侵害差止等請求事件 » 平成29年(ワ)第24174号「金融商品取引管理装置」事件

名称:「金融商品取引管理装置」事件
特許権侵害差止請求事件
東京地方裁判所:平成29年(ワ)第24174号 判決日:平成30年10月24日
判決:請求認容
特許法70条、100条
キーワード:特許権侵害訴訟、文言解釈、ソフトウェア特許
判決文:http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/128/088128_hanrei.pdf

[概要]
「注文情報」という文言について明細書に限定すべき記載がないことを考慮して、「注文を行うために必要な情報」と解釈し、更に、本発明がイフダンオーダーを前提とする注文方法であり、イフダンオーダーの特性を考慮して各構成要件の充足性を判断し、被告サービスが原告の特許権を侵害するとして、差止請求が認容された事例。

[事件の経緯]
原告は、特許第6154978号(以下、「本件特許権」)の特許権者である。
原告は、被告サービスによる「iサイクル注文」という名称で提供されるFX取引管理方法を使用するサーバが当該特許権を侵害すると主張して、被告に対し、特許法100条1項に基づき差止請求を求めた。
東京地裁は、被告サービスに使用するサーバが特許権の技術的範囲に属するとして、原告の請求を認容した。

[本件発明]
【請求項1】(本件発明;構成要件A~Iに分説)
A 相場価格の変動に応じて継続的に金融商品の取引を行うための金融商品取引管理装置であって、
B 前記金融商品の買い注文を行うための複数の買い注文情報を生成する買い注文情報生成手段と、
C 前記買い注文の約定によって保有したポジションを、約定によって決済する売り注文を行うための複数の売り注文情報を生成する売り注文情報生成手段と
D を有する注文情報生成手段と、
E 前記買い注文及び前記売り注文の約定を検知する約定検知手段とを備え、
F 前記複数の売り注文情報に含まれる売り注文価格の情報は、それぞれ等しい値幅で価格が異なる情報であり、
G 前記注文情報生成手段は、前記複数の売り注文情報を一の注文手続で生成し、
H 前記相場価格が変動して、前記約定検知手段が、前記複数の売り注文のうち、最も高い売り注文価格の売り注文が約定されたことを検知すると、前記注文情報生成手段は、前記約定検知手段の前記検知の情報を受けて、前記複数の売り注文のうち最も高い売り注文価格よりもさらに所定価格だけ高い売り注文価格の情報を含む売り注文情報を生成することを特徴とする
I 金融商品取引管理装置。

[被告の行為]
別紙5に示す、「クイック+OCO注文」及び「IFDONE+OCO注文」を提供。いずれも新規注文である買い注文の約定により決済注文である売り注文が有効、発注済の状態となるイフダンオーダーの性質を有する。また、被告サービスのサーバは、別紙3の処理表に記載されている処理を実行する(判決文P.33-34)。

[争点](ここでは、争点1のみを紹介)
(1)被告サーバは、本件発明の技術的範囲に属するか否か(争点1)
ア 構成要件BないしHの「注文情報」を充足するか(争点1-1)
イ 構成要件Hを充足するか(争点1-2)
ウ 構成要件Gを充足するか(争点1-3)
(2)無効審判により無効とされるべきものか(争点2)
ア 法36条6項1号違反(争点2-1)
イ 分割要件違反により新規性を欠くか(争点2-2)
ウ 進歩性を欠くか(争点2-3)
(3)分割要件違反により被告は先使用権を有するか(争点3)

