侵害差止等請求事件 » 平成28年(ワ)第4759号「導光板」事件

名称:「導光板」事件
特許権侵害差止等請求事件
東京地方裁判所:平成28年(ワ)第4759号 判決日:平成30年12月20日
判決:請求棄却
特許法100条、29条の2
キーワード:均等、拡大先願発明
判決文:http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/264/088264_hanrei.pdf

[概要]
均等侵害の成否の判断のために発明の本質的部分として従来技術に見られない特有の技術的思想を構成する特徴的部分を認定するに当たっては、拡大先願発明も参酌すべきものと解するのが相当であるとし、その結果、本件発明の本質的部分が特許請求の範囲の記載とほぼ同義のものとして認定され、被告製品が均等の第1要件を充足しないとされた事例。

[事件の経緯]
原告は、特許第2865618号の特許権者である。
原告は、被告の行為が当該特許権を侵害すると主張して、被告に不当利得の返還を求めた。
東京地裁は、原告の請求を棄却した。

[本件発明]
【請求項1】
A 透明な板状体の少なくとも一端面から入射する光源からの光を、上記板状体の裏面に設けられた回折格子によって板状体の表面側へ回折させる導光板であって、
B 上記回折格子の断面形状または単位幅における格子部幅/非格子部幅の比の少なくとも1つが、上記導光板の表面における輝度が増大し、かつ均一化されるように変化せしめられていることを特徴とする
C 導光板。

[争点]
・争点1-2(均等侵害の要件充足性)について
・争点2-2(乙8による特許法29条の2違反)について
※その他の争点については、省略する。

[裁判所の判断](筆者にて適宜抜粋)
1 争点2-2(乙8による特許法29条の2違反)について
『 ア まず、特開平9-127894号公報の特許請求の範囲並びに明細書及び図面の内容は、本判決添付の乙8の公開特許公報のとおりと認められる(乙8)。
・・・(略)・・・。
そうすると、本件発明の構成要件Aと乙8発明では、回折を生じさせるために導光板の裏面に設けられた構成が、本件発明では「回折格子」であるのに対し、乙8発明では「ホログラムの回折格子」である点以外は一致するから、この両者が同一の構成であるか否か(以下「相違検討点1」という。)が問題となるが、その余の構成は一致するといえる。
・・・(略)・・・。
(エ) 以上によれば、本件発明の「回折格子」とは、多数の微細刻線溝を設けることによって光の回折を生じさせる部材(ホログラムとしては、エンボス型のホログラムを用いたもののみを含む。)を意味し、リップマンタイプ等の体積・位相型のホログラムを含まないと解するのが相当である。
・・・(略)・・・。
d 以上より、乙8にいう「回折格子」として、体積・位相型のホログラムを用いた回折格子以外に、エンボス型のホログラムが開示されているとは認められない。
・・・(略)・・・。
ク 以上の認定・判示によれば、本件発明と乙8発明には、相違検討点1に関して下記の相違点があるといえる。

「回折格子」につき、本件発明の「回折格子」は多数の微細刻線溝を設けた光を回折させる部材である(ホログラムとしては、エンボス型のホログラムを用いたもののみを含む。)のに対し、乙8発明の「回折格子」は体積・位相型のホログラムを用いたものである点
・・・(略)・・・。
以上によれば、本件発明と乙8発明とは、前記の相違検討点1において相違するから、同一の発明とはいえず、乙8による特許法29条の2違反の無効理由が存するとは認められないが、本件発明と乙8発明とは、その解決課題及び解決原理を共通にしており、解決手段たる回折格子の種類についてのみ相違するにすぎないということができる。』

2 争点1-2(均等侵害の要件充足性)について
(1) 本件発明の構成要件Aについて
『 本件明細書では、導光板の従来技術として、プリズムによる全反射を利用したもののみが記載され、回折現象は今まで導光板に用いられることがなかったと記載されている。
しかし、原告は平成6年3月11日に自ら、・・・(略)・・・とする特許の出願をし、その明細書では、・・・(略)・・・と記載していた(特願平6-79172)(乙10、20)。そして、これは本件発明の構成要件Aと同じ構成を備えた発明と認められる。
また、前記1で技術的意義等を認定した乙8発明も、回折格子の種類は同じとは認められないものの、導光板の裏面に回折格子を設け、回折現象を利用して光量の増大を図る発明である(乙8発明のようないわゆる拡大先願発明も参酌すべきことは後記のとおりである。)。
以上より、導光板においてプリズムによる全反射を利用するのでは光量が減るとの課題は、本件特許の出願日において、本件発明と同じく導光板の裏面に回折格子を設け、回折現象を利用することによって既に解決されている課題であったと認められる。』

