侵害差止等請求事件 » 平成27年(ネ)第10091号「破袋機とその駆動方法」事件

名称:「破袋機とその駆動方法」事件
特許権侵害行為差止等請求控訴事件
知的財産高等裁判所:平成27年(ネ)第10091号 判決日:平成28年6月1日
判決:一審原告の本件控訴認容
特許法102条1項
キーワード:損害額、販売することができないとする事情

[概要]
特許法102条1項ただし書に規定する「販売することができないとする事情」について、侵害行為と特許権者等の製品の販売減少との相当因果関係を阻害する事情を対象とするとして、その具体的な内容などが判示された事例。

[事件の経緯]
控訴人(原審原告)は、特許第4365885号の特許権者である。
控訴人が、被告製品は本件特許発明の技術的範囲に属するから、被控訴人(原審被告)が被告製品を生産、譲渡等する行為は、本件特許権を侵害する行為であるなどと主張して、被控訴人に対し、①特許法100条に基づき、被告製品の生産、譲渡等の差止め、②不法行為による損害賠償請求権に基づき、損害賠償金の一部の支払を求めた(大阪地裁平成24年(ワ)第6435号)ところ、大阪地裁が、原判決では、控訴人の請求を一部認容したため、控訴人及び被控訴人が、それぞれ原判決中の敗訴部分を不服として控訴を提起した。
知財高裁は、控訴人の本件控訴認容し、被控訴人の本件控訴を棄却した。

[本件発明]
【請求項1】(損害論のみに触れるため、参考として記載する)
矩形枠体からなる破袋室と、破袋室の一方の対向壁面間に水平に軸支された回転体の表面に、回転軸に直角な垂直板からなる複数の板状刃物を、該回転軸から放射方向に且つ該放射方向が軸方向に所要角度ずれるように凸設した可動側刃物と、破袋室の他方の平行な対向壁面より板厚みを水平に凸設配置された垂直板からなる複数の板状刃物を、前記回転体の軸方向に配列した固定側刃物と、回転体に対して正・逆転パターンの繰り返し駆動を行う駆動制御手段とを有し、可動側と固定側の垂直板からなる複数の板状刃物が所定間隔で噛合するように、回転体の正・逆転パターンの繰り返し駆動に伴って固定側の垂直板からなる板状刃物間を可動側の垂直板からなる板状刃物が通過し、所定間隔で噛合する可動側と固定側の垂直板からなる複数の板状刃物間で袋体を破袋する破袋機。

[争点]
構成要件の充足性、均等論、損害額

[一審被告の主張]
被告製品において、侵害部分が購買者の需要を喚起することはあり得ないから、本件特許の寄与率が30%を超えることはないというべきであり、かかる寄与率を考慮して、一審原告の損害を算出すべきである。

[裁判所の判断](筆者にて適宜抜粋、下線)
1)侵害論(参考)
『当裁判所も、被告製品1及び2は、構成要件C~Eを充足し、本件特許発明1及び2の技術的範囲に属するものと判断する。』
2)損害論
『特許法102条1項の文言及び趣旨に照らせば、特許権者等が「侵害行為がなければ販売することができた物」とは、侵害行為によってその販売数量に影響を受ける特許権者等の製品、すなわち、侵害品と市場において競合関係に立つ特許権者等の製品であれば足りると解すべきである。また、「単位数量当たりの利益額」は、特許権者等の製品の販売価格から製造原価及び製品の販売数量に応じて増加する変動経費を控除した額(限界利益の額)であり、その主張立証責任は、特許権者等の実施能力を含め特許権者側にあるものと解すべきである。
さらに、特許法102条1項ただし書の規定する譲渡数量の全部又は一部に相当する量を特許権者等が「販売することができないとする事情」については、侵害者が立証責任を負い、かかる事情の存在が立証されたときに、当該事情に相当する数量に応じた額を控除するものであるが、「販売することができないとする事情」は、侵害行為と特許権者等の製品の販売減少との相当因果関係を阻害する事情を対象とし、例えば、市場における競合品の存在、侵害者の営業努力(ブランド力、宣伝広告)、侵害品の性能(機能、デザイン等特許発明以外の特徴)、市場の非同一性(価格、販売形態)などの事情がこれに該当するというべきである。』
『 原告製品は、本件特許発明1、2の実施品、あるいは、少なくとも被告製品と市場において競合関係に立つ製品に当たるものと認められる。一審原告は、平成22年11月29日から平成26年3月28日までの間に、原告製品について14台の発注を受けたこと、その売上額の合計は9039万円であることが認められる。』
『 原告製品の取引における、原材料費、消耗材料費、加工費、納品費用(輸送費を含む)等は、上記①の仕入額に含まれているものと認められる。また、上記のとおり、一審原告は、破袋機を専門に取り扱う営業担当者を雇用しておらず、上記14台の原告製品を製造、販売するために増加した人件費、すなわち、上記①の仕入額とは別に変動経費として控除すべき人件費が生じていると認めることはできず、さらに、一審原告は原告製品の在庫を保有しておらず、製品について保険を付していないことから、保管費や保険費用等が変動経費として生じていると認めることもできない。以上によれば、前記①の仕入額のほかに原告製品の売上額から控除すべき変動経費を認めるに足りない。』
『 一審原告は、原告製品の製造を外注していること等の事実に照らせば、本件侵害行為の当時、一審原告には、侵害行為がなければ生じたであろう製品の追加需要に対応して原告製品を供給し得る能力があったものと認められる。』
『 一審被告は、「販売することができないとする事情」として、原告製品以外にも、第三者が製造販売する同種の破袋機が市場に存在し、・・・(略)・・・を主張する。』
『 しかし、本件特許発明1及び2は、・・・(略)・・・等の破袋作業にとって優位な効果を奏するものであるところ、上記事実のみから、上記第三者の販売する破袋機が、本件特許発明1及び2と同様の作用効果を発揮するものであるとの事実を認めるに足りない。一審被告は、原告製品の価格は、被告製品の価格に比べ高額である旨主張する。しかし、対象製品が破袋機という一般消費者ではなく事業者等の法人を需要者とする製品であり、また、その耐用期間も少なくとも数年間に及ぶものであること(弁論の全趣旨)に照らすと、上記の程度の価格差があるからといって、直ちに原告製品と被告製品の市場の同一性が失われるということはできず、他にこれを認めるに足りる証拠はない。』
一審被告の主張については、『被告製品に本件特許発明の効果以外の特徴があり、その特徴に購買者の需要喚起力があるという事情が立証されていない以上、寄与率なる概念によって損害を減額することはできないし、特許法102条1項ただし書に該当する事情であるということもできない。』