[裁判所の判断](筆者にて適宜抜粋)
『(2)本件発明の概要
・・・(略)・・・
エ 本件発明は、買い注文の約定によって保有したポジションを、売り注文の約定によって決済する注文形態(構成要件C)、すなわち、新規注文である買い注文の約定により決済注文である売り注文が有効、発注済の状態(市場に発注され、約定可能な状態)になるイフダンオーダーに係る注文形態を前提として、それぞれ等しい値幅で価格が異なる複数の売り注文を一の注文手続で生成する構成(構成要件F及びG)を採用した上で、最も高い売り注文価格の売り注文が約定すると、最も高い売り注文価格よりも所定価格だけ高い売り注文価格の情報を含む新たな売り注文情報を生成するという構成(構成要件H)を採用することにより、相場価格の変動によって、元の売り注文価格よりも相場価格の変動方向側である高値側に新たな売り注文価格の注文情報を生成し、相場価格を反映した注文の発注を行うことができるようにし、もって、コンピュータシステムを用いて行う金融商品の取引において、多くの利益を得る機会を提供することができるという作用効果を奏する(【0018】、【0150】)。』(判決文P.33)
『3 争点1(被告サーバは本件発明の技術的範囲に属するか)
(1)争点1-1(被告サーバは構成要件BないしHの「注文情報」を充足するか)
ア 本件発明の「注文情報」の意義
(ア) 本件特許の特許請求の範囲において、「注文情報」は、「金融商品の買い注文を行うための複数の買い注文情報」(構成要件B)、「前記買い注文の約定によって保有したポジションを、約定によって決済する売り注文を行うための複数の売り注文情報」(構成要件C)として、買い注文又は売り注文を行うための情報であるとされており、「売り注文情報」は「売り注文価格の情報」を含むものである(構成要件F)とされているものの、それ以外の具体的な内容、項目等については規定されていない。
そして、本件明細書の【0094】には、図14で示される新規注文情報18101及び決済注文情報18102が有する情報として、「注文の通し番号としての注文情報181A、顧客毎に一意に付5 される顧客番号181B、売買の対象となる通貨の組合せ…を識別するための通貨ペア情報181C、一の注文における外貨の持高としてのポジション…の価格情報としての注文金額情報181D、注文が発注された時刻の情報としての注文時刻情報181E、注文が「売り注文」「買い注文」の何れであるかを識別するフラグ情報としての売買方向情報181F、「約定価格の情報」としての注文価格情報181G、各注文情報1811~1816の有効期限を示す情報としての注文有効期限情報181H、例えば「成行注文」「イフダン注文」等の注文の種別を識別するフラグ情報としての注文種別情報181J、スルー値幅情報181K、トレール幅情報181L、各注文情報が「新規注文」なのか「決済注文」なのか、また、「指値注文」なのかを識別するフラグ情報としての新規/決済情報181M」が挙げられているところ、これらは「注文情報」の一例を示すものと理解できるものの、実施例に関するものであって、その他、本件明細書において、「注文情報」が特定の内容、項目等を含むものでなければならないとする説明等は見当たらない。
そうであれば、注文価格の情報のように、個々の買い注文又は売り注文を行うために必要となる情報であれば、本件発明の「注文情報」に含まれ、その他の限定はないものと認められる。
(イ) この点について、被告は、本件発明の「注文情報」は、本件明細書の「発明の実施の形態1」で、少なくとも約定に関しては、注文の状態又は結果を事後的に「注文情報」に反映させていること(【0102】)から、注文の状態又は結果を反映した記録ないしログであると解すべきであると主張する。
しかしながら、前記(ア)のとおり、本件特許の特許請求の範囲において、「注文情報」は、買い注文又は売り注文を行うための情報であるとされているから、これを注文の状態又は結果を反映した記録ないしログであるというのは、特許請求の範囲の記載と整合しない解釈であり、採用することができない。』(判決文P.38-40)
『イ 被告サーバにおける「注文情報」
(ア) 前記第2の2(4)イ認定のとおり、被告サービスにおいて注文が行われると、別表のとおり被告サーバの処理が記録されるところ、前記2認定の被告サービスの内容、別表の各欄の内容及び被告サーバの処理に照らすと、被告サーバにおいて、注文が行われた時点、すなわち、「注文日時」欄記載の日時に、同欄記載の注文を識別するための注文番号、「注文日時」欄記載の注文日時、「取引」欄記載の新規注文又は決済注文の別、「通貨P」欄記載の取引対象となる通貨の種類、「売」欄記載の売り注文であるか否か、「買」欄記載の買い注文であるか否か、「新規注文」欄記載のイフダンオーダーを構成する新規注文の注文番号、「執行条件」欄記載の成行注文、指値注文、逆指値注文の注文種別、「指定R」欄記載の指定価格、「期限」欄記載の注文の有効期限といった個々の注文の内容を規定する情報が生成されていると推認することができる。
また、被告サーバにおいて、市場に発注された個々の注文が約定等したことが検知されると、「注文状況」欄に、その注文が「無効」、「約定」、「取消」のいずれの状況にあるかが、「約定R」欄に、約定価格が、「約定等日時」欄に、注文が約定等した日時が、すなわち、約定等の結果に係る情報が記録されていると推認することができる。
そうすると、少なくとも、被告サーバに記録されている注文番号、注文日時、新規注文又は決済注文の別、取引対象となる通貨の種類、売り注文であるか、買い注文であるか、イフダンオーダーを構成する新規注文の注文番号、成行注文、指値注文、逆指値注文の注文種別、指定価格、注文の有効期限といった個々の注文の内容を規定する情報は、個々の買い注文又は売り注文を行うために必要となる情報であるということができ、本件発明の「注文情報」に該当する。
(イ) 以上より、被告サーバでは、本件発明の構成要件BないしHの「注文情報」に相当する情報が生成されていると認められる。
ウ 小括
前記のとおり、被告サーバでは、構成要件BないしHの「注文情報」に相当する情報が生成されているところ、これらの構成要件の充足性について、後記(2)、(3)において検討する構成要件G及びHを除いた構成要件BないしFの充足性については次のとおりであり、被告サーバは構成要件BないしFをいずれも充足する。』(判決文P.40-41)
『(2)争点1-2(被告サーバは構成要件Hを充足するか)
ア 構成要件Hは、「前記相場価格が変動して、前記約定検知手段が、前記複数の売り注文のうち、最も高い売り注文価格の売り注文が約定されたことを検知すると、前記注文情報生成手段は、前記約定検知手段の前記検知の情報を受けて、前記複数の売り注文のうち最も高い売り注文価格よりもさらに所定価格だけ高い売り注文価格の情報を含む売り注文情報を生成する…」というものであり、文言上、「複数の売り注文のうち、最も高い売り注文価格の売り注文」1個が約定したときに「複数の売り注文のうち最も高い売り注文価格よりもさらに所定価格だけ高い売り注文価格の情報を含む売り注文情報」1個が生成される構成を含むと解するのが相当である。
これを被告サーバについてみると、前記2(2)認定のとおり、被告サーバは、約定検知手段が、例えば、番号113、110、107、104の売りの指値注文のような複数の売り注文のうち、指定価格を114.90円とする最も高い売り注文価格の番号113の売り注文が約定されたことを検知すると、注文情報生成手段は、この検知の情報を受けて、指定価格を番号113の指定価格114.90円より0.62円高い115.52円とし、これを含む売り注文情報である番号96の新たな売りの指値注文を生成するものであるから、構成要件Hを充足する。』(判決文P.42)
『イ 被告は、構成要件Hは、「複数の売り注文」全てが約定したときに、「注文情報生成手段」が新たに「複数の売り注文情報」全て「を生成する」ことを意味すると解すべきであるとし、その理由として、①構成要件Hの「最も高い売り注文価格の売り注文注文が約定されたことを検知」したときは、「最も高い売り注文価格」より低い価格の売り注文が既に約定していることが明らかであるから、構成要件Gの「前記複数の売り注文情報」が全て約定したときを意味すること、②本件明細書の【0145】ないし【0147】においては、全ての売りの指値注文が約定して初めて、新たな買いの指値注文(B1ないしB5)及び売りの指値注文(S1ないしS5)の全てが同時に行われていること、③構成要件Hの「前記注文情報生成手段」が引用している構成要件C及びDにおいて、「注文情報生成手段」は「複数の売り注文情報」全て「を生成する」ものであるとされていることなどを主張する。
しかしながら、被告が理由として挙げる①については、構成要件Hの文言にない限定を付すものである上、「注文情報生成手段」が「複数の売り注文情報」を「一の注文手続」で生成することを規定しているにすぎない構成要件Gについて、「注文情報生成手段」が常に「複数の売り注文情報」を生成することを規定するとの限定を加えた解釈を前提としていることから、採用することはできない。』(判決文P.42-43)
『(3)争点1-3(被告サーバは構成要件Gを充足するか)
ア 構成要件Gは、「前記注文情報生成手段は、前記複数の売り注文情報を一の注文手続で生成」するというものであるところ、前記2認定のとおり、被告サーバでは、被告サービスの利用者の一の注文に基づき、例えば、番号113、110、107、104の売り注文に係る売り注文情報のような、複数の売り注文情報を同じ機会に生成するから、構成要件Gを充足する。』(判決文P.45)

