審決取消請求事件 » 平成23年(行ケ)10208号拒絶審決取消請求事件

名称:拒絶審決取消請求事件
知的財産高等裁判所
平成23年(行ケ)10208号
判決:請求認容
特許法第29条第2項
キーワード:進歩性

[概要]
本願発明の印刷装置において、被印刷体上の複数のインク層が重なり合ったものであり、
かつ一番目のインク層の粘度が二番目のインク層の粘度より高くされることについて、その
ような記載のない引用文献の記載に基づいて、当業者が適宜なし得た設計上のことであり、
容易想到であり、特許法第29条第2項に該当するとして拒絶審決がなされた。これに対し、
引用発明においては、本願発明の解決課題、解決方法は記載されておらず、引用発明から本
願発明のような印刷法を採用する動機づけはないとして、審決が取り消された事例

[請求項の記載]
(請求項4)複数の重なり合ったインク層を被印刷体に順次的に塗布する装置であり、以下
を含む装置:
被印刷体の経路および、前記印刷体を前記経路に沿って移送する被印刷体ドライブ;
前記経路に沿って位置する、複数のインク付けステーション、ここで当該インク付けステ
ーションは希釈剤を含み粘度が周囲条件下で4000cps 以下のインクを、前述の被印刷体
に塗布するように適合されている;
前記経路に沿った前記被印刷体の移送を制御するコントロールシステム、
ここで、前記一番目のインク層から前記希釈剤の一部が蒸発することにより、前記インク
付けステーションで前記被印刷体に塗布された一番目の液体インク層の粘度が増加し、前記
被印刷体が前記インク付けステーション間を移行する際、前記一番目のインク付けステーシ
ョンから間隔を置いて位置する次のインク付けステーションにおいて前記一番目のインク層
上に塗布される前記二番目の液体インクをウェットトラップするように、一番目のインクの
粘度が二番目のインクの粘度よりも高くされる。

[争点]
1) 一致点の認定の誤りおよび相違点の認定の誤りがあるか否か
2) 容易想到性の判断の誤りがあるか(被印刷体上の複数のインク層が重なり合ったもので
あり、かつ一番目のインク層の粘度が二番目のインク層の粘度より高くされることにつ
いて)
3) 本願発明の効果(処理速度の向上、生産性向上、経費節減効果)に関する判断の誤りが
あるか否か

[裁判所の判断]
1) 本願発明は、ウェットトラップ印刷法に関して、従来これによって生じる課題の解
決を目的としたものであり、一番目のインク層から希釈剤の一部が蒸発することにより、
前記インク付けステーションで被印刷体に塗布された一番目の液体インク層の粘度が増
加し、二番目の液体インクをウェットトラップするように、一番目のインクの粘度が二
番目のインクの粘度よりも高くされる」との構成を含んでいる。一方、引用発明は、粘
度の異なるインクの印刷ユニットを複数並べ、それぞれの印刷ユニットの長所を活かし
て、ベタ刷りも、細線印刷も美しく仕上げることのできる印刷装置を提供するものであ
るが、それらのインクを重ね刷りすることを前提としたものではなく、重ね刷りによる
課題の解決を目的としたものでもない。従って、本願発明の上記ウェットトラップに関
する構成について、当業者が引用発明に基づいて容易に発明をすることができたものと
いうことはできない。
2) 被告は、引用発明において、複数のインク層を前のインクが乾燥してから印刷する
必然性はないこと、引用発明がウェットトラップを利用しないものとはいえない、と主
張する。しかし、引用発明は、重ね刷りによる課題解決を目的としたものではないから、
引用発明からウェットトラップ印刷法を採用する動機付けは生じない。