侵害差止等請求事件 » 平成26年(ワ)第10739号「臀部拭き取り装置」事件

名称:「臀部拭き取り装置」事件
特許権侵害差止等請求事件
大阪地方裁判所:平成26年(ワ)第10739号 判決日:平成28年9月29日
判決:請求一部認容(ただし本判例研究では棄却部分を取り上げ)
特許法70条
キーワード:構成要件充足性、均等侵害、第5要件、第2要件

[概要]
イ号及びロ号物件は、複数のサーボモータを備えておらず文言侵害は成立せず、均等の第5要件等も満たさないとして均等侵害も否認された事例。

[事件の経緯]
原告は、特許第4641313号(本件特許1)、特許第5065467号(本件特許2)、特許第5528961号(本件特許3)の特許権者である。
原告は、被告の行為が当該特許権を侵害すると主張して、被告の行為の差止め等を求めた。
大阪地裁は、本件特許3に関しては原告の請求を認め、本件特許1および本件特許2に関しては、原告の請求を棄却した。

[本件発明2]
【請求項1】(筆者にて下線)
A:トイレットペーパーで臀部を拭く臀部拭き取り装置であって、
B:前記トイレットペーパーを取り付けるための拭き取りアームと、
C:前記臀部を拭き取る位置まで前記拭き取りアームを移動させる拭き取りアーム駆動部とを備え、
D:前記拭き取りアーム駆動部は、複数のサーボモータによる回転動作によって、前記拭き取りアームを上下、前後、及び左右方向に移動させることができることを特徴とする、臀部拭き取り装置。

[争点]
(1)イ号物件及びロ号物件は本件発明2の技術的範囲に属するか(文言侵害)
(2)イ号物件及びロ号物件は本件発明2の技術的範囲に属するか(均等侵害)
(3)他の争点は省略

[裁判所の判断](筆者にて適宜抜粋、下線)
(1)文言侵害について
『(2) ところで、本件発明2の構成要件Dにいう「サーボモータ」については、本件明細書2に特別な定義がないから、その普通の意味で用いられているものと解されるところ、証拠・・・(略)・・・によれば、「サーボモータ」については明確な定義があるわけではなく、サーボ機構によって制御されるに適したモータそのものを指す意味でも用いられている場合も、サーボ機構を有しサーボ制御されたモータを、サーボ機構と一体のものとして指す意味で用いられる場合もあると認められるが、・・・(略)・・・原告が定義するように、回転速度制御、トルク制御、回転位置制御などの一以上組み合わせることで、目的に応じた運転を実現するところ、これらを制御するためのシステムとしてサーボ機構が存在し、これによりサーボ制御されたモータのこと、すなわち上記後者の意味でのサーボモータを指すものと理解するのが相当である。
そして、そこでいうサーボ機構とは、「制御対象となる装置の入力が任意に変化するとき、その出力をあらかじめ設定された目標値に自動的に追従させる機構」、「物体の位置、方位、姿勢などを制御量とし、目標値の任意の変化に追従するように構成された制御系、フィードバック制御を行うのが普通である」とされ、またフィードバック制御とは、フィードバック(結果の反映)によって、制御量と目標値とを比較し、それらを一致させるように訂正動作を行う制御である(乙14)から、「サーボモータ」として機能するサーボ機構には、制御対象となるモータの回転速度、回転トルク、回転位置等の制御量を検出するためのエンコーダが必要とされるものと解される』

(ア モータ12aについて)
『モータ12aに用いられているリニアアクチュエータには、「エンコーダ取付可能」、「検出器としてのマイクロスイッチを標準装備」とされていることが認められるが、イ号物件においてフィードバックを可能とするエンコーダが取り付けられていると認めるに足りる証拠はない。』
『なお、上記定義を検討したサーボモータは、モータの動きをより正確に制御することを目的としてあえてコスト高となるサーボ機構という特別の機構を備えているものであり、これによりサーボモータと称されているものであるから、動作を制御できる何らかの仕組みを備えているからといって、サーボ機構を備えていないモータをもって、本件発明2でいう「サーボモータ」といえないことはいうまでもない。したがって、イ号物件及びロ号物件のモータ12aは、本件発明2にいう「サーボモータ」には当たらないというべきである。』

