侵害差止等請求事件 » 平成28年(ネ)第10023号「メニエール病治療薬」事件

メニエール病治療薬」事件
特許権侵害差止等請求控訴事件
知的財産高等裁判所:平成28年(ネ)第10023号  判決日:平成28年7月28日
判決:請求棄却
特許法2条3項
キーワード:構成要件の意義及びその充足性、用途発明の実施

[概要]
用量に特徴がある用途発明に対して、この用量を明らかに超える被告製品を製造販売する行為は、用途発明である本件発明における特許法2条3項の「実施」に該当しないと判断された事例。

[事件の経緯]
控訴人(原審原告)は、特許第4778108号の特許権者である。
控訴人が、被控訴人(原審被告)の行為が当該特許権を侵害すると主張して、被控訴人の行為の差止め等を求めた(東京地裁平成26年(ワ)25013号)ところ、東京地裁が、控訴人の請求を棄却する判決をしたため、控訴人は、原判決を不服として、控訴を提起した。
知財高裁は、控訴人の控訴を棄却した。

[本件発明1]
【請求項1】
成人1日あたり0.15~0.75g/kg体重のイソソルビトールを経口投与されるように用いられる(ただし、イソソルビトールに対し1~30質量%の多糖類を、併せて経口投与する場合を除く)ことを特徴とする、イソソルビトールを含有するメニエール病治療薬。

[被告の行為]
被告らは、メニエール病改善剤(メニエール病治療薬)としての機能を有する薬剤として、被告製品1~3をそれぞれ製造販売している。被告製品の添付文書及びインタビューフォームにおけるメニエール病についての用法用量の記載は、「1日体重当り1.5~2.0mL/kgを標準用量とし、通常成人1日量90~120mLを毎食後3回に分けて経口投与する。症状により適宜増減する。」というものである。被告製品は、いずれも1mL当たり0.7gのイソソルビトールを含有しているため、標準用量は1.05~1.4g/kg体重となる。

[取消事由]
(1) 被告製品における構成要件Aの充足性
(2) 本件特許についての無効理由の有無
(3) 損害額

[裁判所の判断](筆者にて適宜抜粋)
『(4) 用途発明とは、既知の物質について未知の性質を発見し、当該性質に基づき顕著な効果を有する新規な用途を創作したことを特徴とするものであるから、用途発明における特許法2条3項にいう「実施」とは、新規な用途に使用するために既知の物質を生産、使用、譲渡等をする行為に限られると解するのが相当である。
これを本件についてみるに、上記(2)及び(3)によれば、本件発明は、作用発現までに長時間要するという従来のメニエール病治療薬の課題を解決するために、既知の物質であるイソソルビトールの1日当たりの用量を従来の「1.05~1.4g/kg体重」から、構成要件Aにいう「0.15~0.75g/kg体重」という範囲に減少させることによって、血漿AVPの発生を防ぐなどして迅速な作用を発現させるとともに、長期投与に適したメニエール病治療薬を提供するというものである。そうすると、本件発明は、イソソルビトールという既知の物質について投与量を減少させると血漿AVPの発生を防ぎ、かえって内リンパ水腫減荷効果を促進させるという未知の性質を発見し、当該性質に基づきイソソルビトールの投与量を減少させることによって、即効性を有しかつ長期投与に適するメニエール病治療薬としての顕著な効果を有する新規な用途を創作したことを特徴とするものであるから、本件発明は、イソソルビトールという既知の物質につき新規な用途を創作したことを特徴とする用途発明であるものと認められる。
そして、前記第2の1(3)イの前提事実によれば、被告製品の添付文書及びインタビューフォームにおける用法用量は、1日体重当り1.5~2.0mL/kgを標準用量とするものであって、かえって、本件明細書にいう従来のイソソルビトール製剤の用量をも超えるものであるから、構成要件Aによって規定された上記用途を明らかに超えるものと認められる。
以上によれば、被告は、イソソルビトールについての上記新規な用途に使用するために、これを含む被告製品を製造販売したものということはできないから、被告製品を製造販売をする行為は、本件発明における特許法2条3項の「実施」に該当するものと認めることはできない。』
『前記(4)のとおり、本件発明は、イソソルビトールという既知の物質につき新規な用途を創作したことを特徴とする用途発明であるから、被告製品の製造販売が本件発明の「実施」に該当するというには、当該製造販売が新規な用途に使用するために行われたことを要するというべきである。しかしながら、前記第2の1(3)イの前提事実によれば、被告製品の添付文書及びインタビューフォームにおける用法用量は、1日体重当り1.5~2.0mL/kgを標準用量とするものであって、本件発明の構成要件Aにいう用途とは明らかに異なるものであり、そのほかに被告製品の製造販売が当該用途に使用するために行われたことを認めるに足りる証拠もない。したがって、原告の主張は、用途発明の意義を正解しないものであって、独自の見解というほかなく、採用することができない。』
『(5) これに対し、原告は、①構成要件Aの解釈に関し、漸減の結果、投与量が構成要件A所定の範囲内に至った場合も含まれる、②MRが治療開始当初から構成要件A所定の範囲で投与すべき旨の情報提供を行っている、③被告製品2及び3は20mL、23mLの分包であり、構成要件A所定の範囲内の投与量を前提にしたものであると主張する。
そこで判断するに、上記①については、前記(4)のとおり、本件発明は、イソソルビトールという既知の物質につき新規な用途を創作したことを特徴とする用途発明であるから、被告製品の製造販売が本件発明の「実施」に該当するというには、当該製造販売が新規な用途に使用するために行われたことを要するというべきである。しかしながら、前記第2の1(3)イの前提事実によれば、被告製品の添付文書及びインタビューフォームにおける用法用量は、1日体重当り1.5~2.0mL/kgを標準用量とするものであって、本件発明の構成要件Aにいう用途とは明らかに異なるものであり、そのほかに被告製品の製造販売が当該用途に使用するために行われたことを認めるに足りる証拠もない。したがって、原告の主張は、用途発明の意義を正解しないものであって、独自の見解というほかなく、採用することができない。
上記②については、被告らのMRが1日当たり60~70mLの投与を推奨したことなど原告主張の事実を認めるに足りる証拠はない。』

[コメント]
原審では本件発明が用途発明であることに言及はしていなかったところ、控訴審では、用途発明の認定を行ったうえで、被告製品を製造販売する行為が、用途発明である本件発明の「実施」に該当するか否かに重点を置いて判断がなされた。
具体的には、裁判所(控訴審)は、明細書の記載から、本件発明が用量に特徴がある用途発明であることを認定したうえで、被告製品の添付文書及びインタビューフォームに記載の用量が本件発明の用量を明らかに超えるものであるため、被告製品を製造販売する行為は、本件発明における特許法2条3項の「実施」に該当するものと認めることはできないと判断した。本判決は、用量に特徴のある医薬用途発明に関する侵害の判断を考えるうえで参考となる事例である。
なお、控訴人は、原審において、「MRが治療開始当初から構成要件A所定の範囲で投与すべき旨の情報提供を行っている」等の主張も行っていたが、控訴審において、このような主張を裏付ける新たな証拠の提出はなされなかった。
原審及び控訴審を踏まえると、添付文書やインタビューフォームに記載の用法用量を遵守するよう求めることが製薬会社にとって如何に重要かが再認識される。例えば、医薬品を添付文書やインタビューフォームに記載されていない効能効果、用法、用量で使用すること(いわゆる適応外使用、オフラベル)の情報提供を、会社として行っていたことの事実が証明された場合は、本件発明のような医薬用途発明の侵害が認められる可能性がある。
以上
(担当弁理士:春名 真徳)