侵害差止等請求事件 » 平成28年(ネ)10017号「Web-POS方式」事件

名称:「Web-POS方式」事件
損害賠償請求控訴事件
知的財産高等裁判所:平成28年(ネ)10017号  判決日:平成28年6月29日
判決:請求棄却
条文:特許法70条1項および2項
キーワード:均等論

[事案の概要]
イ号の制御方法による目的達成の有無と、審査経過における意見書の経緯から、被告のイ号は、均等の第2要件および第5要件を充足せず、本件発明と均等なものとしてその技術的範囲に属するということはできないと判断された事例。

[事件の経緯]
控訴人(原審原告)は、特許第5097246号の特許権者である。
控訴人が、被控訴人(原審被告)の行為が当該特許権を侵害すると主張して、不法行為による損害賠償の支払を求めた(東京地裁平成26年(ワ)34145)ところ、東京地裁が、控訴人の請求を棄却する判決をしたため、控訴人は、原判決を不服として、控訴を提起した。
知財高裁は、控訴人の控訴を棄却した。

[本件発明](一部省略;下線は筆者が付した)
F4:3)商品注文内容の表示制御過程,
すなわち,上記Web-POSクライアント装置の入力手段を有する表示装置に表示された上記商品の情報について,ユーザが,該入力手段により数量を入力(選択)すると,該数量に基づく計算が行われると共に,前記入力(選択)された商品識別情報と該商品識別情報に対応して取得された上記商品基礎情報に基づく商品の注文明細情報が該入力手段を有する表示装置に表示されると共に,ユーザが,該入力手段によりオーダ操作(オーダ・ボタンをクリック)を行うと,該商品の注文明細情報に対する該数量入力(選択)に基づく計算結果の注文情報が該Web-POSサーバ・システムにおいて取得(受信)されることになる,
ユーザが所望する商品の注文のための表示制御過程,
G:更に,上記Web-POSサーバ・システムにおいて,上記商品(PLU)マスタDBの1レコードが1商品に対応し,該レコードに上記商品識別情報に対応するフィールドが含まれることで,取扱商品に関する商品ごとの基礎情報が,該商品識別情報に対応するフィールドを含むレコードによって管理されることで,
上記Web-POSクライアント装置におけるユーザ操作に基づく商品選択時点のPLU情報が,Webブラウザを介して,上記Web-POSサーバ・システムから供給されると共に,該PLU情報に基づく商品ごとの注文情報が,Webブラウザを介して,該Web-POSサーバ・システムにおいてリアルタイムに取得される,Web-POSネットワーク・システムによるPOS管理(商品の販売時点における情報の管理)が実現され,
H:更にまた,上記Web-POSサーバ・システムにおいて,上記Web-POSクライアント装置からリアルタイムで取得(受信)した上記商品の注文情報を売上管理DBに反映する売上管理DBへの登録過程を含むことで,上記Web-POSクライアント装置におけるユーザによる商品の注文操作が,Webブラウザを介するだけで,該商品ごとの注文情報として上記Web-POSサーバ・システムにおいて取得され,該取得された商品ごとの注文情報に基づく売上管理が実現されることを特徴とする
[争点]
1.技術的範囲の属否(構成要件F4,G及びH)
「注文情報」に、商品に関するカテゴリー、メーカコード、商品名、価格等の商品基礎情報を含むかの解釈。控訴人(原審原告)は、商品基礎情報を含まないと主張。
2.均等侵害の成否
「注文情報」についての均等侵害の成否

[裁判所の判断](下線は筆者が付した)
1.技術的範囲の属否について
(1)明細フォームの有無
『特許請求の範囲に記載された用語の意義は,明細書の記載及び図面を考慮して解釈するものであるから,構成要件F4の「注文情報」の意味について,「販売時点情報」を送信する方法として,唯一開示された「明細フォーム」を利用する構成を前提に解釈するのは当然である。
よって,明細フォームを利用する構成が実施例の一つであるか否かにかかわらず,「明細フォーム」において送信される情報である各フィールド値が,本件発明の「注文情報」に該当する旨解釈することは何ら不当なものではないから,控訴人の主張は,採用することができない。』
(2)本件意見書について
『控訴人は,本件発明と引用文献1に記載された発明とを比較すれば,「販売管理における相違」(本件意見書11頁(d))がある旨説明し,「引用文献1で採用されている購入者ごとの注文情報は,顧客管理や会員管理には必要かも知れませんが,売上管理や在庫管理,仕上管理をスムーズに行うことは困難であり,やはり,前述した識別情報(PLU情報)を含む商品ごとの注文情報が必要となります」(本件意見書11頁32~35行目)として,販売管理のためには,注文情報に商品識別情報が含まれることが必要であるが,引用文献1に記載された発明における注文情報には商品識別情報が含まれていないことから,販売管理をスムーズに行うことが困難である旨指摘している。
その上で,控訴人は,「本願発明の明細書には,注文情報が前述の識別情報に基づき生成されること」「などについて,その詳細が記載されています」(本件意見書12頁14~16行目)と説明している。
このように,控訴人は,引用文献1に記載された発明における注文情報には商品識別情報が含まれていないという点との相違を明らかにするために,本件発明では「注文情報が前述の識別情報に基づき生成される」と説明しているのであるから,控訴人は,本件発明における「注文情報」には商品識別情報が含まれている旨説明したことは明らかである。』

