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平成24年(行ケ)10284号「強筋肉剤、抗炎症剤」事件

名称:「強筋肉剤、抗炎症剤」事件
特許権審決取消請求事件
知財高裁:平成 24年(行ケ)10284号 判決日:平成 25年3月 27日
判決:請求認容(審決取消)
条文:特許法29Ⅱ
キーワード:進歩性、動機づけ、用途
[事案の概要]
本件は,原告が,発明の名称を「強筋肉剤,抗炎症剤」とする発明について,特許出願を
したが,拒絶査定がなされたため,これに対する不服審判請求(不服2009-13517
号事件)をし,特許庁が,平成24年2月29日付けで拒絶理由通知をしたところ,原告は,
手続補正をしたが(本件補正),特許庁が,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決を
したため,その審決取消を求めた事案である。
[主な争点]
(1)動機づけ不存在(取消事由2)
[特許庁の判断(審決)]
審決は,相違点2に関し,「引用例4~6には,ダイズインのアグリコンであるダイゼイン
等の大豆イソフラボンがアルツハイマー病・・・,加齢による認識機能喪失・・・,痴呆・・・,
喘息・・・,及び心臓疾患・・・の処置に有効であることが記載されている。さらに,ダイ
ズインを有効成分とする大豆には,脳梗塞後の運動障害(中風脚弱),運動麻痺(四肢不随),
及び筋肉の引きつりに効果があり,また視力を良くする効果もあることは,いずれも当業者
に周知の事項である」として,「引用発明の組成物の具体的用途として,強筋肉剤,抗脳梗塞
後遺症剤,抗運動麻痺剤,抗喘息剤,抗視力減退剤,抗機能性心臓障害剤,または,抗痴呆
症剤といったものをさらに特定することは,当業者が格別の創意なくなし得たことである。」
と判断した。
[裁判所の判断(本判決)]
裁判所は,本願発明と引用発明の相違点2に係る容易想到性について,次のように判示し
て,審決を取り消した。
引用例1記載の発明は,美肌作用やアトピー性皮膚炎,湿疹,皮膚真菌症,色素沈着症,
尋常性乾癬,老人性乾皮症,老人性角化腫,火傷などの皮膚疾患の改善作用,発毛促進作用,
発汗促進作用,消化液分泌促進作用,利尿作用,便通促進作用等の生体活動の改善や,人体
機能の発現に関与する物質群の補給システムを中心とした生体活動の更なる改善手段(生体
に有害な環境ホルモンなどの体外への排出を高める作用も含む。)を提供することを課題とし,
体内から体外に向かって形成された水の流れを媒体とした人体機能の発現に関与する物質の
能動的な移送を真の目的とする津液作用と,酸素,栄養などのエネルギーを中心とする補給
の活性化作用である補血及び活血作用が,同時に促進されることが,人体にとって極めて有
用であることから,津液作用を有する生薬のエッセンス及びその活性成分から選ばれる1種
ないし2種以上と補血・活血作用を有する生薬のエッセンスから選ばれる1種ないし2種以
上とを組み合わせて使用することにより,上記課題を解決するものであることが認められる。
また,引用例1には,実施例においてシムノールサルフェート,ダイズイン等を含む健康食
品で,環境ホルモンの排出が促進されたことが記載されるが,アルツハイマー病,加齢によ
る認識記憶喪失,痴呆,喘息,心臓疾患,運動障害,運動麻痺及び筋肉の引きつり等に対す
る効果を示唆する記載はない。
一方,引用例2ないし4には,大豆イソフラボン等が,アルツハイマー病,加齢による認
識記憶喪失,痴呆,喘息及び心臓疾患等に効果があり,甲6には,コクダイズが運動障害,
運動麻痺及び筋肉の引きつり等に効果があり得ることが開示されているといえる。しかし,
引用例2は,COX-2,NF_B,ならびに COX-2 および NF_B の両者の生合成阻害剤である
フラボン化合物を開示するもの,引用例3は,ダイズ,および,その他,クローバーなどの
植物の成分であるイソフラボノイドを単離したものを,アルツハイマー型痴呆,および加齢
に伴うその他の認識機能低下を治療および予防するために使用することを特徴とする発明を
開示するもの,引用例4は,イソフラボン,リグナン,サポニン,カテキン,および/また
はフェノール酸を,栄養補給剤としてまたはより伝統的なタイプの食物中の成分として各自
が摂取する便利な方法を提供する発明を開示するもの,甲6は,コクダイズの成分,薬効等
を開示するものであって,いずれも引用例1記載の上記課題と共通する課題,とりわけ,生
体に有害な環境ホルモンなどの体外への排出を高める作用について記載しているとは認めら
れない。
そうすると,引用例1に接した当業者は,引用発明に含まれるダイズインが,環境ホルモ
ン排出促進ないしこれと関連性のある生理的作用を有することを予期し,そのような生理的
作用を向上させるべく,津液作用を有する生薬のエッセンス及びその活性成分と補血・活血
作用を有する生薬のエッセンスを組み合わせて使用することに想到するとは考えられるが,
ダイズインが,環境ホルモン排出促進と関連性のない生理的作用を有することにまで,容易
に想到するとは認められない。そして,当業者にとって,引用例2ないし4及び甲6に記載
されるアルツハイマー病,加齢による認識記憶喪失,痴呆,喘息,心臓疾患,運動障害,運
動麻痺及び筋肉の引きつり等に対する効果が,環境ホルモン排出促進ないしこれと関連性の
ある生理的作用であると認めるに足りる証拠はないから,当業者が,引用例1の記載から,
ダイズインが,上記の各効果をも有することに容易に想到すると認めることはできない。
したがって,引用例1には,引用例2ないし4及び周知の事項を組み合わせて,相違点2
に係る本願発明の構成とすべき動機づけが示されていないとして,相違点2に関する上記審
決の判断は誤りである旨の原告の主張は理由がある。
[コメント]
動機づけを否定した事案である。

平成24年(行ケ)10284号「強筋肉剤、抗炎症剤」事件

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