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平成24年(行ケ)10205「ニコチン遊離塩基を含む液体医薬製剤」事件

名称:「ニコチン遊離塩基を含む液体医薬製剤」事件
拒絶査定不服審判 審決取消請求事件
知的財産高等裁判所:平成 24 年(行ケ)10205
判決日:平成 25 年 2 月 14 日
判決:請求認容
特許法 29 条 2 項
キーワード:進歩性、動機づけ、阻害要因、用法の相違
全文:http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20130306112045.pdf
[概要]
引用発明1は口腔粘膜からの吸収を特に促進させる点に関する記載や示唆が存在しないため、
口腔粘膜からの吸収促進に関する引用発明2および3との組み合わせる動機づけがなく、また、
アルカリ性化したニコチンの問題点が周知であったため阻害要因が認められるとして、進歩性を
肯定した事例。
[特許請求の範囲]
ニコチン遊離塩基を含む液体医薬製剤であって、スプレーにより口腔に投与するためのもので
あり、そして緩衝および/またはpH調節によってアルカリ性化されていることを特徴とする液
体医薬製剤。
[取消事由]
本願発明の容易想到性に係る判断の誤り
(1)一致点及び相違点の認定の誤り
(2)相違点に係る判断の誤り
[裁判所の判断]
(1)一致点及び相違点の認定の誤り
原告は、引用発明1の薬剤は、スプレーにより口腔や鼻腔に導入されるものではあるが、本質
的には、口腔粘膜のみならず鼻腔粘膜や肺に投与することを意図したものであって、本願発明に
おける「口腔に投与するためのもの」とは、その技術的意義が異なるものであると主張する。
しかしながら、一致点の認定は、本願発明との対比において行われるものである以上、引用発
明1に本願発明が想定しない「口腔に投与するためのもの」以外のニコチン摂取態様が含まれる
からといって、本願発明と引用発明1とに共通する「口腔に投与するためのもの」という用途に
ついて一致点として認定することが妨げられるものではない。
(2)相違点に係る判断の誤り
引用例2及び3には、口腔粘膜からのニコチン吸収がアルカリ環境で促進されることが開示さ
れているということができる。 しかしながら、引用発明1は、使用者の好みに応じて、口腔粘膜
のみならず鼻腔粘膜や気道などからもニコチンが吸入されることを念頭においた薬剤であるから、
口腔粘膜からの吸収を特に促進する必要性を認めることはできないし、引用例1には、口腔粘膜
からの吸収を特に促進させる点に関する記載や示唆も存在しない。
したがって、引用発明1に、引用発明2及び3を組み合わせることについて、動機付けを認め
ることはできない。
被告は、引用例2には、口腔粘膜を通じた吸収における経口投与において、アルカリ性緩衝化
処方によるニコチン製剤が用いられること及びニコチンの味を隠すための味付けが可能であるこ
とが記載されているから、引用例2は、引用発明1の薬剤をアルカリ性化することの阻害事由を
根拠付けるものではない、引用例3には、スプレーによるニコチン投与があまり快適ではないこ
とに関する具体的な記載はないから、ニコチン摂取におけるスプレー投与の利用そのものを阻害
する事由が記載されているということはできないと主張する。
しかしながら、引用例2は、ニコチン薬用ドロップ、錠剤、カプセル、ガム等を使用すること
により、ニコチンを経粘膜投与する発明に係る文献であるから、引用発明2のニコチン摂取の方
法は、本願発明及び引用発明1の吸入方法とは大きく異なるものである。前記のとおり、アルカ
リ性化されたニコチンが与える生理的悪影響は、苦くて舌を焼くような味、粘液膜上での刺激性
の感覚、ひりひりする刺激をもたらすものであるから、ドロップ等により服用する際における味
付け程度で解消するものということはできない。
また、引用例3に、スプレーによるニコチン投与の問題点が具体的に記載されていないとして
も、前記のとおり、アルカリ性化したニコチンの問題点が周知であった以上、阻害事由を認める
ことができることは明らかである。
[コメント]
取消事由1について、経口投与による用法の相違を主張するためには、例えば、従来経口投与
では吸収性や安定性の観点から困難であった等の事情があることが必要である。本件の取消事由
1について、裁判所の判断は妥当である。
本件の実質的な争点は、「(取消事由2)相違点に係る判断の誤り」である。
引用例1は、口腔粘膜からの吸収を特に促進するとの課題を有しておらず、裁判所は、口腔粘
膜からのニコチン吸収がアルカリ環境で促進させるための引用例2、3を引用例1に組み合わせ
る動機づけがないと判断した。主引例の課題を詳細に検討する、近年の裁判所の傾向に沿うもの
である。
また、アルカリ性化したニコチンの刺激性の局所感覚の問題点が周知であるとして、引用例1
に引用例2、3を組み合わせることの阻害要因が認められたことに関し、ニコチンの刺激性を被
告が主張するような味付け等で解消できるかどうかについてまで裁判所が検討している点で興味
深い。

平成24年(行ケ)10205「ニコチン遊離塩基を含む液体医薬製剤」事件

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