侵害差止等請求事件 » 平成28年(ネ)第10042号「接触端子」事件

名称:「接触端子」事件
特許権侵害差止等請求控訴事件
知的財産高等裁判所:平成28年(ネ)第10042号 判決日:平成28年10月26日
判決:控訴棄却
特許法70条1項、70条2項
キーワード:構成要件の充足性

[概要]
技術的意義を考慮した上で、被告製品のコマ状部材は、構成要件Dの「押付部材」に該当せず、コマ状部材の球状部がプランジャーピンの傾斜凹部を押すことは、構成要件Dの「押圧」に該当しないため、被告製品は、構成要件Dを充足しないと判断された事例。

[事件の経緯]
控訴人(原審原告)は、特許第5449597号の特許権者である。
控訴人が、被控訴人(原審被告)の行為が当該特許権を侵害すると主張して、被控訴人の行為の差止め等を求めた(東京地裁平成26年(ワ)第20422号)ところ、東京地裁が、控訴人の請求を棄却する判決をしたため、控訴人は、原判決を不服として、控訴を提起した。
知財高裁は、控訴人の控訴を棄却した。

[本件発明]
A 管状の本体ケース内に収容されたプランジャーピンの該本体ケースからの突出端部を対象部位に接触させて電気的接続を得るための接触端子であって、
B 前記プランジャーピンは前記突出端部を含む小径部及び前記本体ケースの管状内周面に摺動しながらその長手方向に沿って移動自在の大径部を有する段付き丸棒であり、
C 前記プランジャーピンの前記突出端部を前記本体ケースから突出するように前記本体ケースの管状内部に収容したコイルバネで付勢し、
D 前記プランジャーピンの中心軸とオフセットされた中心軸を有する前記大径部の略円錐面形状を有する傾斜凹部に、押付部材の球状面からなる球状部を前記コイルバネによって押圧し、前記大径部の外側面を前記本体ケースの管状内周面に押し付けることを特徴とする接触端子。

[被告製品]
1  Apple 45W MagSafe2 電源アダプタ
Apple 85W MagSafe2 電源アダプタ
Apple 60W MagSafe2 電源アダプタ
2  Macbook Air
Macbook Pro

[主な争点]
文言侵害の成否-構成要件Dの充足性

[裁判所の判断](筆者にて適宜抜粋)
ア 被告製品と本件発明との技術的意義の相違について
『(ア) 被告製品の構成について
被告製品は、別紙2のとおり、プランジャーピン、コマ状部材、コイルバネ及び本体ケースによって構成されており、前記第2の2⑸のとおり、本件発明の構成要件AからCを充足するものである。
(イ) 本件発明と被告製品の技術的意義の相違について
証拠(甲4、甲32の1・2、乙38、54)及び弁論の全趣旨によれば、被告製品の技術的意義につき、以下のとおり認められる。
プランジャーピンは、その大径部に略円錐面形状を有する傾斜凹部を備えているものであるが、コイルバネにより付勢されて本体ケースの内周面に左右2箇所で接触するように設計されている。コマ状部材は、導電性を有するものであり、その球状部がプランジャーピンの大径部の傾斜凹部を押してこれと1点のみで接触することによって傾き、本体ケースの内周面に左右2箇所で接触するように構成されている。プランジャーピン及びコマ状部材が確実に傾いて本体ケースに接触するよう、コマ状部材の中心軸とプランジャーピン底面の最深位置は、オフセットされている。
このように合計4つの電流経路を確保することにより、被告製品の電気抵抗が低減し、被告製品を流れる電流についてコイルバネを通る経路以外の経路が存在しないという事態が生じる可能性は低くなり、コイルバネに流れる電流量が抑えられる。加えて、コイルバネが●●●●●●●によって被覆されていることから、絶縁性ボールを使用する必要はない。
他方、本件発明においては、前記⑵のとおり、①傾斜凹部を略円錐面形状とすることによって、押付部材の球状面からなる球状部の中心を傾斜凹部の中心軸上に安定して位置させることができ、それにより、押付部材を介してプランジャーピンに伝達されるコイルバネの付勢に係る力の方向を安定させ、②さらに、傾斜凹部の中心軸をプランジャーピンの中心軸とオフセットさせることにより、コイルバネがプランジャーピンを本体ケースの中心軸に対して微小な角度を有する方向に付勢することを確実なものとすることによって、プランジャーピンの大径部を確実に本体ケースの管状内周面に接触させて本体ケースへ確実に電流を流すことを可能とするものである。
以上によれば、被告製品と本件発明とは、押付部材とプランジャーピンとの接触に関し、技術的意義を異にするものということができる。』
イ 構成要件Dの「押付部材」に該当する構成の有無
『前記アのとおり、被告製品のコマ状部材は、それ自体が本体ケースの内周面に左右2箇所で接触して電流経路を確保している。
他方、前記⑴のとおり、本件明細書において、「押付部材」につき、小型化の要請にこたえて接触端子の径(幅)を大きくすることなく、コイルバネを流れる電流量を小さくしながら、比較的大きな電流を流し得る接触端子の提供という、本件発明の課題を解決するための構成として、「大径部の略円錐面形状を有する傾斜凹部」内に収容されていることが開示されている。本件明細書において、「押付部材」自体が本体ケースに接触して電流経路を確保することは、開示されていないものというべきである。
したがって、被告製品のコマ状部材は、構成要件Dの「押付部材」に該当しない。ほかに、被告製品の構成中、「押付部材」に相当するものはない。』
ウ 「押圧」について
『前記アのとおり、被告製品は、プランジャーピン及びコマ部材が確実に傾いて本体ケースに接触するよう、コマ状部材の中心軸とプランジャーピン底面の最深位置をオフセットしている。被告製品のコマ状部材の球状部がプランジャーピンの大径部の傾斜凹部を押してこれと1点のみで接触することによって傾き、本体ケースの内周面に左右2箇所で接触するという構成自体からも、通常、コマ状部材の球状部の中心が、プランジャーピン底面の最深位置、すなわち、傾斜凹部の中心軸上に位置することは、考え難い。現に、別紙2は、コイルバネの付勢によって、コマ状部材の球状部がプランジャーピンの大径部の傾斜凹部を押し、それによって、プランジャーピンの突出端部が本体ケースから突出するとともに、プランジャーピンの大径部の外側面が本体ケースの内周面に押し付けられている状態であるが、コマ状部材の球状部の中心は、明らかに傾斜凹部の中心軸からずれている。
よって、コマ状部材の球状部がプランジャーピンの傾斜凹部を押すことは、コマ状部材の球状部の中心を傾斜凹部の中心軸上に安定して位置させるものではないから、構成要件Dの「押圧」に該当せず、ほかに、被告製品の構成中、「押圧」に該当するものはない。
エ 小括
以上によれば、被告製品は、構成要件Dを充足しない。』

[コメント]
本件は、技術的意義の違いにより、請求項記載の構成と、被疑侵害品の構成との相違点を明らかにできた例である。請求項の記載にまったく基づかない解釈は許されないが、本件では、「傾斜凹部」について、明細書を参酌し、「押付部材の球状面からなる球状部の中心を傾斜凹部の中心軸上に安定して位置させることができ」るものと認定した。一方、被疑侵害品の「傾斜凹部」は、このような機能を有さないと認定し、構成の相違点とした。本件は、技術的意義の違いにより、構成の相違点を明確にできた一例として参考となる。
以上
(担当弁理士:奥田 茂樹)