侵害差止等請求事件 » 平成28年(ワ)第7536号「薬剤分包用ロールペーパ」事件

名称:「薬剤分包用ロールペーパ」事件
特許権侵害差止等請求事件
大阪地方裁判所:平成28年(ワ)第7536号 判決日:平成31年3月5日
判決:請求認容
特許法70条
キーワード:技術的範囲の解釈、用途限定発明
判決文:http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/582/088582_hanrei.pdf

[概要]
請求項1において「薬剤分包装置」の構成を詳細に特定しつつ「・・・薬剤分包装置に用いられ」と特定した用途限定が、用途そのものでなく、用途に適する「ロールペーパ」の構造等の特定であると解釈された結果、当該「薬剤分包装置」に使用していない被告製品についても、技術的範囲に属する(侵害成立)と判断された事例。

[事件の経緯]
原告は、分割出願に係る特許第4194737号の特許権者である。
被告らは、所有権を原告が留保している原告製ロールペーパの使用済み中空芯管の提供を顧客に求め、原告製の中空芯管に薬剤分包用シートを巻き付けた後、被告らにおいて顧客に販売するという方式を行っていた。
原告は、被告らの行為が特許権等を侵害すると主張して、被告らの行為の差止め及び損害賠償請求を求めた。
大阪地裁は、原告の請求を認容した。

[本件発明](筆者にて括弧内符号を追記)
A 非回転に支持された支持軸(1b)の周りに回転自在に中空軸(1c)を設け、中空軸にはモータブレーキ(20)を係合させ、中空軸に着脱自在に装着されるロールペーパのシート(S)を送りローラ(3)で送り出す給紙部と、
2つ折りされたシートの間にホッパ(5)から薬剤を投入し、薬剤を投入されたシートを所定間隔で幅方向と両側縁部とを帯状にヒートシールする加熱ローラ(6)を有する分包部とを備え、
ロールペーパの回転角度を検出するために支持軸に角度センサ(25)を設け、
上記中空軸と上記支持軸の固定支持板(11)間で上記中空軸のずれを検出するずれ検出センサ(26)を設け、
分包部へのシート送り経路上でシート送り長さを測定する測長センサを設け、
ロールペーパを上記中空軸に着脱自在に固定してその固定時に両者を一体に回転させる手段(磁石16、鉄部17)をロールペーパと中空軸が接する端に設け、
角度センサ及び測長センサの信号に基づいてシート張力をロールペーパ径に応じて調整しながら薬剤を分包するようにし、
さらに角度センサの信号とずれ検出センサの信号との不一致により上記中空軸に着脱自在に装着されたロールペーパと上記中空軸とのずれを検出するようにした薬剤分包装置に用いられ、
B 中空芯管(P)とその上に薬剤分包用シートをロール状に巻いたロールペーパ(R)とから成り、
C ロールペーパのシートの巻量に応じたシート張力を中空軸に付与するために、支持軸に設けた角度センサによる回転角度の検出信号と測長センサの検出信号とからシートの巻量が算出可能であって、その角度センサによる検出が可能な位置に磁石(24)を配置し、
D その磁石をロールペーパと共に回転するように配設して成る
E 薬剤分包用ロールペーパ。
本件特許公報   【図1】                  【図2】

[被告の行為]
被告製品を、本件発明の構成要件の記載に沿って整理すると、以下のとおりとなる。
a 被告製品は、中空芯管(原告製の使用済み芯管)とその上に薬剤分包用シートをロール状に巻いたロールペーパとから成り、
b 上記中空芯管においては、原告製の薬剤分包装置に設けられた上記中空軸への挿入方向とは逆の端部プラスチック内部に、円周上に3個の磁石が配設され、
c 上記磁石は、中空芯管を構成するプラスチックの内部に配設されており、巻き回されたロールペーパと共に回転する、
d 薬剤分包用ロールペーパである。

