IP case studies判例研究

平成30年(ワ)第16555号「敗血症及び敗血症様全身性感染の検出のための方法及び物質」事件

名称:「敗血症及び敗血症様全身性感染の検出のための方法及び物質」事件
特許権侵害差止等請求事件
東京地方裁判所:平成30年(ワ)第16555号 判決日:令和1年10月29日
判決:請求棄却
特許法100条1項
キーワード:構成要件充足性
判決文:http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/046/089046_hanrei.pdf
[概要]
被告装置及び被告キットを使用すると、プロカルシトニン3-116とプロカルシトニン1-116とを区別することなく、いずれをも含み得るプロカルシトニンの濃度を測定することができ、その測定結果に基づき敗血症等の鑑別診断等が行われていると認めら、被告装置及び被告キットを使用して敗血症等を検出する過程で、プロカルシトニン3-116の量が明らかにされているとは認められないことから、被告方法は、本件発明の技術的範囲に属するものではない、と判断された事例。
[事件の経緯]
原告は、特許第5215250号の特許権者である。
被告は、平成29年8月ころから、日本国内の医療機関、研究機関等に向けて、被告製品の製造等を行っている
原告は、被告の行為が当該特許権を侵害すると主張して、被告の行為の差止め等を求めた。
東京地裁は、原告の請求を棄却した。
[特許請求の範囲の記載]
【請求項1】
A 患者の血清中でプロカルシトニン3-116を測定することを含む、
B 敗血症及び敗血症様全身性感染を検出するための方法。
[被告方法]
被告装置は、試薬表面上の反射光強度を連続的に測定し、測定結果に基づいて試薬の測定対象の濃度値を算出するものであり、被告キットは、検体中のプロカルシトニンを検出するために用いられる被告装置の専用試薬である。
被告コントロールは、被告キットを使用して、血漿又は全血中のプロカルシトニンの濃度を測定する際に、被告装置による測定精度を管理するために用いるものである。
被告製品は、一体として、検体中のプロカルシトニンを検出し、敗血症及び敗血症様全身性感染(以下「敗血症等」という。)の診断に用いられるものであるが、被告方法による測定は、プロカルシトニン1-116とプロカルシトニン3-116とを区別してそれぞれの濃度を測定することはできない。
[争点]
(1)被告方法は本件発明の技術的範囲に属するか(争点1)
ア 「血清中で・・・測定する」の充足性(構成要件A)(争点1-1)
イ 「プロカルシトニン3-116を測定する」の充足性(構成要件A)(争点1-2)
(2)被告装置及び被告コントロールについての間接侵害の成否
(3)無効の抗弁の成否(争点3)
[裁判所の判断](筆者にて適宜抜粋)
『2 争点1-2(「プロカルシトニン3-116を測定する」の充足性)
(1) 「プロカルシトニン3-116を測定する」の意義
・・・(略)・・・特許請求の範囲の記載からは、構成要件Aの「プロカルシトニン3-116を測定すること」とは、敗血症等を検出するため、血清中に含まれるプロカルシトニン3-116の量を明らかにすることを意味するものと解するのが自然である。
イ また、・・・(略)・・・敗血症等の患者の血清中に比較的高濃度で検出可能なプロカルシトニンについて、従前プロシカルシトニン1-116と暫定的、一般的にみなされるなどしていたところ、本件発明は、敗血症等の患者の血清中に比較的高濃度で検出可能なプロカルシトニンが、プロカルシトニン1-116ではなく、プロカルシトニン3-116であるという発見に基づき、新規な敗血症等の診断方法を提供することを目的とするものである。そして、本件明細書の発明の詳細な説明には、「プロカルシトニン3-116を測定すること」の意義について、特段の記載はない。そうすると、本件明細書の記載からも、構成要件Aの「プロカルシトニン3-116を測定すること」とは、敗血症の検出のため、上記の発見に基づきプロカルシトニン3-116の量を明らかにすることを意味し、その測定結果が敗血症等の検出に用いられることと理解できる。
ウ 原告は、構成要件Aの「プロカルシトニン3-116を測定すること」とは、プロカルシトニン3-116を敗血症等の検出に必要な精度で測定することをいい、プロカルシトニン1-116と区別してプロカルシトニン3-116を特異的・選択的に測定することを必須とするものではない旨主張し、その根拠として、本件明細書の実施例において、プロカルシトニン3-116を特異的・選択的に測定することが困難なイムノアッセイによりプロカルシトニンの濃度を測定することが記載されていること、本件明細書の記載等を踏まえると、患者の血清中でプロカルシトニン1-116とプロカルシトニン3-116とを区別することなくプロカルシトニン一般を測定したとしても、その濃度は、おおよそプロカルシトニン3-116の濃度であり、測定されたプロカルシトニン3-116の濃度は敗血症等の検出に必要な精度になっていることを指摘する。
しかし、本件明細書のイムノアッセイによる測定に関する記載について、正常者及び敗血症患者の血清中のプロカルシトニン濃度の測定結果と、これと同時に行われたこれらの者の血清中のプロホルモン濃度の測定結果と対比することにより、正常者と敗血症患者の間の濃度の差異がプロカルシトニンにおいて際立っていることを示すものである旨の記載があることからすると(段落【0059】【0062】【0063】【表3】)、上記測定は、「敗血症及び敗血症様全身性感染を検出するための方法」の実施例であるとは認められないから、原告の上記主張の根拠となるとは認められない。
また、仮に、敗血症患者の血清中に含まれるプロカルシトニンの大部分がプロカルシトニン3-116であるという関係があるとしても、プロカルシトニン3-116を測定することとプロカルシトニン一般を測定することが同義とはいえないことは明らかである、また、敗血症等であるかどうかが明らかではない患者については、その血清中のプロカルシトニンの大部分がプロカルシトニン3-116であるかどうかは明らかではないといえるほか、本件明細書には、患者の血清中のプロカルシトニン濃度を測定することにより敗血症等を検出する技術は本件発明の優先日前に従来技術として存在したところ、本件発明は、従来技術に対して新規のものである旨が記載されているのであって、原告の主張は採用することはできない。以上によれば、原告の主張には理由がなく、これを採用することはできない。
エ 以上によれば、構成要件Aの「プロカルシトニン3-116を測定すること」とは、プロカルシトニン3-116の量を明らかにすることを意味するものと解される。
(2) 前記前提事実(・・・(略)・・・)のとおり、被告装置及び被告キットを使用すると、プロカルシトニン3-116とプロカルシトニン1-116とを区別することなく、いずれをも含み得るプロカルシトニンの濃度を測定することができ、その測定結果に基づき敗血症等の鑑別診断等が行われていると認められる。被告装置及び被告キットを使用して敗血症等を検出する過程で、プロカルシトニン3-116の量が明らかにされているとは認められない。したがって、その余の点について判断するまでもなく、被告方法は、構成要件Aを充足するものとは認められない。』
[コメント]
特許請求の範囲の記載からすれば、被告装置および被告キットの使用は、本件特許の技術的範囲に属するように思えるが、裁判所は、明細書の記載(課題、新規な発見)等を参酌した上で、「プロカルシトニン3-116を測定すること」とは、敗血症等を検出するため、血清中に含まれるプロカルシトニン3-116の量を明らかにすることを意味する、と解釈して、被告の行為は本件特許の構成要件を充足するものとは認められないと判断しており、その結論には賛成できる。
以上
(担当弁理士:丹野 寿典)

平成30年(ワ)第16555号「敗血症及び敗血症様全身性感染の検出のための方法及び物質」事件

PDFは
こちら

Contactお問合せ

メールでのお問合せ

お電話でのお問合せ