侵害差止等請求事件 » 平成30年(ネ)第10039号「容器」事件

名称:「容器」事件
特許権侵害差止等請求控訴事件
知的財産高等裁判所:平成30年(ネ)第10039号 判決日:平成31年1月31日
判決:控訴棄却
特許法70条1項
キーワード:構成要件充足性
判決文:http://www.ip.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/523/088523_hanrei.pdf

[概要]
構成要件C「端縁部の上面が…下位となるように…圧縮されて厚みが薄くなって」は、二通りに解することができることを認めたうえで、本件明細書の記載を参酌した結果、一方に解するのが相当であるという理由により、構成要件Cを被告製品が充足するとされた事例。

[事件の経緯]
一審原告は、特許第5305693号の特許権者である。
一審原告が、一審被告の行為が当該特許権を侵害すると主張して、一審被告の行為の差止め等を求めた(東京地裁平成28年(ワ)第29320号)ところ、東京地裁が、一審原告の請求を認める判決をしたため、一審被告は、原判決を不服として、控訴を提起した。一審原告も、原判決を不服として、控訴を提起した。
知財高裁は、各控訴を棄却した。

[本件発明1(分説後)]
【請求項1】
A1 熱可塑性樹脂発泡シートの片面に熱可塑性樹脂フィルムが積層された発泡積層シートが用いられ、
A2 前記熱可塑性樹脂フィルムが内表面側となるように前記発泡積層シートが成形加工されて、
A3 被収容物が収容される収容凹部と、
B 該収容凹部の開口縁から外側に向けて張り出した突出部とが形成された容器本体部を有する容器であって、
C 前記突出部の端縁部の上面が収容凹部の開口縁近傍の突出部の上面に比して下位となるように、突出部の端縁部において前記熱可塑性樹脂発泡シートが圧縮されて厚みが薄くなっており、
D しかも、該突出部の少なくとも端縁部の上面側には、凸形状の高さが0.1~1mmとなり
E 隣り合う凸形状の間隔が0.5~5mmとなるように凹凸形状が形成され、
F 且つ該端縁部の下面側が平坦に形成されていること
G を特徴とする容器。

[争点]
被告製品の本件発明1及び2の構成要件充足性

[一審被告の主張]
構成要件Cは、「下位となるように」という文言から、突出部の端縁部において熱可塑性樹脂発泡シートが圧縮され厚みが薄くなっていることによって、端縁部の上面が収容凹部の開口縁近傍の上面よりも下位となっている構成を意味するところ、被告製品は、このような構成を備えていない。
[裁判所の判断](筆者にて適宜抜粋)
争点(1)ウ(構成要件C「端縁部の上面が…下位となるように…圧縮されて厚みが薄くなって」の充足性)について(原判決の記載項目)
『ウ 原判決39頁15行目~41頁4行目を次のとおりに改める。
ア 本件発明1及び2の構成要件Cは、「前記突出部の端縁部の上面が収容凹部の開口縁近傍の突出部の上面に比して下位となるように、突出部の端縁部において前記熱可塑性樹脂発泡シートが圧縮されて厚みが薄くなっており、」というものであって、①「前記突出部の端縁部の上面が収容凹部の開口縁近傍の突出部の上面に比して下位となる」という構成と、②「突出部の端縁部において前記熱可塑性樹脂発泡シートが圧縮されて厚みが薄くなっており」という構成とを、「ように」で結ぶことで、「容器」に係る物の発明を特定している。
そうすると、発明特定事項Cは、「容器」という物の発明の形状又は構造について、①と②の双方を構成として備えていなければならないことを規定しているといえる。
イ ここで、①と②とが「ように」で結ばれていることから、日本語としては、(A)端縁部において上記シートを圧縮して厚みを薄くする工程を行い、その結果として端縁部の上面が上記のとおり下位となることを規定していると解することも、(B)厚みが薄くなっている状態の一態様として、端縁部の上面が上記のとおり下位となっていることと解することもできる。
そこで本件明細書の記載を参酌すると、本件明細書の【0019】には、端縁部の圧縮により、前記突出部の端縁部の上面が収容凹部の開口縁近傍の突出部の上面に比して下位となる旨が記載されているが、本件発明1及び2の特許請求の範囲及び本件明細書の記載から認められる技術的意義、すなわち「端縁部の上面側に凹凸形状を形成し、熱可塑性樹脂フィルムの端縁をジグザグとすることで端縁部での怪我を防止しつつ、端縁部の下面側は平坦にすることで蓋体を強固に止着させ得るようにすること」からすると、端縁部が圧縮により強度が向上しており、また、「前記突出部の端縁部の上面が収容凹部の開口縁近傍の突出部の上面に比して下位となる」構成を有していればよいのであって、「前記突出部の端縁部の上面が収容凹部の開口縁近傍の突出部の上面に比して下位となる」構成が圧縮のみにより得られることに、技術的意義があるとは認められず、「前記突出部の端縁部の上面が収容凹部の開口縁近傍の突出部の上面に比して下位となる」構成が圧縮のみによらずして得られる場合を、構成要件Cが排除していると解することはできない。
したがって、上記(B)のとおり解するのが相当である。』

