侵害差止等請求事件 » 平成31年(ネ)第10005号「骨切術用開大器」事件

名称:「骨切術用開大器」事件
特許権侵害行為差止請求控訴事件
知的財産高等裁判所:平成31年(ネ)第10005号 判決日:令和元年7月24日
判決:控訴棄却
特許法100条
キーワード:文言侵害
判決文:http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/846/088846_hanrei.pdf

[概要]
原審においては、被告製品が、文言上本件発明の技術的範囲に属さないものの、本件発明と均等なものとして本件発明の技術的範囲に属するとされたことに対して、本控訴審においては、本件発明の意義に基づいて、本件発明の文言が、原審での解釈よりも広く解釈されたことによって、被告製品は、文言上本件発明の技術的範囲に属すると判断された事例。

[事件の経緯]
被控訴人(原審原告)は、特許第4736091号の特許権者である。
被控訴人原告は、控訴人(原審被告)の行為が当該特許権を侵害すると主張して、控訴人被告の行為の差止め等を求めた(東京地裁平成29年(ワ)第18184号))ところ、東京地裁が、被控訴人の請求を認容する判決をしたため、控訴人は、原判決を不服として、控訴を提起した。
知財高裁は、控訴人の控訴を棄却した。

[本件発明]
【請求項1】
A 変形性膝関節症患者の変形した大腿骨または脛骨に形成された切込みに挿入され、該切込みを拡大して移植物を挿入可能なスペースを形成する骨切術用開大器であって、
B 先端に配置されたヒンジ部により相対的に揺動可能に連結された2対の揺動部材と、
C これら2対の揺動部材をそれぞれヒンジ部の軸線回りに開閉させる2つの開閉機構とを備え、
D 前記2対の揺動部材が、前記ヒンジ部の軸線方向に着脱可能に組み合わせられており、
E 前記2対の揺動部材の一方に、他方の揺動部材と組み合わせられたときに、該他方の揺動部材に係合する係合部が設けられている骨切術用開大器。

[被告製品]
被告製品では、係合部に相当する角度調整器のピン及び留め金の突起部が揺動部材とは別部材である

[原審]
1.文言侵害の判断
本件発明と被告製品との異なる部分は、本件発明では、係合部が一方の揺動部材の一部分を構成するものであるのに対し、被告製品では、係合部に相当する角度調整器のピン及び留め金の突起部が揺動部材とは別部材である点とし、被告製品は、構成要件Eを充足しないとされた。
その結果、被告製品は、文言上、本件発明の技術的範囲に属さないとされた。
2.均等侵害の判断
一方、進歩性欠如の拒絶理由を解消するために補正で追加した発明特定事項のうち、一部のみが、発明の本質的部分と認定された結果、本件発明に対する被告製品の異なる部分が、当該補正で追加した発明特定事項に含まれているものの、特許発明の本質的部分ではないとして、均等の第1要件が満たすと判断された。
さらに、本件発明の特許出願手続きにおいて、当該異なる部分の構成を特許請求の範囲から意識的に除外したと認めることはできないとして、均等の第5要件も満たすと判断された。
その結果、被告製品は、本件発明と均等なものとして本件発明の技術的範囲に属するとされた。

