審決取消請求事件 » 平成24年(行ケ)第10270号「気相成長結晶薄膜製造方法」事件

名称:「気相成長結晶薄膜製造方法」事件
平成24年(行ケ)第10270号 審決取消請求事件
知的財産高等裁判所第1部
判決日:平成25年4月24日
判決:審決取消
関連条文:特許法第29条第2項
キーワード:進歩性
全文:http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20130425135207.pdf

[概要]
進歩性欠如とした特許庁の審決の取消を求めた事案。

[本件発明]
【請求項1】
結晶薄膜の原料となる超微粒子又は化合物を水又は溶液に溶かしてゾル化した液体を準備し,超
音波を用いて,準備した液体から超微粒子又は化合物を含有した霧を発生させ,発生させたこの
霧を,搬送ガスを用いて高温炉の内部に搬入し,この高温炉の中で高温の超微粒子又は化合物と
高温の水又は溶液の霧に分解し,前記高温の水又は溶液の霧を排出しながら,前記高温の超微粒
子又は化合物を基板表面上に結晶を成長させて,結晶薄膜を作る気相成長結晶薄膜製造方法であ
って,
前記基板表面にマイクロ波を照射しながら高温の超微粒子を前記基板表面上に結晶を成長させる
ことを特徴とする気相成長結晶薄膜製造方法。

[前回判決(平成23年(行ケ)第10140号事件)]
当裁判所は,同年12月19日,本願発明1の「高温炉」においては,「超微粒子を含んだ霧粒
が高温炉の壁に接触することによって,高温の超微粒子と高温の水蒸気(又は溶剤)に分解する
ように,炉自体が,超微粒子化合物が分解する温度より低く,また超微粒子と水(溶剤)が分離
する温度以上の温度範囲の温度に加熱され」ている一方,引用発明(後記3の引用発明と同一。)
の「チャンバー」は,「プレートは加熱されているものの,チャンバー自体が加熱されるもので
はな」く,「引用発明の明細書(乙1)及び図面において,チャンバー自体が加熱されることや,
霧がチャンバーの壁に接触して分解されることは記載されていない」等として,引用発明の「チ
ャンバー」が本願発明1の「高温炉」に相当するとした前回審決の一致点の認定が誤っているこ
とを理由の一つとして,前回審決を取り消す旨の判決(当裁判所に顕著な事実。以下「前回判決」
という。)をした。

特許に関する審判において特許法29条2項(進歩性)の適用が問題とされる場合,その進歩性有無の検討は,
拒絶査定不服審判の例においては,
①出願に係る発明(本願発明)の確定,
②対比される各発明(1つのときは「引用発明」,複数のときは「主引用発明」(1つ)と「副引用(各)発明」)
の確定,
③本願発明と(主)引用発明との一致点の認定,
④本願発明と(主)引用発明との相違点(複数のことが多い)の認定,
⑤(各)相違点についての判断(当該相違が副引用発明・周知例から容易に克服できるものであったか),
の順で進められ,上記⑤についてその相違点が副引用発明等からして容易に克服できるものであると解されると
きは本願発明に進歩性はなく(特許性なし),逆に容易に克服できるものではないと解されるときは本願発明に
進歩性なしとはいえない(特許性あり),とするのが通例であり,本件審決もこれに従って判断がなされている。
ところで,審決がなした上記③にいう一致点の認定に誤りがあって,本願発明と(主)引用発明との一致点と
された事項が実は一致点ではなかったときは,当該事項に係る相違点についての認定判断がないままに(すなわ
ち相違点を看過して)判断したことになるから,その看過が重大な事項であるときは,審決は違法として取り消
すべきものと解される。

[相違点]
(4)相違点D
本願発明1は,「高温炉」の中で基板表面上に結晶を成長させているのに対し,引用発明では,
プレートが配設場所にある電気抵抗器により「約380℃から430℃の温度へ上昇させたチャ
ンバー」により多結晶化された酸化マグネシウムの付着層を生じさせると特定されている点

