侵害差止等請求事件 » 平成29年(ネ)第10033号「改修引戸装置」事件

名称:「改修引戸装置」事件
特許権侵害差止等請求控訴事件
知的財産高等裁判所:平成29年(ネ)第10033号 判決日:平成30年5月24日
判決:原判決取消
特許法70条2項
キーワード:構成要件充足性
判決文:http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/804/087804_hanrei.pdf

[概要]
構成要件Eの「ほぼ同じ高さ」の解釈について、東京地裁は、「室内側レールの高さ程度の差異がある場合も含む」と、広く判断したことに対して、知財高裁は、「寸法誤差、設計誤差等により完全には同じ高さとならない場合を含む」と、狭く判断し、その結果、被告各装置がいずれも当該構成要件Eを充足せず、本件発明の技術的範囲に含まれないとされた事例。

[事件の経緯]
被控訴人(原審原告)は、特許第4839108号の特許権者である。
被控訴人が、控訴人(原審被告)の行為が当該特許権を侵害すると主張して、控訴人の行為の差止め等を求めた(東京地裁平成26年(ワ)第7643号)ところ、東京地裁が、被控訴人の請求を一部認める判決をしたため、控訴人は、原判決を不服として、控訴を提起した。
知財高裁は、控訴人の控訴を認容し、原判決を取り消した。

なお、被控訴人は、一部請求が棄却された原判決について控訴を提起したが(知財高裁平成29年(ネ)第10063号附帯控訴事件)、知財高裁は、被控訴人の控訴を棄却した。

[本件発明]
【請求項4】
A 建物の開口部に残存した既設引戸枠は、アルミニウム合金の押出し形材から成る既設上枠、アルミニウム合金の押出し形材から成り室内側案内レールと室外側案内レールを備えた既設下枠、アルミニウム合金の押出し形材から成る既設竪枠を有し、前記既設下枠の室外側案内レールは付け根付近から切断して撤去され、
B その既設下枠の室内寄りに取付け補助部材を設け、その取付け補助部材が既設下枠の底壁の最も室内側の端部に連なる背後壁の立面にビスで固着して取付けてあり、
C この既設引戸枠内に、アルミニウム合金の押出し形材から成る改修用上枠、アルミニウム合金の押出し形材から成り室外から室内に向かって上方へ段差を成して傾斜し、室外寄りが低く、室内寄りが室外寄りよりも高い底壁を備えた改修用下枠、アルミニウム合金の押出し形材から成る改修用竪枠を有する改修用引戸枠が挿入され、
D この改修用引戸枠の改修用下枠の室外寄りが、スペーサを介して既設下枠の室外寄りに接して支持されると共に、前記改修用下枠の室内寄りが、前記取付け補助部材で支持され、
E 前記背後壁の上端と改修用下枠の上端がほぼ同じ高さであり、
F 前記改修用下枠の前壁が、ビスによって既設下枠の前壁に固定されている
G ことを特徴とする改修引戸装置。

[争点]
構成要件Eの「ほぼ同じ高さ」の解釈

[原判決]
・「ほぼ同じ高さ」の程度に関しては、請求項4に記載があるのみであって、具体的にどの程度同じであるかについての記載はない。

・本件発明が、構成要件A及びBによって、改修用下枠と改修用上枠との間の空間の高さ方向の幅が大きく、広い開口面積を確保できるという効果を奏するものであること、及び、本件特許の審査経過において、「広い開口面積を確保する本願の課題に対応した構成が記載されていない」という拒絶理由通知を受け、構成要件Eに対応する部分を追記する補正をしたことによって特許査定を受けていることに照らすと、背後壁の上端と改修用下枠の上端を「ほぼ同じ高さ」とするのは、広い開口面積を確保するという効果を得るための構成であるということができる。

・構成要件Eの「ほぼ同じ高さ」とは、背後壁の上端と改修用下枠の上端の高さの差が、改修用下枠が既設下枠に載置された状態で固定されたり、改修用下枠の下枠下地材は既設下枠の案内レール上に直接乗載されて固定されたりした場合の改修用下枠の上端と背後壁の上端の高さの差よりも相当程度小さいものであれば足り、室内側レールの高さ程度の差異がある場合も、「ほぼ同じ高さ」といえるというべきである。