[主な争点]
1 被告製品は本件発明の技術的範囲に属するか(争点(1))。

[裁判所の判断](筆者にて適宜抜粋、下線)
1 争点(1)(被告製品は本件発明の技術的範囲に属するか。)について
『(1) 本件発明の性質
ア 本件発明は、「薬剤分包用ロールペーパ」に係る発明であるところ(構成要件E)、構成要件Aには薬剤分包装置に関する事項が、構成要件B及びDにはロールペーパに関する事項が、構成要件Cにはその両者に関する事項がそれぞれ記載され、構成要件Aにおいて、ロールペーパと薬剤分包装置の関係につき、前者が後者に「用いられ」るものとして記載されていることから、被告らは、要旨、構成要件B~Dを充足するロールペーパの製造・販売が、現実に存在する、構成要件Aを充足する薬剤分包装置において使用されることを前提とした場合にのみ、本件特許権の侵害が成立する旨主張する。
イ そこで検討するに、本件発明は、前記第2の1(3)のとおり、構成要件AないしEに分説されるものであり、構成要件BないしDには、中空芯管とロールペーパと複数の磁石(以下「本件ロールペーパ等」)に係る特定が、構成要件Aには、構成要件BないしDにより特定される本件ロールペーパ等が用いられる薬剤分包装置に係る特定がなされている。しかしながら、本件発明は、「薬剤分包用ロールペーパ」という物の発明であり、直接には構成要件BないしDから構成されるところ、構成要件Aの薬剤分包装置に係る特定は、本件ロールペーパ等が「用いられ」るという前提のもと、本件ロールペーパ等の構造、機能等を特定するものとして把握すべきものであり、本件ロールペーパ等の用途又は用法を定めたものと解すべきではない。
(2) 構成要件Aの「用いられ」の意味
ア 前記(1)を前提に検討すると、構成要件Aのうち「ロールペーパの回転速度を検出するために支持軸に角度センサを設け」との記載は、本件ロールペーパ等の「複数の磁石」につき、そのような位置に配置されることを特定するものと理解でき、また、構成要件Aのうち「ロールペーパを上記中空軸に着脱自在に固定してその固定時に両者を一体に回転させる手段をロールペーパと中空軸が接する端に設け」との記載は、本件ロールペーパ等について、そのような態様で回転させられることを特定するものと理解できるし、構成要件Cの「測長センサ」も、構成要件Aの記載によって特定されると理解できる。
そうすると、本件発明に係る薬剤分包用ロールペーパの技術的範囲は、構成要件BないしDと、構成要件Aによる本件ロールペーパ等の上記特定に係る事項とから画されるものと解されるから、被告製品が上記技術的範囲に属すれば本件発明の構成要件を充足するものであって、被告製品が構成要件Aを充足する薬剤分包装置に実際に使用されるか否かは、上記構成要件充足の判断に影響するものではないと解される。
イ 被告らは、被告製品が構成要件Aの「用いられ」を充足するためには、被告製品は構成要件Aを充足する薬剤分包装置に用いられて初めて作用効果を奏するものであるから、現実に構成要件Aを充足する薬剤分包装置に用いられることが必要であると主張する。
しかしながら、構成要件Aを充足する薬剤分包装置に使用可能な構成を有し、その他の構成要件をも充足するものとして薬剤分包用ロールペーパが生産、譲渡されれば、その時点で本件特許権の侵害は成立するのであって、その後に構成要件Aを充足する薬剤分包装置に当該ロールペーパが使用されるか否かは、特許権侵害の成否を左右するものではない。
被告らは、本件発明の出願経過に照らし、構成要件Aを充足する薬剤分包装置に被告製品が使用されることが本件特許権侵害に係る必須の要証事実であると主張するが、原告が、手続補正の際に提出した意見書(乙9)において、本件発明は構成要件Aを充足する薬剤分包装置に現実に用いられることを必須とする旨を述べたものと解することはできない。
ウ 被告らは、ダブルタイプのロールペーパを使用する薬剤分包装置は構成要件Aを充足しないと主張し、・・・(略)・・・を挙げる。さらに、被告らは、原告製の薬剤分包装置につき、構成要件Aのうち、・・・(略)・・・といった要件を充足しない旨を主張し、また、構成要件Cを充足しない分包シートであっても使用可能であるから、構成要件Aのうち、・・・(略)・・・という要件を充足しない旨主張する。
しかし、これらの被告らの主張は、いずれも特定の薬剤分包装置が構成要件Aを充足しないことをいうものであり、構成要件Aと構成要件B以下との関係を前述のとおり解する以上、意味のない主張といわざるを得ない。
(3) まとめ
ア 以上検討したところによれば、本件発明においては、構成要件Aの「用いられ」は、構成要件Aの記載によって構成要件B以下の内容が特定されることを意味するものとして使われているというべきであるから、そのように特定された構成要件B以下を被告製品が充足する場合には、構成要件Aの「用いられ」を充足すると解され、これ以上に、構成要件Aの「用いられ」が、被告製品が現実に構成要件Aを充足する薬剤分包装置に使用されることを前提として製造・販売されることを要件として定める趣旨と解することはできない。
イ 被告製品は、前記第2の1(6)アのとおりの構成を有するところ、被告らは、構成要件Aに関し、争点(1)とおり主張して争うものの、構成要件B以下の充足性について、争う理由を明示しておらず、弁論の全趣旨によれば、被告製品の構成aは本件発明の構成要件Bを、構成bは構成要件Cを、構成cは構成要件Dを充足すると認められ、被告製品は構成要件Aを充足する薬剤分包装置において使用されることが可能な構成を有すると認められる。
ウ 以上によれば、被告製品は、構成要件AないしEをすべて充足するから、本件発明の技術的範囲に属すると認められる。』
[コメント]
特許庁の審査基準の第III部 第2章 第4節「特定の表現を有する請求項等についての取扱い」では、「3.物の用途を用いてその物を特定しようとする記載(用途限定)がある場合」について、
「3.1.1 用途限定がある場合の一般的な考え方
用途限定が付された物が、その用途に特に適した物を意味する場合は、審査官は、その物を、用途限定が意味する形状、構造、組成等(以下この項(3.)において「構造等」という。)を有する物であると認定する(例1及び例2)。」
との解釈が示されている。
また、「4. サブコンビネーションの発明を「他のサブコンビネーション」に関する事項を用いて特定しようとする記載がある場合」について、
「4.1.1 「他のサブコンビネーション」に関する事項が請求項に係るサブコンビネーションの発明の構造、機能等を特定していると把握される場合
この場合は、審査官は、請求項に係るサブコンビネーションの発明を、そのような構造、機能等を有するものと認定する。」
との解釈が示されている。
上記の解釈は、特許性判断における発明の要旨認定を行なう際の解釈について記載されたものであるが、今回の侵害訴訟においては、特許発明が用途限定した物の発明である場合の技術的範囲の解釈について、用途限定に係る構成要件を、用途そのものではなく、用途限定が意味する形状、構造等の限定であると解釈しており、上記の審査基準とも整合するものとなっている。
用途発明以外の発明について、用途限定に係る構成要件の解釈が争われたケースは少ないため、参考になる事例である。今回の判決のように、用途発明以外の場合では、用途限定に係る構成要件の解釈が用途発明とは異なり、用途限定が意味する形状、構造等の限定であると解釈される点に留意すべきである。
以上
(担当弁理士:梶崎 弘一)