けたブレーカボルト」は「水分を除去する開口」であ
る。
[裁判所の判断]
押出成形に関する一般的な文献と解される甲17の1、甲17の2によると、通常のベン
トの大きさは、押出方向の長さがシリンダーの直径の約半分より大きく、約1.5倍以内と
なるものと認められる。これは、甲8、甲9及び乙1で描かれたベントの大きさとほぼ一致
している。
引用発明では、シリンダー径が4吋1/2(4.5インチ)とされているところ、引用発
明の押出乾燥装置のベントにつき、前記甲17の開示を参考にしてベントの断面積を計算す
ると、約6cm 2 ということになる。
これに対し,引用発明における実施例では,ブレーカーボルトに設けられた蒸気抜き用の
溝の断面積はおよそ0.0002cm 2 ということになる。この溝は、6個のブレーカボルト
に3本ずつ設けられているが、合計しても0.0036cm 2 にすぎず、水分を除去するため
の通常のベントの断面積の最小値である6cm 2 と比較すると約1600分の1となり、極め
て小さい孔ということができる。
ベントから排出される蒸気量や、液体としての水量は、ベントの断面積に大きく依存する
ことは明らかであるから、引用発明においてブレーカボルトに設けられた溝から排出される
蒸気量は、通常のベントと比べて極めて少量ということができ、クラムからの水分除去を意
図したものでないことは明らかであり、実質的にも水分を除去する機能はほとんどないとい
える。
実際、引用例(甲1)においても「本発明に係るブレーカボルト、表面の溝の役割は、押
出乾燥装置内部のゴム状重合体を外部に溢出させることなく蒸気だけを外部に逃がすことに
ある。」(段落【0018】)、ないし「・・・この溝を通じてシリンダー内圧の異常上昇の原
因となっている閉じ込められた蒸気を直接外部へ逃がし(段落【0027】)と記載され、ブ
レーカボルトの溝は、シリンダー内圧の異常上昇の原因となっている蒸気だけを排出するこ
とを前提とした記載となっている。
これに対し、本願発明における脱水スリットは、まさにポリマーから液体としての水を除
去するためのものであるから、仮に、引用発明において、蒸気の排出とともに水が除去され
るということができるとしても本願発明における水分除去とは異質なものといわざるを得ず、
本願発明の脱水スリットと、引用例(甲1)の「ブレーカボルト」に設けた溝とが、「水分を
除去する開口として一致するとはいえない。
よって、審決の一致点及び相違点の認定は誤りといわざるを得ない。
[コメント]
被告(特許庁)は、引用例のブレーカボルトの溝が一種のベントであり、ベントからポリ
マーの水分を除去することが従来から知られていることを理由に、ブレーカボルトの溝が「水
分を除去する開口」であると主張したが、当該主張は、引用発明のブレーカボルトの溝の技
術的意義から離れたものであり、裁判所の判断は妥当と思われる。

平成22年(行ケ)10045号 「ポリマーの回収方法」事件

PDFは
こちら

Contactお問合せ

メールでのお問合せ

お電話でのお問合せ