審決取消請求事件 » 平成24年(行ケ)10177号「洗浄剤組成物」事件

名称:「洗浄剤組成物」事件
無効不成立審決取消請求事件
知的財産高等裁判所:平成 24 年(行ケ)10177 号 判決日:平成 25 年 2 月 27 日
判決:請求棄却(有効維持)
特許法29条2項
キーワード:進歩性、不純物、相乗効果

[概要]
被告の有する特許に対する無効審判の不成立審決を受けた原告がその取消を求めたのに対
し、請求棄却(有効維持)判決がなされた事案。

[本件発明]
【請求項1】水酸化ナトリウム,アスパラギン酸二酢酸塩類及び/またはグルタミン酸二酢
酸塩類,及びグリコール酸ナトリウムを含有し,水酸化ナトリウムの配合量が組成物の0.
1~40重量%であることを特徴とする洗浄剤組成物。

[甲2発明との主な相違点]
(ウ) 相違点3’
本件発明1は「水酸化ナトリウム」を含有し,その「配合量」は「組成物の0.1~40重
量%」と規定するのに対し,引用発明1bは水酸化ナトリウムの含有を規定していない点

(エ) 相違点4’
本件発明1は「グリコール酸ナトリウム」の含有の位置づけを規定していないのに対し,引
用発明1bは「グリコール酸ナトリウム」を「二次的反応によって生成した不純物」として
含有するものと規定する点

[争点]
(1) 無効理由1に係る本件発明1の相違点4’の容易想到性判断の誤り(取消事由1)
(2) 無効理由1に係る本件発明1の容易想到性判断の誤り---格別の効果(取消事由2)

[裁判所の判断]
取消事由1(相違点4’の容易想到性判断の誤り)及び取消事由2(格別の効果)を併せ
て判断する。

本件発明1の洗浄剤組成物は,水酸化ナトリウム,アスパラギン酸二酢酸塩類及び/又は
グルタミン酸二酢酸塩類,並びにグリコール酸ナトリウムの3成分から構成され,かつ,グ
リコール酸ナトリウムは主成分である3成分の一つである。これに対し,引用発明1bの金
属イオン封鎖剤組成物は,上記3成分の一つである水酸化ナトリウムを含まない点で,その
構成成分が異なるのみならず,グリコール酸ナトリウムはグルタミン酸二酢酸のナトリウム
塩を得る際に,二次的反応により生成される不純物であり,金属イオン封鎖剤の封鎖力を高
める効果を奏しない不要な成分であると解されていた点で,その技術的意義において,相違
する。

また,本件明細書の表1によると,本件発明1の洗浄剤組成物は,従来品であるEDTA
を含有した洗浄剤と同等の洗浄効果を奏すること,グリコール酸ナトリウムの配合によりそ
の洗浄効果が高まっていることが認められる。これに対し,引用発明1bにおける金属イオ
ン封鎖剤組成物は,グルタミン酸二酢酸塩類とグリコール酸ナトリウムを含み,水酸化ナト
リウムを含まないものであるが,甲1文献のFig1及び2によると,この金属イオン封鎖
剤組成物の金属イオン封鎖力はTPPよりは優れているものの,EDTA四ナトリウム塩よ
りは劣る。

以上によると,本件発明1の洗浄剤組成物は,水酸化ナトリウム,アスパラギン酸二酢酸
塩類及び/又はグルタミン酸二酢酸塩類,並びにグリコール酸ナトリウムの3成分を主成分
とすることにより,その相乗効果によって,EDTAを含有した洗浄剤と同等の洗浄効果を
奏するといえる。

甲1文献にはこの点について,何らの示唆もない。また,甲2ないし6にも,この点につ
いて何の示唆もない。したがって,洗浄剤組成物が上記3成分を主成分とし,それによって,
洗浄効果を高める効果がある点では,当業者が予測し得ない効果であると認められ,本件発
明1は,甲1文献や甲2ないし6から,当業者が容易に想到し得ないものといえる。

(原告の主張について)
原告は,グルタミン酸二酢酸塩とグリコール酸ナトリウムを含有する金属イオン封鎖剤組
成物OS1を含む洗浄剤組成物は既に知られており,グルタミン酸二酢酸塩にグリコール酸
ナトリウムを組み合わせると洗浄効果が上がることを後に確認しても,その効果は,公知の
洗浄剤組成物において既に内在しているものであることから,効果の点から本件発明1の進
歩性を認めるのは不合理であると主張する。

しかし,甲1文献には,グルタミン酸二酢酸のナトリウム塩60重量%,グリコール酸ナ
トリウム12重量%を含有する金属イオン封鎖剤組成物OS1は開示されているが,OS1
を含む洗浄剤組成物に水酸化ナトリウムが含まれることは開示されていない。本件発明1(水
酸化ナトリウム,アスパラギン酸二酢酸塩類及び/又はグルタミン酸二酢酸塩類,並びにグ
リコール酸ナトリウムの3成分を主成分とする洗浄剤組成物)は,本件特許の優先日前に公
知ではなく,本件発明1における前記効果が甲1文献等公知の洗浄剤組成物から予測できた
ものとすることはできない点は,前記のとおりである。

加えて,本件は,当業者の間では,従来,グリコール酸ナトリウムは,グルタミン酸二酢
酸のナトリウム塩を高収率で得ることを阻害する二次的反応によって生成された不純物であ
ると認識されていたことに対して,本件発明1では,逆に,グリコール酸ナトリウムを組み
合わせることが,洗浄効果を上げるに当たって有益である旨を確認して,必須の構成とした
ものであり,その点は,本件発明1の進歩性を認める上で,参酌されるべき一つの要素とな
り得るといえる。

[コメント]
構成の相違及び効果の顕著性を有することを前提として、ある要素を不純物として消極的
に規定していた従来技術に対し、その要素を主成分として積極的に規定した本件発明の進歩
性が認められた事案である。不純物といってもその物自体の一部構成としては同一である要
素を含めて権利化したい場合には、他の要素を追加して異なる構成とするとともに、効果の
差異を主張可能なようにしておけば、本件発明の進歩性を認められやすくなると考えられる。

なお、甲1文献においては不純物(グリコール酸)を含む組成物をも「実施例」とし、本
件明細書においてグリコール酸が副生成物である旨が記載されている。さらに、甲1文献で
は、過剰の苛性ソーダ(水酸化ナトリウム)存在下で反応させており、反応液pHもアルカ
リ性を示している。これらの点を総合すると、甲1文献の(精製していない)反応液に(不
純物であるグリコール酸とともに)水酸化ナトリウムが含まれているとも考えられ、そうで
あれば、原告としては新規性違反を問うこともできたのではないであろうか。技術面での詳
細な検討も求められる。