2.均等侵害の成否
(1)均等の第2要件(作用効果の同一性)について
『特許請求の範囲に記載された構成中の本件ECサイトの制御方法と異なる部分
前記のとおり,本件発明と本件ECサイトの制御方法は,少なくとも,ユーザが所望する商品の注文のための表示制御過程に関する具体的な構成において,本件発明においては,オーダ操作(オーダ・ボタンをクリック)が行われた際に,Web-POSクライアント装置からWeb-POSサーバ・システムに送信される情報の中に商品基礎情報が含まれているのに対し,本件ECサイトの制御方法においては,顧客が「お買い上げ」ボタンをクリックした際に,顧客のコンピュータから管理運営システム内にあるサーバに対して送信されるリクエスト情報には,Cookie情報等が含まれるが,注文された商品に係る商品基礎情報は含まれていない点において,相違する。』
『本件ECサイトの制御方法による目的達成の有無
本件ECサイトは,①リクエスト情報を受信した管理運営システム内にあるサーバは,Cookie情報をもとに,顧客のコンピュータに表示された「レジ」画面情報の原本に当たる情報を同サーバから呼び出す,②そして,同サーバにおいて,当該情報と,管理運営システム内にある顧客の従前の情報(申込番号及び数量等)及びその時点での最新の商品情報(価格等)が照合され,両者が一致していることが確認された上で,注文受付データが作成される,③その後,注文受付データが管理運営システム内のサーバにあるデータベースに反映され,顧客のコンピュータには注文完了画面が表示され,注文が完了するという制御方法を採用しているものと認められる(乙16,37)。このように,本件ECサイトの制御方法においては,Cookie情報だけでは,リクエスト時点における商品ごとの価格等が含まれた基礎情報を管理できないことから,前記①ないし③のとおり,管理運営システム内にあるサーバ内の処理,特にサーバのデータベース内にある従前の情報と最新の商品情報(価格等)との照合を経ることにより,注文を確定させているものである。』
『ところで,商品の基礎情報である価格等は変わる場合があるところ,顧客の注文前に商品の基礎情報が更新された場合,Web-POSサーバ・システムが有する情報は,更新された後の商品情報のみであるから,Web-POSサーバ・システムは,顧客が注文した商品の価格等を把握することができない(乙20)。また,Cookieを用いたWeb技術は,サーバ側で識別情報としてテキスト・データをWebブラウザごとに割り当て,更に,そのテキスト・データをWebブラウザの情報と対応付けて管理することにより,Webサーバ側において,HTTPリクエストの送信元を識別等するというものにとどまる(甲25)。よって,Web-POSサーバ・システムは,Cookie情報を受信しても,顧客が注文した商品の価格等を把握することはできない。
そして,本件ECサイトの管理運営システム内のサーバは,顧客が注文した商品の価格等を把握するために,顧客のコンピュータからリクエスト情報とともに受信したCookie情報をもとに,顧客のコンピュータに表示された「レジ」画面情報の原本に当たる情報を同サーバから呼び出すという制御方法を追加で採用することにより,顧客が注文した商品の価格等を把握するに至っているものである。
したがって,ユーザが所望する商品の注文のための表示制御過程に関する構成において,Web-POSサーバ・システムがCookie情報等は取得するものの,注文された商品に係る商品基礎情報を取得しないという本件ECサイトにおける構成を採用した場合には,本件発明のように,Web-POSサーバ・システムは,注文時点における商品ごとの価格などが含まれた基礎情報をリアルタイムに管理することができないというべきである。
よって,本件ECサイトの制御方法,すなわち,オーダ操作が行われた際に,Web-POSクライアント装置からWeb-POSサーバ・システムに送信される情報に,注文された商品に係る商品基礎情報を含めずに,Cookie情報等を含めるという方法では,本件発明と同一の作用効果を奏することができず,本件発明の目的を達成することはできない。』

(2)均等の第5要件(特段の事情)について
『控訴人は,本件発明は,引用文献1に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものであるから特許法29条2項の規定により特許を受けることができないとの拒絶理由通知に対して,本件意見書を提出したものである。
そして,控訴人は,本件意見書において,引用文献1に記載された発明における注文情報には商品識別情報が含まれていないという点との相違を明らかにするために,本件発明の「注文情報」は,商品識別情報等を含んだ商品ごとの情報である旨繰り返し説明したものである。
そうすると,控訴人は,ユーザが所望する商品の注文のための表示制御過程に関する具体的な構成において,Web-POSサーバ・システムが取得する情報に,商品基礎情報を含めない構成については,本件発明の技術的範囲に属しないことを承認したもの,又は外形的にそのように解されるような行動をとったものと評価することができる。
そして,本件ECサイトの制御方法において,管理運営システムにあるサーバが取得する情報には商品基礎情報は含まれていないから,同制御方法は,本件発明の特許出願手続において,特許請求の範囲から意識的に除外されたものということができる。』

[コメント]
「注文情報」という特許請求の範囲に記載された用語の意義が明細書の記載及び図面を考慮して解釈されており、原則通りの判断と思われる。また、均等論の第5要件の判断でも使用されているが、意見書による控訴人の主張も考慮され、イ号は本件特許の技術的範囲に文言上充足しないと判断されている。
均等論の第2、第5要件の判断も妥当と考えられる。

以上
(担当弁理士:坪内 哲也)