(2)本件発明の構成要件Bについて
『 先に争点2-2(前記1)について述べたとおり、乙8発明も、導光板の裏面にホログラムの回折格子を設け、回折現象を利用するものであり、かつ、本件発明の構成要件Bと同一の構成を備え、それにより、導光板の表面から出射する光を効率よく、また、面内で均一に出射されるようにするものである。もっとも、この乙8発明に係る特許の出願日は平成7年10月27日であり、本件特許の出願よりも前に出願されたものであるが、乙8発明に係る特許について出願公開がされたのは平成9年5月16日であり(乙8)、本件特許の出願後であるから、乙8発明はいわゆる拡大先願発明に該当するにすぎない。しかし、特許法29条の2は、特許出願に係る発明が拡大先願発明と同一の発明である場合を特許要件を欠くものとしているところ、その趣旨の中には、先願の明細書等に記載されている発明は、出願公開等により一般にその内容が公表されるから、たとえ先願が出願公開等をされる前に出願された後願であっても、その内容が先願と同一内容の発明である以上、さらに新しい技術を公開するものではなく、そのような発明に特許権を与えることは、新しい発明の公開の代償として発明を保護しようとする特許制度の趣旨からみて妥当でないとの点がある。このように特許法が、先願の明細書等に記載された発明との関係で新しい技術を公開するものでない発明を特許権による保護の対象から外している法意からすると、均等侵害の成否の判断のために発明の本質的部分として従来技術に見られない特有の技術的思想を構成する特徴的部分を認定するに当たっては、拡大先願発明も参酌すべきものと解するのが相当である。
そうすると、導光板においてプリズムによる全反射を利用するのでは照光面に極端な明暗のコントラストが生じるとの課題は、本件特許の出願日において、回折格子として刻線溝又はエンボス型のホログラムを用いるか体積・位相型のホログラムを用いるかの違いがあるとはいえ、本件発明と同じく、回折格子の単位幅における格子部幅/非格子部幅の比を、導光板の表面における輝度が増大し、かつ均一化されるように変化させることによって既に解決されている課題であったと認められる。』

(3)均等の第1要件について
『 c そして、本件発明の、少ない消費電力で明るく均一な照明を得ることができないとの課題(上記(ア)②)は、上記a及びbで述べた課題が解決されることに伴い解決されるものである(上記(ウ)γ)から、やはり既に解決されている課題であったと認められる。
d 以上からすると、本件発明が課題とするところは、いずれも本件特許の出願時の従来技術によって、同様の解決原理によって解決されていたといえる。本件発明がそれらの従来技術と異なる点は、回折格子の単位幅における格子部幅/非格子部幅の比を、導光板の表面における輝度が増大し、かつ均一化されるように変化させることについて、体積・位相型のホログラムではなく、刻線溝又はエンボス型のホログラムを用いた点にあるが、回折格子としては後者の方がむしろ通常であること(前記1(4)ウ(ア)、(エ)、(オ))からすると、本件発明の従来技術に対する貢献の程度は大きくないというべきである。
ウ 以上よりすれば、本件発明の本質的部分については、特許請求の範囲の記載とほぼ同義のものとして認定するのが相当である。
この点について、原告は、本件発明の本質的部分は、光の波動の性質に基づく回折現象を利用して、回折格子の断面形状又は単位幅における格子部幅/非格子部幅の比に着目した点にあると主張するが、これまで述べたことに照らして採用できない。
エ そうすると、被告製品の導光板では、前記のとおり、微細構造体が回折された光が進行する側に設けられていることから、構成要件Aでいうところの「表面」に微細構造体が設けられ、光源からの光が「表面」側に回折させられている。したがって、被告製品の導光板は構成要件Aの「板状体の裏面に設けられた回折格子」という部分を充足していない。
よって、被告製品が本件発明の本質的部分を備えているということはできず、本件発明と被告製品とは本質的部分において相違すると認められるから、被告製品は、均等の第1要件を充足しない。』

(4)結論
『 以上によれば、被告製品は、少なくとも均等の第1要件(非本質的部分)を充足しないことから、本件発明と均等なものとして、その技術的範囲に属するということはできない。』

[コメント]
均等の第1要件における本質的部分は、特許発明の従来技術に見られない特有の技術思想を構成する特徴的部分が何であるかを確定することによって認定される。
ところで、この「従来技術」とは、特許発明の出願時に公開されている発明とすることができることは当然であるが、拡大先願発明を参酌できるかには、争いがあると思う。
本判決においては、特許法29条の2の趣旨及びそれによる特許法の法意から、「均等侵害の成否の判断のために発明の本質的部分として従来技術に見られない特有の技術的思想を構成する特徴的部分を認定するに当たって、拡大先願発明も参酌すべきものと解するのが相当である」と判断された。
このように、従来技術として拡大先願発明も参酌できる可能性もあるため、均等侵害を否定する側としては、公知発明だけでなく、拡大先願発明まで広げて、従来技術を調査すべきである。
但し、本判決が控訴されている場合には、知財高裁が本判決と同じ判断をするか否か、注目したい。
以上
(担当弁理士:鶴亀 史泰)