侵害差止等請求事件 » 平成28年(ワ)第24175号「気体溶解装置及び気体溶解方法」事件

名称:「気体溶解装置及び気体溶解方法」事件
特許権侵害差止等請求事件
東京地方裁判所:平成28年(ワ)第24175号 判決日:平成29年9月21日
判決:請求棄却
特許法100条
キーワード:特許権侵害行為差止
判決文:http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/114/087114_hanrei.pdf

[概要]
本件発明1の「前記溶存槽及び前記取出口を接続する管状路」における「接続」には、その意義に鑑み、溶存槽と取出口が管状路により直接接続されるものを意味すると解され、冷水タンクを介して接続する被告製品は文言侵害及び均等侵害のいずれも構成しないとして、差止請求が棄却された事例。

[事件の経緯]
原告は、特許第5865560号の特許権者である。
原告は、被告の行為が当該特許権を侵害すると主張して、被告の行為の差止め等を求めた。
東京地裁は、原告の請求を棄却した。

[本件発明]
【請求項1】
A:水に水素を溶解させて水素水を生成し取出口から吐出させる気体溶解装置であって、
B:固体高分子膜(PEM)を挟んだ電気分解により水素を発生させる水素発生手段と、
C:前記水素発生手段からの水素を水素バブルとして水に与えて加圧送水する加圧型気体溶解手段と、
D:前記加圧型気体溶解手段で生成した水素水を導いて貯留する溶存槽と、
E:前記溶存槽及び前記取出口を接続する管状路と、を含み、
F:前記溶存槽に貯留された水素を飽和状態で含む前記水素水を前記加圧型気体溶解手段に送出し加圧送水して循環させ前記水素バブルをナノバブルとするとともにこの一部を前記水素発生手段に導き電気分解に供することを特徴とする気体溶解装置。

[被告の行為]
被告は、被告製品(水素水サーバー)の輸入販売をしている。被告製品は、分離型電気分解方式(PEM方式)により水又は水素水を電気分解して水素を得る機能を有する水素発生器及び当該水素発生器から発生した水素を水に与えて加圧送水するポンプのほか、カーボンフィルタ、冷水タンク、カーボンフィルタと冷水タンクを接続する細管、冷水タンクに溶接された金属管を備えている。

[争点]
・争点(1)ア~イ、オ~キ:省略
・争点(1)ウ 「前記溶存槽及び前記取出口を接続する管状路」(構成要件E)の充足性
・争点(1)エ 「前記溶存槽及び前記取出口を接続する管状路」(構成要件E)についての均等侵害の成否
・争点(2)~(3):省略

[裁判所の判断](筆者にて適宜抜粋)
『4 争点(1)ウ(「前記溶存槽及び前記取出口を接続する管状路」(構成要件E)の充足性)について
(1)原告は、本件発明1の「前記溶存槽及び前記取出口を接続する管状路」における「接続」は、直接的な接続のほか、間接的な接続も含むと解し、被告製品においてカーボンフィルタと冷水タンクを接続している細管は、本件発明1の「管状路」に該当すると主張している。
(2)ア 本件発明1の特許請求の範囲の記載によれば、「管状路」は「溶存槽」と「取出口」を「接続する」とされているのであり、また、溶存槽と取出口との接続に管状路以外の部材を用いることは何ら記載されていない。特許請求の範囲には、溶存槽と取出口が管状路によって接続されていること、すなわち、両端が溶存槽と取出口に接続された管状路によって溶存槽と取出口が接続されていることが記載されているといえる。本件明細書を見ても、管状路以外の部材を介在させて溶存槽と取出口とを接続する構成は一切開示されていない。
また、溶存槽と取出口を接続する「管状路」の意義についてみると、本件明細書には、溶存槽の液体が「管状路」を流れることで降圧され、吐出口から外部に吐出されること・・・(略)・・・が記載され、「管状路」において液体が降圧することが記載されている。そして、前記1で説示したとおり、本件発明1が、気体溶解装置において、水素水を循環させるとともに、水素水にかかる圧力を調整することにより、水素を飽和状態で水に溶解させ、その状態を安定的に維持し、水素水から水素を離脱させずに外部に提供するという意義を有するものであることからすると、本件発明1においては、「取出口」まで生成された水素水から水素が離脱しないように水素水が流れる構成を採用する必要がある。本件発明1は、「溶存槽」と水素水が外部へ取り出される「取出口」とを「管状路」で直接接続し、「管状路」において水素水が降圧されるとすることによって、本件装置から水素水が取り出される直前まで水素水にかかる圧力を調整し、水素水から水素が離脱しないようにしているといえる。
以上の点を踏まえると、構成要件Eにおける「前記溶存槽及び前記取出口を接続する管状路」とは、「溶存槽」と「取出口」を接続する部材を「管状路」に限定し、管状路の両端に溶存槽と取出口が接続される構成とする趣旨であり、「溶存槽」と「取出口」の間に水素水にかかる圧力の調整ができなくなる部材を含まないものと解される。
・・・(略)・・・
原告は、管状路の意義からすれば、管状路は溶存槽の出口から大気圧に解放される取出口に至るまでの間に接続されていればよいとも主張するが、上記のとおり、特許請求の範囲の記載及び本件発明の意義に反するものであり、採用することができない。
・・・(略)・・・
(3) 原告は、被告製品の細管が構成要件Eの管状路に該当すると主張する。
被告製品の細管の両端は、溶存槽であるカーボンフィルタと、被告製品の内部に設けられている冷水タンクに接続されていて、被告製品の細管はカーボンフィルタと冷水タンクを接続するものであり、カーボンフィルタと取出口である金属管の開口部とを接続するものとはいえない。
原告は、①冷水タンクには金属管が溶接されていることから、冷水タンクと金属管はほぼ一体であるとみなすことができる、②細管と冷水タンクの接続箇所及び冷水タンクと金属管の接続箇所の距離が非常に近いこと等からすると、細管はカーボンフィルタと取出口である開口部を含む金属管を直接的に接続するものと評価してよいと主張する。
しかし、構成要件Eの管状路の意義は前記アのとおりのもので、「溶存槽」と「取出口」の間に水素水にかかる圧力の調整ができなくなる部材を含まないものであるところ、大気圧下にある冷水タンクにおいては水素水にかかる圧力の調整ができなくなるから、細管から取出口である開口部を含む金属管に至るまでに冷水タンクがある被告製品において、冷水タンクに金属管が溶接され、細管と冷水タンクの接続箇所及び冷水タンクと金属管の接続箇所の距離が近いとしても、被告製品の細管が構成要件Eの管状路であるということはできない。原告の主張は採用することができない。』

