審決取消請求事件 » 平成23年(行ケ)10284号「オープン式発酵処理装置並びに発酵処理法」事件

名称:「オープン式発酵処理装置並びに発酵処理法」事件
審決取消請求事件
知的財産高等裁判所 : 平成 23 年 ( 行ケ )10284 号 判決日 : 平成 24 年 5 月 23 日
判決:請求認容
特許法29条2項
キーワード:容易想到性

[概要]
被告からの無効審判請求に基づき原告の特許を無効とする審決の取消を求めた事案。

[裁判所の判断]
(1) 甲第2号証には,従来技術及び実施例として,処理槽(発酵槽)の長尺方向の縁の両側に
レールを設け,処理槽を跨ぐように設けられ,レール上を車輪で走行する架台に撹拌機を搭
載し,この架台を長尺方向に往復走行させて被処理物を撹拌する構成が記載され,甲第3号
証にも,実施例として,堆積槽(発酵槽)の長尺方向両側にU字溝ないし溝によらない走行
路を設け,堆積槽を跨ぐように設けられ,走行路を車輪で走行する台車に撹拌機を搭載し,
この台車を長尺方向に往復走行させて被処理物を撹拌する構成が記載されている。したがっ
て,本件出願当時,発酵槽の長尺方向の側壁ないし縁部にレールや溝を設けたり,あるいは
レール等を設けずに単に走行路を設定して,発酵槽の上方を跨ぐような構造を有する台車が
この走行路を車輪で往復走行できるようにし,かつこの台車に,回転軸に撹拌のためのパド
ル等が取り付けられており,正回転,逆回転による回転動作(撹拌動作)が自在な撹拌機を
搭載する程度までのことは,当業者の周知技術にすぎなかったということができる。そして,
甲第2,第3号証に記載されたかかる周知技術と引用発明はその技術分野が共通であり,甲
第2,第3号証に記載された発酵槽(処理槽,堆積槽)が,引用発明の発酵槽と同様に,内
部を隔壁で物理的に区切らない単一槽であることまでは是認できる。

(2) しかしながら,甲第2号証には,「水産加工廃棄物等の被処理物(A)を走行散布ホッパ
ー(10)により第2図示の如く発酵槽(1)の略全長に亘り堆積する。・・・これらフォー
ク(6)・・・(6)の先端爪部(6c)・・・(6c)により被処理物(A)をその全体に亘
り攪拌する。」(5頁15行~6頁7行)と記載されているのみで,台車を所望の位置に動か
して,所望の範囲(領域)で撹拌動作を指定した頻度(回数)で行うことで,領域ごとに被
処理物の滞留日数及び撹拌頻度を管理することは記載されていない。また,甲第3号証にも,
従来の撹拌機につき「第1図に示す攪拌機は,・・・堆積された畜糞を撹拌しつつ一方に向か
つて搬送するものである。」(2頁4行~9行)と記載され,被処理物を撹拌しながら他方に
向かって送り出すことが開示されているのみで,台車を所望の位置に動かして,所望の範囲
(領域)で撹拌動作を指定した頻度(回数)で行うことで,領域ごとに被処理物の滞留日数
及び撹拌頻度を管理することは記載されていない。
他方,前記のとおり,引用発明が解決しようとする課題は,発酵槽内を複数の領域に概念
的,論理的に区切り,領域ごとに被処理物の滞留日数及び撹拌頻度を管理する点にあり(甲
1の2頁左下欄10~16行),引用発明の撹拌機も,下記第1図のとおり,発酵槽(1)内
からいったん移動通路(15)上に移動させた後,移動通路上を発酵槽の長尺方向に沿って
他の領域の前(開口部側)まで移動させ,再度発酵槽内に移動させることによって,上記の
領域ごとの被処理物の撹拌頻度の管理を可能にするものである。
したがって,引用発明においては,撹拌機の構成と移動通路とは機能的に結び付いている
ものである。
そうすると,引用発明の発酵処理装置の構成から移動通路(15)を省略し,かつ奥行き
方向に往復して撹拌する撹拌機の構成を長尺方向にのみ往復移動しながら撹拌動作する甲第
2,第3号証から認められる周知技術に係る撹拌機の構成に改め,同時に概念的,論理的に
複数に区切られた発酵槽内の領域を,発酵槽開口部の所望の個所から被処理物の投入・堆積・
取出しを行うことができるようにするべく,領域ごとに被処理物の滞留日数及び撹拌頻度を
管理することができるようにすることは,甲第2,第3号証に表れる構成が当業者に周知の
ものであるとしても,本件出願当時,当業者において容易ではあったと認めることはできな
い。したがって,これと異なる「引用発明において採用する撹拌方式に替え,上記周知の撹
拌方式を採用することで本件発明1における発明特定事項に想到することは,当業者であれ
ば容易になしうるところである。」との審決の判断は誤りである。