侵害差止等請求事件 » 平成28年(ネ)第10096号「ナビゲーション装置及び方法」事件

名称:「ナビゲーション装置及び方法」事件
損害賠償請求控訴事件
知的財産高等裁判所:平成28年(ネ)第10096号 判決日:平成29年5月23日
判決:控訴棄却
特許法70条
キーワード:文言侵害、均等
判決文:http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/754/086754_hanrei.pdf

[概要]
被控訴人装置は、本件発明の構成要件Gを充足しないので本件発明の技術的範囲に属さず、構成要件Gは従来技術には見られない特有の技術的思想を有する本件発明の特徴的部分であり第1要件を充足せず、更に、第4要件も充足せず、均等侵害も構成しないとして、控訴が棄却された事例。

[事件の経緯]
控訴人(原告)は、特許第3442138号(以下、「本件特許」)の特許権者である。
控訴人(原告)は、被控訴人(被告)の行為が当該特許権を侵害すると主張して、損害賠償を求めた。東京地裁は、控訴人(原告)の請求を、構成要件Gを充足せず、更に、均等侵害の第1要件及び第2要件を充足しないとして棄却した。
控訴人(原告)は、原判決を不服として控訴したが、知的財産高等裁判所は、控訴を棄却した。

[本件訂正発明](原審判決から抜粋)
【請求項1】
A 移動体の現在位置を測定する現在位置測定手段と、
B 前記現在位置から経由地を含む前記移動体が到達すべき目的地までの経路設定を指示する設定指令が入力される入力手段と、
C 前記設定指令が入力され、経路の探索を開始する時点の前記移動体の現在位置を探索開始地点として記憶する記憶手段と、
D 前記記憶した探索開始地点を基に前記経路の探索を行い、当該経路を経路データとして設定する経路データ設定手段と、
E 前記移動体の現在位置と前記設定された経路データとに基づいて前記移動体を目的地まで経路誘導するための誘導情報を出力する誘導情報出力手段と、
F 前記移動体の移動に基づいて前記誘導情報出力手段を制御する制御手段と、を備え、
G 前記制御手段は、前記記憶した探索開始地点と、当該経路データが設定され、前記移動体の経路誘導が開始される時点の当該移動体の現在位置を示す誘導開始地点とが異なり、誘導開始地点が、設定された経路上の、経由予定地点を超えた地点となる場合に、前記誘導開始地点からの前記移動体の誘導開始に基づいて前記誘導情報出力手段を制御する
H ことを特徴とするナビゲーション装置。

[争点](ここでは、争点1、2のみを紹介)
(1)被控訴人(被告)装置は本件発明の構成要件Gを充足するか
(なお、被控訴人(被告)装置が本件発明の構成要件AないしF、Hを充足することは当事者間に争いがない。)
(2)被控訴人(被告)装置は本件発明と均等であるか

[控訴人(原告)の主張]
本件発明の構成要件G’における「前記記憶した探索開始地点と、当該経路データが設定され、前記移動体の経路誘導が開始される時点の当該移動体の現在位置を示す誘導開始地点とが異なり、誘導開始地点が、設定された経路上の、経由予定地点を超えた地点となる場合」とは、探索開始地点が属するリンクを含む、探索された目的地までの経路リンクのリスト(経路データ)と、誘導開始地点が属するリンクとを比較した結果、3つの全ての条件(探索開始地点が属するリンクと誘導開始地点が属するリンクとが異なっており、誘導開始地点が属するリンクが、経路リンクのリスト中のリンクであって、経由予定地点を超えた(同リスト中の後続の)リンクと対応すること)を満足する場合である。
そして、「前記誘導開始地点からの前記移動体の誘導開始に基づいて前記誘導情報出力手段を制御する」とは、当該一致した経路リンクに基づいて同リンクから誘導を行うことである。

