侵害差止等請求事件 » 平成27年(ネ)10125号「非磁性材粒子分散型強磁性材スパッタリングターゲット」事件

名称:「非磁性材粒子分散型強磁性材スパッタリングターゲット」事件
特許権侵害差止請求控訴事件
知的財産高等裁判所:平成27年(ネ)10125号  判決日:平成28年4月13日
判決:控訴棄却
特許法70条、29条1項3号、104条の3
キーワード:構成要件充足性、文言侵害、均等侵害、特許無効の抗弁

[概要]
不可避的な粗大粒子は「全粒子」に該当しない旨の控訴人の主張に対し、その具体的内容については不明といわざるを得ないとして、被控訴人による製造等が、控訴人の特許権に係る特許発明の構成要件の充足性を否定するとともに、さらに無効理由の存在も肯定し、非侵害と判断された事例。

[事件の経緯]
控訴人(原審原告)は、特許第4975647号の特許権者である。
控訴人が、被控訴人(原審被告)の行為が当該特許権を侵害すると主張して、被控訴人の行為の差止め等を求めた(東京地裁 平成25年(ワ)第3360号)ところ、東京地裁が、控訴人の請求を棄却する判決をしたため、控訴人は、原判決を不服して、控訴を提起した。
知財高裁は、控訴人の控訴を棄却した。

[本件発明]
【請求項1】
[1-A] Co若しくはFe又は双方を主成分とする材料の強磁性材の中に酸化物、窒化物、炭化物、珪化物から選択した1成分以上の材料からなる非磁性材の粒子が分散した材料からなる焼結体スパッタリングターゲットであって、
[1-B] 前記材料の研磨面で観察される組織の非磁性材の全粒子は、非磁性材料粒子内の任意の点を中心に形成した半径2μmの全ての仮想円よりも小さいか、又は該仮想円と、強磁性材と非磁性材の界面との間で、少なくとも2点以上の接点又は交点を有する形状及び寸法の粒子とからなり、
[1-C] 研磨面で観察される非磁性材の粒子が存在しない領域の最大径が40μm以下であり、
[1-D] 直径10μm以上40μm以下の非磁性材の粒子が存在しない領域の個数が1000個/mm2以下である
[1-E] ことを特徴とする焼結体からなる非磁性材粒子分散型強磁性材スパッタリングターゲット。

[被控訴人製品1(被告製品1)]
Coを含有し、さらに、Cr:6-10mol%、Pt:11-15mol%、SiO2:8-12mol%を含有する磁気記録メディア用ターゲット

[争点]
争点(1)被控訴人製品1の構成要件1-B充足性(文言侵害及び均等侵害)
争点(4)本件特許の無効理由の有無

[控訴人の追加の主張]
a「全粒子」は、ターゲットの研磨面全部における全ての粒子ではなく、SEMで一度に観察することができる範囲における全ての粒子であると解釈される。
b「研磨面で観察される組織の非磁性材の全粒子」の中に、不可避的に生成されてしまった「不可避的粗大粒子」は含まれないと解釈される。
c被控訴人製品は、本件発明の「研磨面で観察される組織の非磁性材の全粒子」という要件に関し、面積にして約1ppm、個数にして約0.038ppmのわずかな「不可避的粗大粒子」を含むという点で発明特定事項と相違するが、ほとんどすべての研磨面が微細化されている以上、当該相違部分は、本件発明の本質的部分ではない。

