侵害差止等請求事件 » 平成28年(ワ)第13003号「プレハブ式階段」事件

名称:「プレハブ式階段」事件
実用新案権侵害差止等請求事件
東京地方裁判所:平成28年(ワ)第13003号 判決日:平成29年12月25日
判決:請求認容
実用新案法30条が準用する特許法104条の3第1項、実用新案法3条2項、29条の2
キーワード:進歩性、不当利得返還請求、実用新案技術評価書の提示
判決文:http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/399/087399_hanrei.pdf

[概要]
主引用考案に本件考案の課題が記載も示唆もなく、かかる課題が自明のものと認めるべき事情も見いだせず、さらに、主引用考案の構成に代えて本件考案の構成を採用する動機付けを阻害する要因があるとして、本件考案の進歩性が肯定され、その結果、差止請求等が認容された事例。
実用新案登録がされた後で且つ実用新案技術評価書を提示して警告する前の被告の行為に対して、不当利得返還請求が認容された事例。

[事件の経緯]
原告は、実用新案登録第3159269号の特許権者である。
原告は、被告の行為が当該実用新案権を侵害すると主張して、被告の行為の差止め等を求めた。
東京地裁は、原告の請求を認容した。

[本件考案]
【請求項1】
A 傾斜した設置地面上に互いに略平行に配置された複数の長尺部材と、
B 水平に配置された踏み板部と、鉛直に配置され上辺部が前記踏み板部の側辺部に一体的に連続又は接続された蹴上げ部とを有すると共に、前記傾斜した設置地面上に配置された長尺部材上に階段状に並べて配置されたステップ部材と、
C 一枚の板状部材が折り曲げされることにより形成され、前記長尺部材に固定された固定部材と、
D 下端部が前記設置地面の土中に埋め込まれ、上端部が前記設置地面から突き出して前記固定部材に固定された、大きな剛性を有するアンカー杭とを備え、
E 前記固定部材は、平坦な第1の平板部と、前記第1の平板部から前記板状部材の長さ方向に連続して弧を描くように折り曲げられた円弧部と、前記円弧部の前記第1の平板部と反対側の端部が折り曲げられて、前記第1の平板部と間隔を空けて互いに対向するように形成された平坦な第2の平板部とを有し、
F 前記第1の平板部及び第2の平板部には、互いに対応する位置に配置された、第1のボルト孔及び第2のボルト孔がそれぞれ形成され、
G 前記円弧部の内周面の内径寸法は、前記アンカー杭の上端部が挿通することができる大きさに形成されると共に、互いに対向する前記第1の平板部と前記第2の平板部の間隔が小さくなるにつれて、前記内径寸法が小さくなるように形成され、
H 前記円弧部の内周面の内側に、前記アンカー杭の上端部が挿し込まれ、前記第1の平板部の、前記第2の平板部と対向する側とは反対側の面が前記長尺部材に接触して配置され、
I 前記第1の平板部の前記第1のボルト孔と、前記第2の平板部の前記第2のボルト孔と、前記長尺部材の前記第1のボルト孔及び前記第2のボルト孔に対応する位置に形成されたボルト孔に、頭付ボルトのネジ部が挿通し、その挿通した前記ネジ部にナットがネジ締結することにより、互いに対向する前記第1の平板部と前記第2の平板部の間隔が小さくなり、前記アンカー杭の上端部が前記円弧部の内周面に締め付けられるように、前記固定部材が前記長尺部材に固定された
J ことを特徴とするプレハブ式階段。

[争点]
1 本件実用新案登録は実用新案登録無効審判により無効にされるべきものと認められるか(争点1)
(1) 無効理由1(乙第2号証を主引例とする進歩性欠如)は認められるか(争点1-1)
(2) 省略(争点1-2)
2 省略(争点2)
3 不当利得の額及び損害の額(争点3)

[裁判所の判断](筆者にて適宜抜粋、下線)
1 無効理由1(乙第2号証を主引例とする進歩性欠如)は認められるか(争点1-1)
(1) 本件考案と引用考案(乙第2号証考案)との相違点
『 (ア) 本件考案の「アンカー杭」が「大きな剛性を有する」(構成要件D)のに対し、引用考案の「アンカ杭9」の剛性は特定されていない点(以下「相違点1」という。)
(イ) 本件考案のプレハブ式階段は、「平坦な第1の平板部と、・・・(略)・・・、前記内径寸法が小さくなるように形成され」(構成要件EないしG)、「一枚の板状部材が折り曲げされることにより形成され、前記長尺部材に固定された固定部材」(構成要件C)を備えるのに対し、引用考案のプレハブ式階段はそのような固定部材を備えない点(以下「相違点2」という。)
(ウ) 本件考案の「アンカー杭」は、その上端部が固定部材の円弧部の内周面の内側に挿し込まれ、それぞれボルト孔を有する固定部材と長尺部材とがボルト・ナットにてネジ締結されることにより、上記内周面に締め付けられるように固定されるのに対し、引用考案の「アンカ杭9」は、「アンカ杭固定釘10」により「枠体6」の側面に固定される点(以下「相違点3」という。)』