(イ モータ13について)
『そして、イ号物件及びロ号物件が試作品にすぎないことからすると、モータ13は、市販のサーボケースに市販のDCモータを挿入し、モータ13用構造物に接合して自作したものであるとの被告らの説明は、あながち不合理であるといえない。
したがって、モータ13も同様に、制御対象を検知する装置を装備していることを認めるに足る証拠はなく、・・・(略)・・・モータ12aと同様、本件発明2にいう「サーボモータ」には当たらないというべきである。』

(2)均等侵害について
『ア 本件特許2の出願当初の特許請求の範囲の記載には、構成要件Dに相当する記載がなかったが、平成24年5月8日付拒絶理由通知書(乙9の4)において、特開昭49-6751号公報を引用文献1として引用され、・・・(略)・・・
イ これを受けて原告は、同年7月3日、意見書(乙9の3)を付して、本件発明2の構成要件Dに相当する「前記拭き取りアーム駆動部は、複数のサーボモータによる回転動作によって、前記拭き取りアームを上下、前後、及び左右方向に移動させることができる」との記載を特許請求の範囲の記載に加える補正をした。
ウ なお、上記意見書(乙9の3)には、以下の記載がある。・・・(略)・・・また、サーボモータを利用すればデリケートな動きを実現することができるので、肛門部分に過度な力が入るのを防止でき、事故等を防止することができます。また、サーボモータを利用すれば拭き取りアームの位置調整も可能となり、ユーザの好みに応じた拭き取りも実現できます。これらの有利な効果は、当初明細書の段落0016に記載されており、進歩性の是認に参酌されるべきであると考えます。」
(5) 以上を前提に検討すると、本件特許2の出願当時、サーボモータと、それ以外の制御方法によるモータは周知であったところ、原告は、拒絶理由通知を受けてする補正において、当初出願明細書に記載されていた本件発明2の効果である拭き取りアームのデリケートな動きにつき、そのデリケートな動きが複数のサーボモータによるものであることを特許請求の範囲の記載に加えて特定したのであるから、原告は、構成要件Dを加えることにより、拭き取りアームを作動させるモータとしては、複数のサーボモータによることに限定した、すなわち、それ以外のモータ(動作の制御性能においてサーボモータに劣るモータ)を用いることを意識的に除外したものということもできる。
そうすると、一つのサーボモータとそれ以外のモータ二つで拭き取りアームを作動させているイ号物件及びロ号物件の構成は、本件発明2から意識的に除外されている構成からなるものといえるから、均等要件のうち第5要件を充足しないというべきであり、本件発明2と均等であるということはできない(なお、仮に上記出願経過を理由としてサーボモータでないモータが意識的に除外されているということができないとしても、上記出願経過によれば、本件発明2の効果の一つである拭き取りアームのデリケートな動きは、制御性能に優るサーボモータを複数用いることよって初めて実現されているものと理解されるべきであるから、サーボモータを一つだけ用い、これとそれ以外のモータを二つによって拭き取りアームを動かすイ号物件及びロ号物件は、本件発明2の構成によるようなデリケートなアーム駆動部の動きを実現しているものとはいえず、同一の作用効果を奏するものとはいうことできない。・・・(略)・・・置換可能とはいえず、したがって均等要件のうち第2要件を充足しないというべきであるから、この点で本件発明2と均等とはいえないということになる。)。』

[コメント]
「サーボモータ」という用語は一般的に使用される用語であり、明細書にも特段の定義はなかったため、一般的に用いられる意味に解釈された。
明細書にはサーボモータ以外のモータの記載もあったが、拒絶理由通知に対する補正によりサーボモータに限定された。そのためサーボモータ以外のモータは意識的除外されたものとして均等侵害は成立しなかった。
技術的範囲の解釈として妥当な判断であると思われる。
以上
(担当弁理士:谷口 俊彦)