[裁判所の判断]
(1)本願発明1の特許請求の範囲に「この高温炉の中で高温の超微粒子又は化合物と高温の水
又は溶液の霧に分解し,前記高温の水又は溶液の霧を排出しながら,前記高温の超微粒子又は化
合物を基板表面上に結晶を成長させて,結晶薄膜を作る気相成長結晶薄膜製造方法」と記載され
ていること,及び本願明細書の【0003】,【0004】【0006】等の記載を参照するな
らば,本願発明1においては,高温炉は,その炉自体が,超微粒子化合物が分解する温度より低
く,また超微粒子と水(溶剤)が分離する温度以上の範囲の温度に加熱されるものであり,超微
粒子を含んだ霧粒が,高温炉の壁に接触することによって,高温の超微粒子と高温の水蒸気(又
は溶剤)に分解し,高温の超微粒子は基板表面に結晶薄膜を形成するものであると認められる。

このように,本願発明1の高温炉は,その壁に接触した超微粒子を含んだ霧粒を加熱して分解す
るためのものである。他方,引用発明のチャンバーについては,チャンバー自体が加熱されるこ
とや,霧がチャンバーの壁に接触して分解されることに関する記載はない。そして, 第2の1の
とおり,これらの技術的内容は, 確定した前回判決において,既に認定,判断された事項である。
本願発明1と引用発明の間の相違点についての容易想到性の有無を判断するに当たっては,前回
判決が指摘した本願発明1の「高温炉」と引用発明の「チャンバー」との相違点の技術的意義が
考慮されてしかるべきである。

(2)上記の点を踏まえて,引用発明に,引用文献2に記載された発明を組み合わせることによ
り,相違点Dに係る構成に至ることができるかを検討する。

(3)引用文献2の記載(特に【0008】【0009】【0017】)からすると,引用文献
2に記載された発明は,微粒子化された溶液中の化合物を,ヒータにより加熱される搬送ベルト
からの伝熱とマッフル炉内からの輻射熱によりあらかじめ加熱した膜形成用基板の表面に接触さ
せることにより,基板表面又は基板近傍で熱分解させるものである。したがって,引用文献2に
記載された発明のマッフル炉は,輻射熱によって膜形成用基板を加熱するためのものであって,
引用文献2には,マッフル炉の壁面に接触した超微粒子を含んだ霧粒が加熱されて分解されるこ
とについての記載はない。このように,引用文献2に記載された発明のマッフル炉は,輻射熱に
よって膜形成用基板を加熱するためのもので,その壁に接触した超微粒子を含んだ霧粒を加熱し
て分解するためのものではないから,引用発明に引用文献2に記載された発明(及び周知の技術
的事項)を組み合わせることによっては,相違点Dに係る構成に,容易に至ることはない。

<参考>
特許無効審判事件についての審決の取消訴訟において審決取消しの判決が確定したときは,審判
官は特許法181条2項の規定に従い当該審判事件について更に審理,審決をするが,審決取消
訴訟は行政事件訴訟法の適用を受けるから,再度の審理,審決には,同法33条1項の規定によ
り,取消判決の拘束力が及ぶ。そして,この拘束力は,判決主文が導き出されるのに必要な事実
認定及び法律判断にわたるものであるから,審判官は取消判決の認定判断に抵触する認定判断を
することは許されない。したがって,再度の審判手続において,審判官は,当事者が取消判決の
拘束力の及ぶ判決理由中の認定判断につきこれを誤りであるとして従前と同様の主張を繰り返し
あるいはその主張を裏付けるための新たな立証を許すべきではなく,取消判決の拘束力に従って
した審決は,その限りにおいて適法であり,再度の審決取消訴訟においてこれを違法とすること
はできない(最高裁昭和63年(行ツ)第10号平成4年4月28日第三小法廷判決・民集46
巻4号245頁)。