(2) 相違点に係る容易想到性の検討
ア 相違点2及び同3について
『 (ア)・・・(略)・・・乙2公報には、・・・(略)・・・従来のプレハブ式階段において、設置面に凹凸があるために、ステップと設置面とを直接固定する鋼棒の固定力が低下する課題が存した旨の記載はあるが、引用考案において「アンカ杭固定釘10」により「アンカ杭9」を「枠体6」に固定した場合にもなお「アンカ杭9」の固定力が低下するとの課題が存することについては、乙2公報には記載も示唆もない。また、かかる課題が自明のものと認めるべき事情も見いだせない。かえって、引用考案によれば、「アンカ杭固定釘10により、アンカ杭9を枠体6の側面に固定するようにすれば、設置表面GLの凹凸面に応じて、任意の位置にアンカ杭9を打ち込むことができ、枠体6を設置面4に確実に固定することができる。」(下線を付した。)とされ(段落【0019】)、アンカ杭固定釘10による固定方法であれば設置面の凹凸に応じて任意の位置にアンカ杭9を打つことができるのに対して、本件考案では「前記長尺部材の前記第1のボルト孔と前記第2のボルト孔に対応する位置に形成されたボルト孔」(下線を付した。)と規定されており(構成要件I)、長尺部材にあらかじめボルト孔を形成しておくのであれば、出荷前の工程数が増加する上に必ずしも任意の位置にアンカ杭を打つことができなくなるし、あらかじめボルト孔を形成しないとしても、施工時にボルト孔を形成する工程が増加すると共に、固定部材とボルト・ナットを要するために引用考案より部材数が増加することになるから、アンカ杭固定釘に代えて、「b字型部材」を採用する動機付けを阻害する要因があるというべきである。
(イ)・・・(略)・・・引用考案において「アンカ杭固定釘10」により「アンカ杭9」を「枠体6」に固定した場合にもなお「アンカ杭9」の固定力が低下するとの課題が存することにつき乙2公報には記載も示唆もなく、また、同課題が自明であったと認めることもできないことは、既に述べたとおりであるから、乙第14号証に開示された構成を引用考案に適用する動機付けは認め難いというほかない。
加えて、乙第14号証(実用新案登録第3140137号公報)に開示されている略C字形状の部材(「締付部材43」)は、物置Sの壁面や脚部に固定される保持部材33と、この保持部材33に固定され、杭35が通される案内部材37とを主要部に備える杭打ち設置用具1Bを構成する保持部材33の一部を構成する部材であって(段落【0024】、【0027】)、それのみで杭35を固定するものではないところ、そのような杭打ち設置用具1Bから「締付部材43」のみを取り出して、その形状をすすんで適宜「b字型」に変更する動機付けを認めることは、より困難というほかない。』
『 (エ) したがって、当業者といえども、本件出願日当時、引用考案に周知技術又は公知の構成を適用して、又は鋼棒の固定方法を適宜設計することにより、相違点2及び同3に係る本件考案の構成に想到することが極めて容易であったと認めることはできない。』

(3)小括
『 以上によれば、本件考案は、当業者が本件出願日当時引用考案に基づいて極めて容易に考案をすることができたものとは認められないから、被告の主張する無効理由1は成り立たない。』

3 不当利得の額及び損害の額(争点3)
『ア 不当利得金の算定の対象となる期間について
・・・(略)・・・被告は、不当利得金の算定の基礎とされるべき被告製品の譲渡等は、本件考案に係る実用新案技術評価書が発送された平成27年5月21日以降にされたものに限られるべきとか、原告が提出した訂正書が受理された平成26年7月7日以降にされたものに限られるべき旨主張している。
実用新案法14条の2第11項は、同条1項に規定する実用新案権者による訂正があったときは、その訂正後における明細書、実用新案登録請求の範囲又は図面により実用新案登録出願及び実用新案権の設定の登録がされたものとみなす旨規定しているから、原告が平成26年7月7日付け訂正書によってした実用新案登録請求の範囲の訂正の効力は、本件実用新案登録の日である平成22年4月14日に遡及することとなる。したがって、被告製品が上記訂正後の実用新案登録請求の範囲の構成要件を全て充足し、本件考案の技術的範囲に含まれる以上、被告は、原告に実施料を支払うことなく、平成22年4月14日以降に被告製品を譲渡等したことにより、実施料相当額の利得を得ており、原告は、これと同額の損失を受けたものというべきである。
この点について、被告は、実用新案技術評価書を提示して警告した後でなくては実用新案権を行使できないことから、進歩性を認める旨の実用新案技術評価書が発送された日や、当該進歩性を認める旨の実用新案技術評価書の基礎とされた訂正書が受理された日が、不当利得金の算定の対象となる期間の始期とされるべき旨主張するが、実用新案技術評価書の提示は、権利を行使するための手続的要件にすぎず、実用新案技術評価書を請求する以前には実用新案権が実体的に存在しないということにはならないから、被告の主張は採用することができない。』

[コメント]
相違点に係る構成自体は周知なのかもしれないが、相違点に係る構成を採用する動機付けが少なくとも公知でない以上、本件考案の進歩性を否定することはできないと考える。特に、周知技術に基づいて進歩性を否定する際には、その構成だけでなく、その課題や作用効果を含めて周知技術であることを立証する必要があるだろう。
また、実用新案登録がされた後で且つ実用新案技術評価書を提示して警告する前の被告の行為に対して、不当利得返還請求が認容された。したがって、実用新案権に対して、警告を受ける前の行為に対しても不当利得返還請求がされるおそれがあることに留意すべきである。
以上
(担当弁理士:鶴亀 史泰)