『5 争点 エ(「前記溶存槽及び前記取出口を接続する管状路」(構成要件E)についての均等侵害の成否)
前記3のとおり、被告製品は「管状路に当たる細管がカーボンフィルタの出口と冷水タンクの入口を接続する」という構成であり、本件発明1の管状路が「前記溶存槽及び前記取出口を接続する」構成と相違する。しかし、原告は、被告製品の上記構成は本件発明1の上記構成と均等であると主張するので、この点について検討する。
(1)第一要件
・・・(略)・・・
本件発明1では、・・・(略)・・・気体溶解装置において、気体が飽和状態で溶解した状態を安定的に維持し、水素水から水素を離脱させずに外部に提供するためには、水素を溶解させた状態の水素水が気体溶解装置の外部に排出されるまでの間に、水素水にかかる圧力の調整ができなくなることを避ける必要がある。このため、本件発明1では「前記溶存槽及び前記取出口を接続する管状路」(構成要件E)という構成を採用し、水素を溶解させた水素水が導かれる溶存槽と水素水を気体溶解装置外に吐出する取出口との間を管状路で直接接続し、水素水にかかる圧力の調整ができなくなることを避けているものと解される。
以上のような本件発明1の課題、解決方法及びその効果に照らすと、生成した水素水を循環させるという構成のほか、管状路が溶存槽と取出口を直接接続するという構成も、本件発明1の本質的部分、すなわち従来技術に見られない特有の技術的思想を構成する特徴的部分に該当するというべきである。
被告製品は、管状路が溶存槽と取出口を接続するという構成を採用していないことは前記4のとおりであるから、被告製品の構成は、本件発明1と本質的部分において相違するものと認められる。
イ これに対し、原告は、本件発明1の本質的部分は、生成された水素水が大気圧に急峻に戻るのを防ぐため、管状路を加圧状態から大気圧状態までの圧力変動があり得る構成と構成の間に接続することであり、被告製品では、冷水タンクにおいて水素水にかかる圧力が大気圧となるから、カーボンフィルタと冷水タンクを細管で接続する構成は本件発明1と本質的部分において相違しない旨主張する。
しかし、被告製品のように、溶存槽から取出口までの間に水素水にかかる圧力が大気圧となる構成を設けた場合には、被告製品の取出口から水素水が取り出される前に、生成された水素水に対する圧力の調整ができなくなって水素が離脱し得ることになってしまい、「水素水から水素を離脱させずに外部に提供する」という効果を奏することができない。したがって、本件発明1において、溶存槽と大気圧状態までの圧力変動があり得る構成の間に管状路を接続することが本質的部分であると解することはできず、原告の主張は採用することができない。』

[コメント]
裁判所は、「前記溶存槽及び前記取出口を接続する管状路」の技術的意義について、『本件発明1は、「溶存槽」と水素水が外部へ取り出される「取出口」とを「管状路」で直接接続し、「管状路」において水素水が降圧されるとすることによって、本件装置から水素水が取り出される直前まで水素水にかかる圧力を調整し、水素水から水素が離脱しないようにしている』ことを本件発明の本質的部分として認定し、細管から取出口である開口部を含む金属管に至るまでに冷水タンクがある被告製品は文言侵害も均等侵害も構成しないと結論付けている。明細書に具体的に記載された管状路の特徴を考慮すれば首肯し得るものの、請求項1の文言上、単に「管状路」と記載されているだけであるので、そこに圧力調整機能を読み込ませるのは若干行き過ぎの感がある。裁判所は本質的部分を管状路にも置くのではなく、生成した水素水を循環させる構成にあるとすれば、納得感のある結論となり得たのではないだろうか。特に、本件発明1の進歩性が循環構造にあると認定され、本件特許が成立したのであれば、本質的部分の所在もそれに合わせて認定されるべきであろう。請求項の文言と明細書における記載との参酌のバランスが求められるところである。
以上
(担当弁理士:藤井 康輔)