[裁判所の判断](筆者にて適宜抜粋)
『(2) 構成要件Eの解釈について
ア ・・・(略)・・・。構成要件Eの「前記背後壁の上端と改修用下枠の上端がほぼ同じ高さ」であることに寄与しているのは、主に「改修用下枠」を支持する「取付け補助部材」であるということができる。
この「取付け補助部材」について、本件明細書等の記載を見ると、「既設引戸枠の形状、寸法に応じた形状、寸法の取付け補助部材を用いる」(【0018】)、「その取付用補助部材106の高さ寸法を変えることで、異なる形状の既設下枠56にも同一形状の改修用下枠56(裁判所注、改修用下枠69の誤記であると認める。)を、その支持壁89と背後壁104を同一高さに取付けることが可能である。」(【0091】)との記載がある。しかも、段落【0018】には、上記記載に先行して、「既設下枠の室外側案内レールを切断して撤去したので、改修用下枠と改修用上枠との間の空間の高さ方向の幅が大きく、有効開口面積が減少することがなく、広い開口面積が確保できる。」との記載もある。
これらの事情を総合すると、構成要件Eの「同じ高さ」とは、「取付け補助部材」で「改修用下枠」を支持することにより、「背後壁の上端」と「改修用下枠の上端」とを、その間に高さの差が全くないという意味での「同じ高さ」とした場合を意味するものと理解するのが最も自然である。
他方、「ほぼ同じ高さ」について、定義その他その意味内容を明確に説明する記載は、本件明細書等には見当たらないが、以上に検討した点を併せ考えると、ここでいう「ほぼ同じ高さ」とは、「取付け補助部材」の高さ寸法を既設下枠の寸法、形状に合わせたものとすることにより、「背後壁の上端」と「改修用下枠の上端」とを、その間に高さの差が全くないという意味での「同じ高さ」とする構成を念頭に、しかし、そのような構成にしようとしても寸法誤差、設計誤差等により両者が完全には「同じ高さ」とならない場合もあり得ることから、そのような場合をも含めることを含意した表現と理解することが適当である。
イ(ア) このように解することは、本件明細書等の図1に示された実施の形態につき「前壁102の上端部から室内68に向かって上方へ傾斜する…底壁103の最も室内68側の端部に連な」る「背後壁104」が、「室内側案内レール67と同一高さまで立ち上がる」ものとされ(【0027】)、また、同図6に示された実施の形態につき「既設下枠56の背後壁104の上端部に室内68側に向かう横向片104aを有し、この横向片104aと改修用下枠69の支持壁89の上端が同一高さである」と記載されている(【0069】)一方で、図1及び6の実施の形態と比較すると「背後壁の上端」と「改修用下枠の上端」の「高さ」に図面上明らかに差が認められる図10及び11の実施の形態については、「例えば、図10に示すように取付け補助部材106の高さ寸法を大きくして室内側壁部108を底壁103に当接し、かつ室内側案内レール115にビス110で取付ける。…この場合には、支持壁89が背後壁104より若干上方に突出する。」(【0092】)と記載され、「同一高さ」等の表現が用いられていないこととも整合する。
(イ) 本件特許の出願経過に鑑みても、構成要件Eについては上記のように解釈することが適当というべきである。
・・・(略)・・・。
そして、サポート要件違反の拒絶理由通知には「本願の請求項1~6には、広い開口面積を確保する本願の課題に対応した構成が記載されていない。」と記載されている。本件明細書等の記載によれば、この「広い開口面積を確保する本願の課題」については、①既設下枠に存在した室外側案内レールを切断撤去してできたスペースを利用することで広い開口面積を確保し、「有効開口面積が減少することが少ない」(本件明細書等【0060】)ようにすることを意味するものと理解することができる一方で、②「背後壁の上端」と「改修用下枠の上端」とを「ほぼ同じ高さ」とすることで「有効開口面積が減少することがな」い(【0018】)ようにすることを意味するものと理解することも可能である。
