侵害差止等請求事件 » 平成28年(ネ)第10027号「電子ショッピングモールシステム」事件

名称:「電子ショッピングモールシステム」事件
損害賠償等請求控訴事件
知的財産高等裁判所:平成28年(ネ)第10027号 判決日:平成28年11月24日
判決:控訴棄却
特許法29条第2項、104条の3
キーワード:進歩性、公知書籍(主引例)、権利行使の制限

[概要]
本件の控訴後の訂正審判において主引例である書籍に対する独立特許要件(新規性・進歩性)を満たし、訂正が認められた訂正後発明について、控訴審では同書籍に記載された発明に周知技術を適用すれば進歩性がなく無効にされるべきで特許権を行使することができないとして、控訴が棄却された事例。

[事件の経緯]
控訴人ら(原審原告ら)は、特許第4598070号の特許権者である。
控訴人らが、被控訴人(原審被告)の行為が当該特許権を侵害すると主張して、被控訴人の行為に基づく損害賠償金等5億円の支払いを求めた(東京地裁平成26年(ワ)第25282号)ところ、東京地裁が、発明は刊行物により新規性がなく無効にされるべきものであるので、権利行使をすることができないとして、その余の争点を判断することなく、控訴人らの請求を棄却する判決をした。そのため、控訴人らは、原判決を不服として、控訴を提起した。提起後に、控訴人らは訂正審判(訂正2016-390052号)を請求し、訂正を認める審決が確定した。
知財高裁は、訂正後の発明は、前記刊行物及び周知技術により進歩性がなく無効にされるべきものであるので、権利行使をすることができないとして、その余の争点を判断することなく、控訴人らの控訴を棄却した。

[本件発明]
【請求項4】
A 回線網を介して接続されたクライアント装置を用いた電子ショッピングモールを管理する管理装置であって、
B 前記電子ショッピングモールが扱う商品に対応づけて、
前記電子ショッピングモールの全体に設定される商品分類に基づく共通カテゴリと、
当該商品を取り扱う店舗ごとに設定される商品分類に基づく店舗カテゴリと
を示す情報が保存された、商品情報テーブルを記憶する記憶部と、
C 前記共通カテゴリを示す情報と
前記共通カテゴリに分類される商品を示す情報
を前記記憶部から取得して前記クライアント装置に送信する第1の送信部と、
D 前記第1の送信部により送信された
前記共通カテゴリを示す情報と
前記共通カテゴリに分類される商品を示す情報
が前記クライアント装置により表示された後、
当該表示された商品がユーザによって選択された旨が前記クライアント装置から通知された場合に、前記記憶部に記憶された前記商品情報テーブルを検索し、
前記店舗カテゴリを示す情報と
前記店舗カテゴリに分類される商品を示す情報
を前記記憶部から取得してWEBページデータを生成し、前記クライアントに送信する第2の送信部と、
E を備えることを特徴とする管理装置。
【請求項7】※請求項4の方法クレームであるため、省略

[被控訴人行為等]
「楽天市場」という名称のインターネット・ショッピングモールのサービスを提供

[争点]
1.被告装置・方法が本件各訂正発明の構成要件B、D等を充足するか
2.無効理由の有無
3.先使用権の有無
4.損害額
※原審及び本控訴審において、乙16号証(書籍「楽天市場の賢い買い方・使い方」)を主たる証拠とする無効理由のみが判断された。