[コメント]
裁判所による「注文情報」の解釈について、請求項の記載「(買い)注文を行うための(複数の買い)注文情報」等に合致し、また明細書においても注文情報に限定すべき記載がないことから、「注文情報」が「注文を行うために必要な情報」と解釈されており、違和感のない判断だと考える。
構成要件G、Hの充足性判断について、イフダンオーダーの特性を考慮し、買い注文と売り注文が一体的なものであるとして、充足性を慎重に検討しており、違和感のない判断だと考える。
構成要件Hの充足性判断において、被告は、一つの売り注文情報を生成するのではなく、複数の売り注文情報を全て生成することを意味すると主張している。これは、構成要件Cの「複数の売り注文情報を生成する売り注文情報生成手段」という記載を根拠にしている。しかし、裁判所は、構成要件Hの記載は注文情報生成手段が主体であるから、複数という限定が請求項にないと判断している。このことから学べることは、システムの基本機能(注文情報生成手段)と、基本機能に含まれる発明の前提となる特定機能(複数の買い注文情報を生成する買い注文生成手段、複数の売り注文情報を生成する売り注文情報生成手段)とが区別できるように記載すべきであり、区別できない記載は避けるべきと考える。仮に、「前記金融商品の買い注文を行うための複数の買い注文情報を生成すると共に、前記買い注文の約定によって保有したポジションを、約定によって決済する売り注文を行うための複数の売り注文情報を生成する注文情報生成手段」と記載していれば、注文情報生成手段が注文情報を常に複数生成すると疑義が生じていたかもしれない。
以上
(担当弁理士:坪内 哲也)