しかし、「広い開口面積を確保する本願の課題」を①の意味に理解する場合、このような課題は本件明細書等の記載から見て本件発明により当然に解決されるべきものであるから、本件特許に係る出願の審査段階の当初から拒絶理由として通知されてしかるべきものである。ところが、実際には、サポート要件違反の拒絶理由は、審査段階のみならず審判段階でも1度目の拒絶理由通知では指摘されず、審判段階での2度目の拒絶理由通知で指摘されたのであり、このような経緯に鑑みると、「広い開口面積を確保する本願の課題」の意味を①の趣旨でサポート要件違反の拒絶理由通知がされたものと理解することは不自然というべきである。
他方、上記経過につき、審判合議体が、進歩性欠如の拒絶理由は「前記背後壁の上端と改修用下枠の上端がほぼ同じ高さであり」(構成要件E)との構成が追加されることで解消されると判断し、被控訴人らに更に補正の機会を与えるために、「広い開口面積を確保する本願の課題」につき②の意味を念頭にサポート要件違反の拒絶理由を通知したものと理解するならば、2度目の拒絶理由通知の段階において敢えてサポート要件違反の拒絶理由のみを通知したことも合理的かつ自然なこととして把握し得る。現に、審判合議体は、「既設引戸を改修用引戸に改修する際に有効開口面積が減少してしまうとういう課題を解決するものあって」、「当該構成は引用文献や他の文献から容易になし得たものであるとはいえず」との審決書の記載から明らかなとおり、サポート要件違反の拒絶理由通知を契機として「前記背後壁の上端と改修用下枠の上端がほぼ同じ高さであり」という構成要件Eが追加されたことによりサポート要件違反及び進歩性欠如の拒絶理由がいずれも解消されたものとして判断しており、このことは上記理解と整合的である。』
『(3) 被告各装置の構成要件Eの充足性について
ア 上記のとおり、構成要件Eの「ほぼ同じ高さ」とは、「取付け補助部材」の高さ寸法を既設下枠の寸法、形状に合わせたものとすることにより、「背後壁の上端」と「改修用下枠の上端」とを、その間に高さの差が全くないという意味での「同じ高さ」とする構成を念頭に、しかし、そのような構成にしようとしても寸法誤差、設計誤差等により両者が完全には「同じ高さ」とならない場合もあり得ることから、そのような場合をも含めることを含意した表現であると理解される。
そうすると、「取付け補助部材」により「改修用下枠」を支持することで「背後壁の上端」と「改修用下枠の上端」とを「同じ高さ」にしようとはしておらず、その結果、「背後壁の上端」と「改修用下枠の上端」との「高さ」の差が明らかに「段差」と評価される程度に至っている場合には、もはや構成要件Eの「ほぼ同じ高さ」に含まれないと解される。
なぜなら、本件発明は「経年変化によって老朽化した集合住宅などの建物」の「リフォーム」に関するものであるところ(本件明細書等【0002】)、リフォームに際して「段差」と評価されるものを設けるか否かは当然に考慮されるべき事項であり、明らかに「段差」と評価されるものを敢えて設けたにもかかわらず、「ほぼ同じ高さ」に含まれると解することは、当業者の一般的な理解とは異なるからである。
そして、証拠(乙27の1、2)によれば、バリアフリー住宅の基準として、設計寸法で3mm以下の一般床部の段差形状は「段差なし」と評価されていることが認められる。』

以上の判断に基づき、高さの差が5mm以上である被告各装置は、構成要件Eを充足せず、本件発明の技術的範囲に含まれないため、本件発明の技術的範囲に属さないから、本件特許権を侵害するものということはできない、と判断された。

[コメント]
今回、争点となった「ほぼ同じ高さ」は、明細書に記載がなく図面に基づいた補正事項であった。そして、その解釈が地裁と高裁とで異なり、地裁は、権利範囲が広くなるように解釈した一方で、高裁は、権利範囲が狭くなるように解釈した。
明細書には、「同一の高さ」である実施形態と、「若干上方に突出する」実施形態とが存在しており、その両方を含めるために「ほぼ同じ高さ」という用語を選択したと推測するが、「ほぼ」という曖昧な表現を使用した以上は、広く解釈される場合もあれば、狭く解釈される場合もあると考えられる。
したがって、まずは、明細書に記載された事項を用いて、違う観点で補正できないか検討し、難しい場合は、なるべく曖昧な表現を使用せずに補正できないか検討すべきである。
以上
(担当弁理士:鶴亀 史泰)