[コメント]
知財高裁の立場として、特許法102条1項の解釈として、次の点が示された(原審より損害額が増加したのは譲渡数量が増加したためであり、判断基準は原審と概ね同じ)。
「侵害行為がなければ販売することができた物」とは、侵害品と市場において競合関係に立つ特許権者等の製品であれば足りる。
「単位数量当たりの利益額」は、特許権者等の製品の販売価格から製造原価及び製品の販売数量に応じて増加する変動経費を控除した額(限界利益の額)である。
「販売することができないとする事情」は、侵害行為と特許権者等の製品の販売減少との相当因果関係を阻害する事情を対象とし、例えば、市場における競合品の存在、侵害者の営業努力(ブランド力、宣伝広告)、侵害品の性能(機能、デザイン等特許発明以外の特徴)、市場の非同一性(価格、販売形態)などの事情がこれに該当するというべきである。
また、これに対する寄与率の影響について、被告製品に本件特許発明の効果以外の特徴があり、その特徴に購買者の需要喚起力があるという事情が立証されていない以上、寄与率なる概念によって損害を減額することはできないし、特許法102条1項ただし書に該当する事情であるということもできない、と判示した。
なお、知財高裁の先の判決(H25(ネ)10051号)では、「販売することができないとする事情」について、次のように、被告製品の特徴、技術力や営業力、導入に長期間を要すること、高額の費用を要すること、等の事情を認めている。
『しかし、①本件訂正発明2のほかに、版ずれトラブルを解決するのに一定の効果がある手段(版胴表面粗さRmaxを1.0μm≦Rmax<6.0μmに調整すること)が存したこと、②被控訴人は、被告製品の加工当時、控訴人に次ぐシェアを有する輪転機メーカーであり、顧客から、技術力や営業力を評価されていたこと、③版胴は、輪転機の印刷部を構成する多数の部品の一つであり、被告輪転機2にあえて控訴人製品を導入することについては時間と費用がかかるところ、被控訴人が被告製品2(2)について工事の発注を受けたのは平成22年9月頃、被告製品2(3)についての工事の発注を受けたのは同年10月頃であり、本件特許2の存続期間は平成23年3月26日までであるにもかかわらず、控訴人が、被告輪転機2(2)及び(3)に導入する控訴人製品を製造、販売しようとすれば、実際に版胴を製造し、これを顧客に引き渡すまでには長期間を要すること、④被控訴人が被告製品2(2)及び(3)に対してヘアライン加工を施したことによる顧客の負担額に比べ、被告輪転機2(2)及び(3)に、控訴人製品を導入する場合には、高額の費用を要することが認められる。
これらの事実を総合考慮すれば、被告製品2(2)及び(3)について、その譲渡数量の4分の3に相当する数量については、控訴人が販売することができない事情があるというべきである。』
以上
(担当弁理士:梶崎 弘一)