侵害差止等請求事件 » 平成 27 年(ネ)第10075号名称:「液晶表示装置」事件

名称:「液晶表示装置」事件
損害賠償請求控訴事件
知的財産高等裁判所:平成 27 年(ネ)第 10075 号 判決日:平成 27 年 11 月 30 日
判決:請求棄却(控訴棄却)
特許法第 104 条の 3、123 条 1 項 6 号
キーワード:冒認出願、無効の抗弁、発明者の認定

[概要]
本来の発明者からの控訴人(特許権者:公報に控訴人代表者のみを発明者と記載)への特
許を受ける権利の黙示的な譲渡・承継等による主張についても否定されて、本件特許は冒認
出願による無効理由を有するから、控訴人(特許権者)は被控訴人らに対し、本件特許権に基
づく権利行使をすることができないと判断された事例。

[事件の経緯]
控訴人(原審原告)は、特許第 3486859 号の特許権者である。
控訴人が、被控訴人(原審被告)の行為(被告各製品の輸入・販売)が当該特許権を侵害
すると主張して、民法 709 条に基づき、不法行為による損害賠償請求を求めた(東京地裁平
成 25 年(ワ)第 14849 号)ところ、東京地裁が、控訴人の請求を棄却する判決をしたため、
控訴人は、原判決を不服して、控訴を提起した。
知財高裁は、控訴人の控訴を棄却した。

[原審](筆者にて適宜抜粋、下線)
『ア 冒認出願に関する主張立証責任について
特許法123条1項6号所定の冒認出願において、特許出願がその特許にかかる発明の発
明者自身又は発明者から特許を受ける権利を承継した者によりされたことについての主張立
証責任は、特許権者が負担すると解するのが相当であり、特許法104条の3第1項所定の
抗弁においても同様に解すべきである。・・・(略)・・・仮に被告が、冒認を疑わせる具体的
な事情を何ら指摘することなく、かつ、その裏付け証拠を提出していないような場合は、特
許権者が行う主張立証の程度は比較的簡易なもので足りるが、他方、被告が冒認を裏付ける
事情を具体的詳細に指摘し、その裏付け証拠を提出するような場合は、特許権者において、
これを凌ぐ主張立証をしない限り、主張立証責任が尽くされたと判断されることはないとい
うべきである。』
『(ウ) そうすると、本件発明の技術的思想の特徴的部分は本件発明の構成要件EないしHの
構成であるというべきである。・・・(略)・・・発明者とは、当該発明の技術的思想の特徴的
部分の完成に創作的に寄与した者、すなわち、当該発明の技術的思想の特徴的部分を着想し
たか、若しくは実験などによりその具体化に技術的貢献をした者をいうと解されるから、原
告代表者が本件発明の発明者であると認められるためには、上記構成要件を着想等したのが
原告代表者であると認められることが必要であるということができる。』

[争点]
・本件出願は冒認出願に当たるか(特許法 123 条 1 項 6 号)について
・当審における控訴人の予備的主張について

[裁判所の判断](筆者にて適宜抜粋、下線)
1 争点(3)ア(本件出願は冒認出願に当たるか〔特許法123条1項6号〕)について
『(セ) これに対し控訴人は、①控訴人代表者には、液晶表示装置に関する技術を専門的に研
究したり、技術開発や部品製造等の業務に従事した経験はなく、控訴人においては液晶表示
技術に関する実験が可能な設備や施設が備えられていなかったこと、②控訴人代表者が、そ
の本人尋問の際に、歩留まりの割合等の本件発明と従来技術との作用効果の違いを具体的に
説明することができなかったこと、③控訴人代表者が本件発明の構成要件Eの構成を着想す
るに至る経過を示す客観的証拠が提出されていないことは、いずれも、控訴人代表者が構成
要件Eの構成を着想したことを否定する根拠となるものではないし、さらに、④Aが、本件
出願当時、液晶表示装置に関する技術や製造方法等に精通し、本件明細書を図面を含めて作
成し、特許庁審査官との面接に出席して審査官と意見を交わしたことなどの事情は、構成要
件Eの構成はAによって着想されたことを推認できる事情とはいえず、上記④の事情も、控
訴人代表者が構成要件Eの構成を着想したことを否定する根拠となるものではないから、上
記①ないし④の諸点は、構成要件Eの構成を着想したのが控訴人代表者ではないことの理由
にはならない旨主張する。
しかしながら、本件において、控訴人が控訴人代表者が構成要件Eの構成を着想したこと
の根拠であると主張する主たる証拠は、控訴人代表者の供述(当審で提出された甲38の陳
述書を含む。)であるから、その供述の信用性が問題となるところ、前記(イ)ないし(ス)で
説示したとおり、上記①ないし④の諸点を含む諸事情によれば、構成要件Eの構成を着想し
たのが控訴人代表者であるとの控訴人代表者の供述は到底措信することはできないし、上記
供述に沿うAの供述も措信することはできない。他にこれを認めるに足りる証拠はない。
したがって、控訴人の上記主張は採用することができない。』