原判決41頁5行目乃至42頁9行目を改めている。原判決を改めた内容を加味した記載を下記に示す。
『ウ これに対し、被告は、「突出部の端縁部において…圧縮されて厚みが薄くなっており」という構成によってのみ「前記突出部の端縁部の上面が…下位となる」構成が実現しなければならないと解釈すべき旨を主張し、その根拠として本件明細書の記載(【0019】)、一審原告が審判請求書(乙12)において上記部分に係る補正の根拠を本件明細書の「例えば段落0019や図3(b)」と主張したという出願経過を挙げる。
しかし、上記の本件明細書の記載(【0019】)は実施例の記載であり、こうした実施例があることから上記のとおり解釈することは相当でないし、当該記載が引用する【図3】bによれば端縁部の下面も端縁部以外の突出部の下面に比して下位となっており、端縁部を圧縮して薄くしなくても端縁部の上面が端縁部以外の突出部の上面に比して下位となっているとみる余地がある。補正の根拠に関する主張は、補正に係る部分が本件明細書の記載の範囲内であることを指摘したものであって、説明した部分に補正に係る部分の解釈を限定する趣旨を読み取ることはできない。被告の主張は採用できない。』

『 したがって、被告製品(包装用容器)は、構成要件Cの「下位となるように…圧縮されて厚みが薄くなって」を充足する。』

[コメント]
裁判所は、構成要件C「端縁部の上面が…下位となるように…圧縮されて厚みが薄くなって」を、二通りに解することができる、具体的には、(A)端縁部においてシートを圧縮して厚みを薄くする工程を行い、その結果として端縁部の上面が上記のとおり下位となることを規定していると解することも、(B)厚みが薄くなっている状態の一態様として、端縁部の上面が上記のとおり下位となっていることと解することもできる、ということを認めた。
この認定には納得できる。なぜなら、「ように」が「圧縮されて」にかかる、として読むと、(A)のように解釈することができ、「ように」が「薄くなって」にかかる、として読むと、(B)のように解釈することができるためである。
裁判所は、このように認定したうえで、本件明細書の記載を参酌し、その結果、(B)のとおり解するのが相当である、と判断した。この判断や、この判断に至る論理にも納得できる。
なお、一審原告が、「構成要件Cは、①突出部の端縁部の上面が、収容凹部の開口縁近傍の突出部の上面より低くなっていること、②突出部の端縁部の厚みが、収容凹部の開口縁近傍の突出部の厚みより薄くなっていることを規定しているのみであって、①が②に起因して生じたことを規定していない。」と主張するところ、仮に、「ように」を使用せずに①および②がそのまま特定されていたとすれば、構成要件Cに関するこの争点は生じなかったかもしれない。

以上
(担当弁理士:森本 宜延)