[裁判所の判断](筆者にて適宜抜粋、下線)
『2 争点(1)(被控訴人製品1の構成要件1-B充足性)のうち,文言侵害について
(1) 「非磁性材の全粒子」
ア 本件発明は,特許請求の範囲の記載において,研磨面で観察される非磁性材の粒子につき,構成要件1-Bで「全粒子」としており,半径2μmの仮想円を内包する大きさではないという制約について,例外を認める趣旨の記載はない。また,合金の技術分野において,「不可避的」な不純物が生じる場合には,例えば,「不可避不純物を含んでなる」とか,「○○μmの粒子を実質的に含まない」といった表現を使用するなどして,その点を特許請求の範囲に明示する場合もあるが(甲67参照),本件発明では,そのような記載はない。
・・・(略)・・・
結局,本件明細書上も,その他の一般的な技術文献に関する証拠上も,粗大粒子の割合や単位面積当たりの個数,及びその大きさが,ターゲットの導電性,スパッタリング時における異常放電発生の有無やパーティクルの形成等に対し,定量的にどの程度の影響を及ぼすのかについての記載はなく,どの程度の大きさの粗大粒子がどの程度の割合であれば,発明の効果を実現できるかということについて,何らかの技術的知見を理解することはできない。
オ そうすると,構成要件1-Bの「全粒子」に該当しない不可避的な粗大粒子の具体的内容については不明といわざるを得ず,材料や製法如何にかかわらず,「半径2μmの仮想円を内包する大きさ」の粒子は,本件発明で許容されないというほかない。
(2) 「研磨面」
ア ・・・(略)・・・特許請求の範囲の文言上,「前記材料の研磨面」とは,ターゲットのどの部分を研磨してもよいという趣旨と解され,研磨の回数や対象となる部位について特定の制限はなく,1回目の研磨後のターゲットの表面のみを指すとみることは困難である。
・・・(略)・・・
そうすると,非磁性材の粗大粒子によるパーティクル発生の防止という課題は,非磁性材がターゲットの表面にある場合だけでなく,ターゲットの内部にある場合にも共通すると解されるから,1回目の研磨後のターゲットの表面における粗大粒子の有無のみを観察しても,技術的に無意味である。
ウ 以上によれば,構成要件1-Bにいう「前記材料の研磨面」は,焼結体スパッタリングターゲットの表面又は内部の任意の箇所を研磨した面を意味し,2回目以降の研磨後の面も含むと判断するのが相当である。
(3)強磁性材の除外の可否
イ ・・・(略)・・・パーティクル発生の原因とされる粗大粒子の脱粒が起きるか否かは,内部に強磁性材を含んでいるか否かにより変わるものでないと推測されるし,非磁性材が脱粒する際の穴の大きさは,強磁性材の含有の有無にかかわらず,一塊の非磁性材の大きさに依拠するものと考えられるから,本件発明の効果を実現するためには,非磁性材の粗大粒子に強磁性材が含有されているか否かは関係がないというべきである。』
『(5) 控訴人の主張について
ア 控訴人は,構成要件1-Bにおける「全粒子」は,スパッタリングターゲットの研磨面全部における全ての粒子ではなく,SEMで一度に観察することができる範囲における全ての粒子であれば足りると主張する。
スパッタリングターゲットの研磨面における粗大粒子の有無の確認には,観察が必要であるから,何を観察の対象とすべきかという問題は,結局,どの範囲をどのように調べれば,ターゲット全体の状態を正しく推認できるかという問題に集約される。・・・(略)・・・したがって,控訴人の主張が,SEMで一度観察した研磨面がターゲットの組織を代表しているといえるか否かにかかわらず,SEMで一度だけ研磨面を観察すれば足りるという趣旨であれば,採用できない。・・・(略)・・・
イ 控訴人は,被控訴人製品1で観察された粗大粒子の数や面積の割合を基に,不可避的不純物であると主張する。・・・(略)・・・
しかしながら,本件発明は,非磁性材の大きさを微小化することを追求する発明であるから,全粒子に占める粗大粒子の数が少なく,全体に占める粗大粒子部分の面積が狭いのは当然のことであって,粗大粒子の単位面積当たりの数を評価できない限り,その数値のみをもって,不可避的不純物ということはできない。』
『3 争点(1)(被控訴人製品1の構成要件1-B充足性)のうち,均等侵害について
(1) 第2要件(置換可能性)について
控訴人は,被控訴人製品1において,直径2μmの円を内包するような粗大粒子がわずかしか存在せず,作用効果に全く影響を与えないので,上記のような粗大粒子が存在したとしても,本件発明の目的を達成することができるなどと主張する。
しかしながら,どの程度の大きさ及び単位面積当たりの数の粗大粒子が,本件発明の目的を阻害しないような粒子といえるか,本件明細書上全く明らかではないから,被控訴人製品1で観察された粗大粒子によって,本件発明の作用効果を実現できるか否かは不明であり,被控訴人製品1における粗大粒子が存在しても,本件発明の目的を達成できるとはいえない。』
『5 争点(4)(本件特許の無効理由の有無)について
本件発明1ないし3と乙23発明をそれぞれ対比すると,Co82Cr13Ta5合金は,「Coを主成分とする材料」に当たり,SiO2は,「酸化物」の「非磁性材」に当たるから,乙23発明は,本件発明1ないし3の構成要件を全て有している。したがって,本件発明1ないし3は,乙23発明と同一であって,新規性を欠くものというべきである。
・・・(略)・・・
(4) 控訴人の主張について
ア 控訴人は,乙23文献は酸化物の体積比率と面積比率がかい離する点で記載内容に信ぴょう性がないから,これに基づく無効主張は認められない旨主張する。
確かに,控訴人従業員の作成した陳述書(甲53)で指摘されるとおり,理論的には,磁性材と非磁性材の体積比率と面積比率は一致するはずである。また,同陳述書において,ターゲットに含まれる各元素のモル数や重量から体積比率を導き出した計算方法自体は,密度の点についての考慮が欠けるとはいえ,一定の合理性が認められ,その数値自体は,面積比率との対比におよそ使用できないほど信用性に問題があるわけではない。・・・(略)・・・
6 結語
以上によれば,その余の点について判断するまでもなく,各被控訴人製品は,本件発明1ないし3及び6をいずれも侵害しないこととなる。』

[コメント]
控訴審でも、原審と同様に、「全粒子」に該当しない不可避的な粗大粒子の具体的内容については不明であり、粗大粒子は、本件発明で許容されないため、非侵害と判断された。
本件明細書には「粗大化した粒子は本願発明には含まれない(段落0009)」等の記載があること、及び、早期審査に関する事情説明書で「粗大粒子が存在すると発明の目的を達成することができないので、その存在は許容されない」等の主張をしていることからも、本判決による上記判断は妥当であると考えられる。原審で争点となった「全粒子」や「不可避的な粗大粒子」について、控訴人が「全粒子」や「不可避的な粗大粒子」の解釈を基に追加主張したが、明細書に記載はなく的確な証拠もないため、控訴人の主張は認められず、限定解釈された。
本願のような場合においては、まず一般には、クレームに「全粒子」と記載するよりも、例えば「○%以上の粒子」のように、極力限定解釈されないよう記載しておくことが好ましい場合が多いといえる。また、クレームに「全粒子」を表現せざるを得ない場合であっても、明細書中に限定解釈されないような定義を記載しておくことが望ましい。また、「全粒子」に「不可避的な粗大粒子」が含まれるような例外がもし出願時までに認識・予見しえたのであるのならば、明細書中に、例えば、不可避不純物を含む点や、○μmの粒子を実質的に含まない点等を記載しておく等の対応が想起されうる。
以上
(担当弁理士:堺 恭子)