IP case studies判例研究

平成24年(行ケ)10090, 10414号「葉書付き広告用印刷物」事件

名称:「葉書付き広告用印刷物」事件
審決取消請求事件
知的財産高等裁判所 : 平成 24 年 ( 行ケ )10090 , 10414 号 判決日 : 平成 24 年 12 月 17 日
判決:請求認容
特許法29条2項
キーワード:動機付け
全文:http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20121225143420.pdf
[概要]
引用発明等から容易想到でないとされた審決が,引用発明は動機付けを含有するとして取
り消された事案。
[裁判所の判断]
取消事由2(訂正発明1,2の進歩性の判断の誤り)について
(1) 訂正発明1,2について
訂正発明は,中央面部又は一方の側面部に分離して使用するもの(例えば葉書等)が印刷
され,かつその葉書等の周囲に切り込みが入っている印刷物に関するものであるところ,分
離して使用するもの(葉書,チケット,クーポン券等)を広告等の印刷物より切り取る必要
がなく,かつその周囲に切り込みが入っているにもかかわらず,広告等の印刷物に付いてい
て紛失させることなく,しかも手間がかからず葉書,チケット,クーポン券等の分離して使
用するものを利用することができる印刷物を提供することを課題とし,その解決手段として,
左側面部(2)と右側面部(3)が中央面部とからなる印刷物であって,当該中央面部には
所定の箇所に所定の大きさの分離して使用するものが印刷され,当該分離して使用するもの
が落下しないように,当該分離して使用するものの裏面の一方の側面部に重なる所定の部分,
及び/又は一方の側面部の裏面の当該分離して使用するものに重なる所定の部分に一過性の
粘着剤が塗布されていること,当該左側面部の裏面及び当該右側面部の裏面,及び/又は当
該中央面部の裏面の分離して使用するものを除く所定の部分に一過性の粘着剤が塗布されて
おり,そのため,当該左側面部の裏面及び当該右側面部の裏面を当該中央面部の方へ折った
場合,当該中央面部に貼着し,かつ中央面部は当該分離して使用するものに貼着すること,
当該分離して使用するものの周囲に切り込みが入っていることからなるという構成を採用し
たものである。
(2) 甲1発明について
甲1発明は,製造過程での不良品の発生が少なく,高速・大量生産に好適で,かつカード
購入者にキーワード等の有価証券情報を正確に伝えることができ,また当該有価証券情報を
確実に隠蔽できるプリペイドカード付きシートを提供することを課題とし,その解決手段と
して,用紙を折り畳み,その用紙の折畳み対向紙片同士を疑似接着してなるとともに,上記
折畳み対向紙片の内側面に有価証券上を印字し,その有価証券情報の印字部を含む上記折畳
み対向紙片の一部に,これをプリペイドカードとして抜き取り可能とする加工を施してなる
ということを採用したものである。
(3) 上記 (2) からすれば,甲1発明は,プリペイドカードに記載された情報の隠蔽を課題とす
るものであることが認められる。
一方で,有価証券情報の印字部外周に施された抜き型による加工はプリペイドカードを抜
き取り可能とするためのものであるところ,これは,プリペイドカードが単に有価証券情報
をカード購入者に通知するのみならず,利用者による携帯を予定しているため,有価証券情
報が記載されているとともに有価証券情報を隠蔽してもいる折畳み対向紙片から分離させる
必要があるために設けられたものと解される。すなわち,購入者に交付されるシートからプ
リペイドカードを分離して使用できるようにすることも,請求項1~8にその構成が包含さ
れているのみならず,考案の詳細な説明にその構成が独立して説明されている事項であり,
甲1発明において技術的課題の一つとされていたというべきである。
そうすると,甲1発明は,折畳み対向紙片の内側面に印字された部分が有価証券情報のよ
うに隠蔽される必要のないものであっても,折畳み対向紙片の内側面の一部分を独立して抜
き取る(折畳み対向紙片から分離させる)必要性があれば,プリペイドカードに代えてかか
る分離させる必要があるものを採用するについての動機付けを含有するものというべきであ
る。
かかる見地から見るに,広告の一部に返信用葉書を切取り可能に設けることは,本件出願
前に既に周知の技術であったと認められる(特開2004-133065号公報〔甲3〕,特
開平3-55272号公報〔甲16〕)。そして,広告の一部に返信用葉書を設ける場合,返
信のために葉書部分を分離させる必要があることは明らかである。したがって,消費者等が
受領したシートや紙面から分離して使用するものとして,甲1発明の「プリぺイドカード」
に代えて「葉書」を採用することは当業者にとって容易想到であるというべきである。
(4) 別の角度からみるに,返信用葉書を備え付けた郵便物であって,当該返信用葉書に受取人
の個人情報(氏名・会員番号・生年月日・電話番号・性別・住所など),預金残高,借入金額
などの隠蔽すべき情報が予め記載されたものも本件出願前において周知の技術であったと認
められる(特開2000-177277号公報〔甲17〕,特開平2-108073号公報の
マイクロフィルム〔甲19〕)。したがって,隠蔽されるべき情報が記載され,かつ,顧客等
に送付ないし交付される郵便物や書面から分離して使用されるべきものとしてプリペイドカ
ードと葉書は共通する一面を有しているといえるから,甲1発明の「プリぺイドカード」に
代えて「葉書」を採用することは当業者にとって容易想到であるということもできる。
いずれにせよ,この判断と異なり,甲1発明の「プリペイドカード」に代えて「葉書」を
採用することは想到容易でないとし,甲1発明との間の相違点2,3に係る訂正発明1の構
成は容易想到ではないとした審決の判断は誤りであり,これを前提とした訂正発明1,2に
ついての容易想到性判断は誤りである。
(5) なお,審決は,「プリペイドカード」を筆記性が要求され,さらに大きさや厚さの基準が
定められている「葉書」に代える動機が甲1発明には見出せないとした。しかし,筆記性や
大きさや厚さといった基準の差異については,「分離して使用されるもの」の単なる物品特性
上の相違にすぎない。また,甲1発明が,プリペイドカード付きシートが購入者によって受
領された後はプリペイドカードを分離させることに意義があり,そこに技術的課題を見出し
たことからしても,「葉書」に筆記性が要求され,大きさや,厚さといった基準があるからと
いって,「プリペイドカード」を「葉書」に代える動機がないということはできないというべ
きである。
以上より,原告の主張する取消事由2(訂正発明1,2の進歩性の判断の誤り)には理由
があり取消しを免れないから,原告の請求を認容することとして,主文のとおり判決する。
[コメント]
近年、知財高裁において進歩性を緩やかに判断する傾向が続いているが、本判決は、進歩
性有りとした審決を、動機付けがあるとして取り消した。
本判決において、「考案が解決しようとする課題」に記載されている課題(プリペイドカー
ドに記載された情報の隠蔽)のみではなく、引用発明の構成や明細書中の記載から導かれる
課題(購入者に交付されるシートからプリペイドカードを分離して使用できるようにするこ
と)も、引用発明の課題の一つとして認定し、引用発明は、プリペイドカードに代えて葉書
を採用する動機付けを含有すると判断した点は参考になる。

平成24年(行ケ)10090, 10414号「葉書付き広告用印刷物」事件

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