侵害差止等請求事件 » 平成26年(ワ)第10489号「螺旋ハンガー用クランプ」事件

名称:「螺旋ハンガー用クランプ」事件
特許権侵害行為差止等請求事件
大阪地方裁判所:平成26年(ワ)第10489号 判決日:平成28年9月8日
判決:請求認容
特許法70条
キーワード:構成要件充足性

[概要]
イ号物件は、被告が主張するような実施形態に限定されるべきではないという理由により、本件発明の構成要件をすべて備えているとされ、侵害が認められた事例。

[事件の経緯]
原告は、特許第5485640号(本件特許)の特許権者である。
原告は、被告の行為が当該特許権を侵害すると主張して、被告の行為の差止め等を求めた。
大阪地裁は、原告の請求を認容し、被告の行為の差止め等を認めた。

[本件発明]
【請求項1】
A 所定のケーブルを電柱間に吊支するために、前記電柱間に渡した吊線に巻き付けて取付けた螺旋ハンガーの終端部を前記吊線に固定するための螺旋ハンガー用クランプであって、
B 前記吊線と前記螺旋ハンガーとを交差させた状態で挟持する第1プレート及び第2プレートと、
C これら第1プレート及び第2プレートの各一端同士を緊締するボルト及びナットと、を備え、
D 前記第1プレート及び第2プレートの各一端側に前記ボルトを挿通させるボルト挿通孔を形成するとともに、一端同士を前記ボルトにより連結される閉塞端とし、
E 前記第1プレート及び第2プレートの各他端を開放端とするとともに、他端同士を係合する係合部が設けられており、
F 前記係合部は、前記第1プレートの他端を鉤形に形成するとともに、前記第2プレート側へ折り返して起立状に形成したフック部と、
G 前記第2プレートの他端に一側が開口するように形成した切欠部とからなる、こと
H を特徴とする螺旋ハンガー用クランプ。

[争点]
(1)イ号物件は本件発明の技術的範囲に属するか
(2)他の争点は省略

[裁判所の判断](筆者にて適宜抜粋)
(1)構成要件A(螺旋ハンガーの終端部)
『そして、通常、「終端部」とは終わる端の部分を指すことからすれば、「螺旋ハンガーの終端部」とは、連続して吊線に巻き付けて取り付けられた螺旋ハンガーが途切れる箇所で、螺旋ハンガー用クランプで吊線に固定される部分を指すものとして用いられるものと解するのが相当である。
被告は、イ号物件のそれは、螺旋ハンガーの「終端近傍の一部」であり、「終端部」ではないと争うが、上記の意味での「終端部」とは、一点で捉えられるべき狭い部分ではなく、部品の部分として面で捉えるのが相当であるから、被告がいうイ号物件の螺旋ハンガーの「終端近傍の一部」も「終端部」といって差し支えなく、イ号物件は「螺旋ハンガーの終端部を前記吊線に固定するための螺旋ハンガー用クランプ」であるといえ、イ号物件の構成aは、構成要件Aを充足するものといえる。』

(2)構成要件B(第1プレートと第2プレートの解釈)
『しかし、本件明細書において「本発明は上述してきた実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。」(【0038】)と記載されているように、実施形態に限定されるべき理由はないし、本件特許の特許請求の範囲に、二つのプレートと一端同士を緊締するボルト及びナットが記載され、その一方、形成される溝部の種類、螺旋ハンガー用クランプで吊線に固定した際の配置関係については規定されていないことからすると、特許請求の範囲の記載に基づいて定められるものであればよいものと解されるから、被告がそれぞれ主張するような場合に限定されるものでないことは、むしろ明らかである。・・・(略)・・・
そうすると、イ号物件における上固定金具及び下固定金具の各一端には、ボルト挿通孔が形成されており、両者がボルト挿通孔に挿通されたボルト及びナットにより着脱可能な状態で把持され、前記ボルトを回転軸とするものであるから、上固定金具及び下固定金具は、「第1プレート」及び「第2プレート」に該当し、・・・(略)・・・イ号物件の上固定金具が本件発明の「第1プレート」に、下固定金具が「第2プレート」に該当するといえる。』