[争点]
・争点1-3:被告製品が構成要件Eを充足するか
※それ以外の争点は、省略する。

[裁判所の判断](筆者にて適宜抜粋)
『ア 「係合部」の意義
・・・(略)・・・。また、請求項1においては、係合部が設けられている揺動部材と他方の揺動部材が、それぞれ開閉機構を有することが規定されるのみで、いずれの開閉機構をどのような手順で操作するかについては何ら特定がなく、前述の本件発明の技術的意義からもかかる点につき限定する理由はないから、係合部を設けた揺動部材の側に力を加えることによって、他の揺動部材が同時に開く仕組みになっていることは、本件発明において必須の構成ではない。
以上を踏まえると、構成要件Eの「係合部」とは、これによって外力を伝達し、その結果、いずれか一方の揺動部材の開操作をもって、2対の揺動部材を同時に開くことを可能にするものであるというべきである。
イ 「揺動部材の一方に…係合部が設けられている」の意義
・・・(略)・・・。当該文言自体からは、「係合部」が一方の揺動部材と一体であるのか、別の部品であるのかを読み取ることはできない。前記の本件発明の技術的意義に照らしても、「係合部」が一方の揺動部材と一体のものでなければその機能を果たせないとはいえず、別の部品によって係合部を設けることを除くべき根拠は見当たらない。そうすると、係合部が揺動部材に「設けられている」という構成が、係合部が揺動部材の一部を構成しているものに限定されるとはいえない。
そして、「揺動部材の一方に…係合部が設けられている」という特許請求の範囲の文言に照らすと、係合部が、「一方の」揺動部材に設けられていることを要することは明らかである。このことは、特許請求の範囲における請求項3及び4が、2対の揺動部材について、いずれに「係合部」が設けられているかを区別できることを前提としていることからも裏付けられる。
以上によれば、「揺動部材の一方に…係合部が設けられている」とは、「係合部」が、揺動部材に設けられており、かつ、それが2対のいずれの揺動部材に設けられているのか区別できることを要し、またそれをもって足りると解される。
ウ 「他方の揺動部材と組み合わせられたときに」の意義
・・・(略)・・・
かかる特許請求の範囲の文言の自然な解釈として、少なくとも2対の揺動部材が組み合わせられて使用開始される時点では、係合部により2対の揺動部材が係合されていなければならないと解される。
そして、その終期は、特許請求の範囲の文言からは明らかではないが、本件明細書から導かれる「係合部」の意義(前記ア)に照らすと、少なくとも2対の揺動部材を同時に開いていく間、係合部が2対の揺動部材を係合していれば足りると解される。
エ 控訴人の主張について
・・・(略)・・・。本件明細書においても、「部」及び「部材」の意義を明示する記載や、これらの区別を明示する記載は存在せず、本件明細書における用例からも上記の語の意義や区別の基準は窺われない。既に述べたとおり、「係合部」は、一方の揺動部材に「設けられている」ものである以上、「係合部」を含めた揺動部材を全体としてみれば、「係合部」はその一部分であるといえるが、別の部材で構成することが排斥される訳ではない。
そして、出願経過についてみると、被控訴人は本件意見書において、「本発明は、2組の揺動部材を備える点、および、揺動部材の一方に、他方に係合する係合部を備える点において、引用文献1に記載された発明…と相違しています。」と記載している。しかし、この記載は、係合部の備え方として揺動部材と一体の構成か別の部品かを特定したものではないから、本件意見書の記載は控訴人の主張を裏付けるものとはいえない。
・・・(略)・・・。
オ 被告製品との対比
・・・(略)・・・
このように、被告製品における角度調整器の2本のピンと留め金の突起部は、外力の伝達により、いずれか一方の揺動部材の開操作をもって、2対の揺動部材を同時に開くことを可能にするものであるから、角度調整器のピン及び留め金の突起部は、構成要件Eの「係合部」を充足する。
また、上記のとおり、角度調整器のピン及び留め金の突起部は、開操作の前に、組み合わせられた揺動部材1及び2の開口部に留め金の突起部がはめ込まれ、ピン用孔に角度調整器の2本のピンが挿通された状態に固定されるものである。このような固定態様に照らすと、「係合部」である角度調整器のピン及び留め金の突起部が、揺動部材1又は2に設けられているといえる。そして、証拠(甲3、乙6、10)によれば、角度調整器は、施術者から視認できるように揺動部材1側からピンが挿通されて揺動部材1に固定されることが認められるから、少なくとも角度調整器のピンは、揺動部材1に設けられていると認識できることは明らかである。そして、留め金の突起部も、角度調整器のピンと一体となって揺動部材の開操作に関わっているのであるから、この両者は、全体として揺動部材1に設けられていると評価するのが素直である。したがって、「係合部」である角度調整器のピン及び留め金の突起部をもって、構成要件Eの「揺動部材の一方に…係合部が設けられている」との要件は充足されることになる。
・・・(略)・・・。
カ 結論
以上のとおり、被告製品は構成要件Eを充足し、他の構成要件を充足することについては既に説示したとおりであるから、被告製品は、本件発明1及び2の技術的範囲に属する。』

[コメント]
構成要件Eの「前記2対の揺動部材の一方に、他方の揺動部材と組み合わせられたときに、該他方の揺動部材に係合する係合部が設けられている」を素直に捉えると、地裁の解釈の方が自然に思えるが、本件発明の技術意義に基づくと、高裁の解釈になるのかと思う。
本判決のように、発明の技術意義に基づいて発明の技術的範囲を認定された場合には、発明の技術的範囲が広く解釈される可能性があることに留意すべきである。
以上
(担当弁理士:鶴亀 史泰)