[原審の判断]
乙16により、訂正前発明の新規性がないと判断された。

[裁判所の判断]
乙16との相違点1~3が認定された。
相違点(1):「商品テーブルに保存される」
相違点(2):「記憶部に記憶された商品テーブルを検索する」
相違点(3):「WEBページデータを生成する」
相違点(4):「店舗カテゴリを示す情報と前記店舗カテゴリに分類される商品を示す情報を記憶部から取得して」
※相違点(4)は控訴人ら主張の相違点であり、訂正審判で認められたようである。本審では認められなかった。
『相違点(1)について
・・・(略)・・・
以上のような各文献の記載によれば、インターネットショッピングにおいて、その運営・管理に必要となる商品に関する各種情報を記憶するに当たり、テーブル(すなわち、行と列からなる2次元の表)の形式で保存することは、本件特許の優先日当時における周知技術であったことが優に認められる。・・(略)・・乙16発明に対し、同様の技術分野における上記周知技術を適用することにより、「共通カテゴリ」や「店舗カテゴリ」を含む商品情報等の記憶を、「商品情報テーブル」に「保存され」るものとして行い、相違点に係る本件各訂正発明の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たものと認められる。』
『相違点(2)について
・・・(略)・・・
乙16発明において、上記周知技術を適用するに当たり、相違点に係る本件各訂正発明の構成とすることに併せて、相違点に係る本件各訂正発明の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たものと認められる。』
『相違点(3)について
WEBページデータの送信に当たっては、①静的コンテンツ(要求のパスに指定されたHTMLなどのデータがそのまま応答のデータとしてブラウザに送信される方式のWEBページ)として、サーバ装置に保存されていたデータを呼び出してそのまま送信する方法のほか、②動的コンテンツ(パスと共にクエリと呼ばれるパラメータが要求データとして送信され、これを受信したWEBサーバは、スクリプトと呼ばれるプログラムに渡されたパラメータを指定して実行することで結果を生成し、それを応答のデータとしてブラウザに送信する方式のWEBページ)として、取得した情報からその都度データを「生成」して送信する方法があることは、インターネットに係る技術分野における本件優先日前の技術常識であったことが認められる。
してみると、乙16発明において、技術常識である上記②方法を採用し、記憶手段から取得した個別の店舗独自に設定された商品分類に基づくジャンルの情報と当該ジャンルに属する商品の情報からWEBページデータを「生成」してユーザ端末に送信するようにすることにより、相違点に係る本件各訂正発明の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たものと認められる。
これに対し、控訴人らは、乙16発明に係る旧被告装置・方法は、動的コンテンツとしてWEBページデータを生成する際のプログラムの実行に伴う負荷を軽減し、応答速度が遅くなることを回避するという設計思想により、静的コンテンツとして保存されたWEBページデータを呼び出してそのまま送信する構成を採用したものと推察されるから、このような旧被告装置・方法において、相違点に係る本件各訂正発明の構成とすることには阻害要因がある旨を主張する。
しかしながら、WEBページデータの送信に当たっての①方法と②の方法とを比較すると、①の方法では、送信する全てのWEBページデータを記憶手段に保持しておかねばならないから、それに見合う容量の記憶手段を備えるためのコストがかかるという短所を有する一方で、WEBページデータの生成に係るサーバ装置の処理負担を軽減できるという長所を有し、逆に、②の方法では、WEBページデータの生成に係るサーバ装置の処理負担が増大するという短所を有する一方で、膨大なWEBページデータを全て記憶手段に保持する必要がないという長所を有する。このようなことからすると、WEBページデータの送信に当たって、上記①の方法と②の方法のいずれを選択するかは、それぞれの場合ごとに、必要なデータ量やサーバ装置等の設備に要する性能・コスト等を考慮して適宜決めるべき設計的事項にすぎないものといえる。したがって、乙16発明において、上記②の方法を採り、相違点に係る本件各訂正発明の構成とすることに阻害要因があるなどとはいえないというべきであり、控訴人らの上記主張は理由がない。
したがって、乙16発明において、上記②の方法を採り、相違点に係る本件各訂正発明の構成とすることに阻害要因があるなどとはいえない』

[コメント]
ソフトウェア関連発明のクレームにおいて、情報同士の対応づけを定義することがある。このような場合、外部からは情報同士の対応づけを直接確認することが難しいため、その立証が難しくなるおそれがある。しかしながら、本件のように情報を外部に出力していれば、表示される情報に基づいて記録部における情報同士の対応づけを認定しうる場合もあり今回の認定の方法は実務上参考になる。
以上
(担当弁理士:坪内 哲也)