[裁判所の判断]
『2 争点(1)(被控訴人装置は本件発明の構成要件Gを充足するか)について
(1) 構成要件Gの解釈について
ア ・・・(略)・・・、上記構成要件の文言によれば、本件発明は、探索開始地点と誘導開始地点とを比較して両地点が異なることという要件を充たす場合に、所定の制御を行うものであると解される。
・・・(略)・・・
ウ 出願経過
・・・(略)・・・
これらの記載によれば、控訴人は、探索開始地点を記憶し、この記憶された探索開始地点と経路誘導が開始される時点での移動体の現在位置を比較する点が明確でないとの指摘に対し、上記意見書において、かかる点を明確にするために、探索開始地点が記憶されること及び探索開始地点と誘導開始地点を比較することを明確にし、同旨の補正を行ったのであるから、リンクと関連付けられていない探索開始地点を地点として記憶した上で誘導開始地点と比較すること、すなわち、地点同士を比較することを明らかにした趣旨であると解するのが相当である。
以上のとおり、構成要件Gの前段が、リンクとリンクではなく、地点と地点を比較するものと解釈すべきことは、本件特許の出願経過からも裏付けられる。
エ 控訴人の主張について
・・・(略)・・・
確かに、本件特許出願当時において、ナビゲーション装置が、距離センサー、方位センサー及びGPSなどを使って現在位置を検出し、それを電子地図データに含まれるリンクに対してマップマッチングさせ、出発地点に最も近いノード又はリンクを始点とし、目的地に最も近いノード又はリンクを終点とし、ダイクストラ法等を用いて経路を探索し、得られた経路に基づいて、マップマッチングによって特定されたリンク上の現在地から目的地まで経路誘導するものであったことは、技術常識であったと認められる(争いのない事実。甲8、12~14、24~27)。
(イ)しかし、かかる技術常識は、本件特許の構成要件D(経路探索)又はE(経路誘導)に関するものであり、構成要件Gに直接対応付けられるものではない。そして、上記技術常識においても、出発地点と経路誘導に用いるノードとは一致するものではなく(現に、被控訴人装置においても、出発地点と経路誘導に用いるノードは一致しない。乙14)、構成要件Gの「探索開始地点」について、対応するリンクを特定する必要はないものと解される。そうすると、上記技術常識を考慮しても、「探索開始地点」と「誘導開始地点」とを比較する上で、各点の存するリンクとリンクを比較する構成が当然に導かれるものではないというべきである。そして、別件特許(甲27、乙18)の明細書の記載の仕方を考慮しても、上記判断は左右されるものではない。
(ウ)また、仮に、控訴人主張のとおり、リンク同士を比較するものと解するとすれば、構成要件Gの前段における「異なる場合」の判断手法は、従来技術におけるリンクを用いた位置の把握と何ら変わりなく、同後段は、同前段の場合の誘導情報出力手段を規定したにすぎないから、本件発明の新規性・進歩性を認めることが困難となる。』
『(2) 被控訴人装置について
ア 証拠(乙16の1)によれば、被控訴人装置においては、①経路誘導の計算が行われ、これが終了すると、出発地点P0から目的地Pnまでの経路を示す経路リンクのリストがメモリに保存され、②他方で、上記①の経路誘導とは独立して、継続的に、車両の現在位置Cと地図データの地図リンクとのマッチングが行われ、その際、車両の現在位置Cと、地図データのノード間を結ぶ地図リンクとを比較することで、車両の現在位置Cと一致する地図リンクを特定し、③上記②のマップマッチングで特定されたリンクが上記①の経路リンクと比較され、経路リンクの一つと直接対応すると、後記の道路境界領域の処理は行われず、その代わりに地図リンクと一致する経路リンクに基づいて誘導が行われ、他方で、位置Cが、経路リンクに載っていない場合、所定の方法で絞り込んだ道路境界領域内のリンクと現在位置とを比較してリンク上に載っているか否かの判定をするとの作業が行われていることが認められる。
イ 以上のとおり、被控訴人装置においては、車両の現在位置Cと一致する経路リンクに基づいて経路誘導を行っているのであって、探索開始地点と誘導開始地点を比較して両地点が異なるかどうかを判断する作業は行われていないし、その必要もないと認められる。』

『3 争点(2)(被控訴人装置は本件発明と均等であるか)について
・・・(略)・・・
(3) 第1要件について
ア 均等の第1要件における本質的部分とは、当該特許発明の特許請求の範囲の記載のうち、従来技術に見られない特有の技術的思想を構成する特徴的部分であり、上記本質的部分は、特許請求の範囲及び明細書の記載に基づいて、特許発明の課題及び解決手段(特許法36条4項、特許法施行規則24条の2参照)とその効果(目的及び構成とその効果。平成6年法律第116号による改正前の特許法36条4項参照)を把握した上で、特許発明の特許請求の範囲の記載のうち、従来技術に見られない特有の技術的思想を構成する特徴的部分が何であるかを確定することによって認定されるべきである。ただし、明細書に従来技術が解決できなかった課題として記載されているところが、出願時(又は優先権主張日)の従来技術に照らして客観的に見て不十分な場合には、明細書に記載されていない従来技術も参酌して、当該特許発明の従来技術に見られない特有の技術的思想を構成する特徴的部分が認定されるべきである。
・・・(略)・・・
このように、本件発明は、上記技術常識に基づく経路誘導において、車両が動くことにより探索開始地点と誘導開始地点の「ずれ」が生じ、車両等が経由予定地点を通過してしまうことを従来技術における課題とし、これを解決することを目的として、上記「ずれ」の有無を判断するために、探索開始地点と誘導開始地点とを比較して両地点の異同を判断し、探索開始地点と誘導開始地点とが異なる場合には、誘導開始地点から誘導を開始することを定めており、この点は、従来技術には見られない特有の技術的思想を有する本件発明の特徴的部分であるといえる。
したがって、探索開始地点と誘導開始地点とを比較して両地点の異同を判断する構成を有しない被控訴人装置が本件発明と本質的部分を異にすることは明らかである。
(4) 第4要件について
探索開始地点と誘導開始地点とが異なる場合を判別するために、リンクとリンクを比較する構成については、前記2(1)エ(ア)認定の従来技術を用いることにほかならないから、当業者が容易に推考できたものである。
(5) 小括
したがって、本件発明の構成要件Gを被控訴人装置の構成に置換することは、少なくとも均等の第1要件及び第4要件を充足しないから、被控訴人装置が本件発明と均等であるとはいえない。』

[コメント]
控訴人(原告)の主張は、請求項に明記された地点と地点との比較を、地点に対応するリンク同士の比較であると拡張解釈するものに見受けられる。この主張は、明細書に記載されておらず、意見書で述べたことに反するうえ、当事者同士が認める従来技術であるリンク同士の比較を権利範囲に取り込むことになるので、認められなかった。
均等論の第1要件である本質的部分については、明細書に記載された従来技術が解決できない課題に対応する部分が、本件発明の従来技術に見られない本質的特徴であると認定されている。
侵害訴訟における文言解釈および均等論の当てはめの一例として参考になる。

以上

(担当弁理士:坪内 哲也)