(3)構成要件E(開放端)
『・・・(略)・・・被告は、その特定の表現を争うとともに、構成要件Eの「開放端」の意義が明らかでないとして、その充足を争っている。・・・(略)・・・
しかし、本件特許の特許請求の範囲の・・・(略)・・・との記載からすれば、「開放端」とは、第1プレート及び第2プレートの各一端側に形成されたボルト挿通孔に挿通されたボルトにより一端同士が連結された「閉塞端」の各他端で、他端同士を係合する係合部が設けられた部分を指すと解される。
・・・(略)・・・「開放端」とは、「ボルト及びナットで緊締された端」側の他端にあり、そのような緊締がなされておらず、可動する状態になっている部分として使用されていることにも合致するものであり、これが明らかでないとする被告の主張は採用できない。』

(4)構成要件F(「鉤形」、「起立状」、「フック部」)
『したがって、「鉤形」とは、鉤、すなわち先の曲がった金属製の具のように、直角に曲がった形を指すものであると解される。
この点、被告は、「鉤形」とは、「先」端が曲がった形であり、本件明細書中の図1等にある90度に曲がった凹部(第2屈折部分)の先端部がさらに90度曲がって下向きに伸びている部分(第1屈折部分)が構成要件Eにおける「鉤形」であり、このような形状は第2プレートが係合時の回動方向と逆方向に回動するのを防止し、確実な連結固定という本件発明の作用効果に寄与するものである旨主張する。
しかし、本件発明は、2つのプレートの一端同士を回動自在に連結し、ボルト及びナットで緊締された一端に対する各他端が可動する開放端が、締め込むときにずれたりして緩みの原因となるところを、他端を係合部とすることにより簡単な操作で確実に吊線と螺旋ハンガーとを挟持できる作用効果を生じるものであるところ、第1プレートの他端に90度に曲がった凹部(第2屈折部分)があれば当該作用効果を奏するものといえ、第1屈折部分が必須の構成であるとはいえない。また、第1屈折部分があることにより被告の主張するような効果があり得るとも考えられるが、本件明細書において第2プレートが逆方向に回動することを前提とする記述がないことからすれば、上記図1等に第1屈折部分がある実施形態が示されているとしても、本件発明における必須の構成ではないといえる。
・・・(略)・・・上固定金具の他端は、両方の側部に凹部を設けてT字形に形成するとともに下固定金具方向へ折り返す係止部となっていることは当事者間に争いがなく、これによれば本件発明の構成要件Fにおける「鉤形に形成するとともに前記第2プレート側へ折り返して起立状に形成したフック部」に該当するといえるから、イ号物件の構成fは構成要件Fを充足するものといえる。』

(5)構成要件G(「他端に一側が開口する」)
『(イ) これに対し、被告は、「他端」の「一側」が開口するとは、他端の端が開口していることをいい、また、開口した切欠部の先端が切欠部側に曲がっていないものである旨主張し、本件明細書の図や実施形態を指摘する。しかし、本件発明が本件明細書における図や実施形態に限定されるものではないから、切欠部の位置が被告主張の箇所に限定されるものではなく、被告のいう第1屈折部分がある形態が除かれているということもいえず、被告の上記主張は採用できない。
・・・(略)・・・下固定金具の他端近傍の一方の側部に凹部を設けて逆C字形にし、その先端に下固定金具の一端側へ略90度屈折させた屈折部分を形成しているが、C字型の凹部を形成している構成を有していることは明らかであるから、これらは「他端に一側が開口するように形成した切欠部」に該当するものといえ、したがって、イ号物件の構成gは構成要件Gを充足するものといえる。』

[コメント]
機械分野では請求項に造語を使用することが頻繁にあるが、解釈に争いが生じないように、明細書において定義しておくことが重要である。「第1(の)」「第2(の)」・・・という修飾語もよく使用するが、入れ替えても成立するのか否かを確認し、請求項や明細書の記載に留意する必要がある。

以上
(担当弁理士:谷口 俊彦)