2 当審における控訴人の予備的主張について
『 控訴人は、①仮にAが本件発明の発明者であると法的に評価される場合であっても、本
件の事実関係を前提とすれば、Aは、本件発明について控訴人名義で特許出願を行うべきで
あると認識し、控訴人代表者もそのことに同意していたと評価できるから、Aから控訴人に
対して、本件発明についての特許を受ける権利が黙示的に譲渡されたものであり、②仮に上
記①が認められないとしても、Aは、遅くとも、平成15年6月ころ、控訴人が本件発明に
係る特許出願等につき、日立ディスプレイズと本件特許等を対象としたライセンス契約を締
結し、控訴人においてライセンス料を受領することを容認していたことからすると、Aは、
そのころ、控訴人が本件特許を受ける権利の権利者であることを追認し、控訴人は本件発明
についての特許を受ける権利を有していたから、本件特許は、その発明について特許を受け
る権利を有しない者の特許出願に対してされたものとはいえず、本件特許には、特許法12
3条1項6号の無効理由は存在しない旨主張するので、以下において判断する。
(1)上記①について
控訴人の上記①の譲渡の主張は、Aが本件発明についての特許を受ける権利が自己に帰属
することを認識した上で、これを控訴人に対して譲渡するに至った経過や、譲渡の対価の有
無及び対価額その他の譲渡の条件等についての具体的な主張を伴うものではなく、Aが本件
発明について控訴人名義で特許出願を行うべきであると認識していたからといって直ちにA
が本件発明についての特許を受ける権利を控訴人に対して譲渡する意思表示をしたことの根
拠となるものではない。他にAが本件発明についての特許を受ける権利を控訴人に対して譲
渡する意思表示をしたことを認めるに足りる証拠はない。
また、控訴人代表者は、本件発明は、控訴人代表者が自ら発明をしたものであり、本件発
明の発明者は控訴人代表者であって、Aではない旨を一貫して供述しており、控訴人代表者
の上記供述は、Aにおいて本件発明についての特許を受ける権利が帰属していたことを否定
するとともに、控訴人がAから本件発明についての特許を受ける権利の譲渡を受けたことを
否定する趣旨の供述であるといえる。そうすると、控訴人代表者の供述から、控訴人がAか
ら本件発明についての特許を受ける権利の譲渡を受けることに同意し、又はこれを承諾する
旨の意思表示をしたものと認めることはできない。他にこれを認めるに足りる証拠はない。
したがって、控訴人の上記①の譲渡の主張は理由がない。
(2)上記②について
控訴人の上記②の追認の主張は、仮に上記①の譲渡の主張が認められないとしても、Aは、
平成15年6月ころ、控訴人代表者が本件特許を受ける権利の権利者であることを追認した
から、控訴人は本件発明についての特許を受ける権利を有していたものであり、追認の対象
は、「本件特許を受ける権利の承継」であるというものであるが、その権利の承継がいつ、
いかなる態様でされたのかその主張自体から明らかではない。また、仮に控訴人の上記②の
追認の主張は、Aが本件発明についての特許を受ける権利を控訴人に承継させる意思表示を
したことを意味するのであるとすれば、上記①の譲渡の主張との実質的な違いは明らかとは
いえないのみならず、Aにおいて控訴人が本件発明に係る特許出願等につき日立ディスプレ
イズと本件特許等を対象としたライセンス契約を締結し、ライセンス料を受領することを容
認していた事実があるからといってAが本件発明についての特許を受ける権利を控訴人に承
継させる意思表示をしたことの根拠となるものではなく、他にこれを認めるに足りる証拠は
ない(かえって、上記事実は、Aが控訴人代表者又は控訴人の名義を借りて特許出願をして
いたこと(原判決62頁20行目から63頁8行目)をうかがわせるものといえる。)。
したがって、控訴人の上記②の追認の主張は、理由がない。』

[コメント]
平成 23 年特許法改正により、冒認出願・共同出願違反に関する救済措置に係る整備が行わ
れ、特許法 74 条 1 項により、冒認出願等に係る特許権について真の権利者による移転請求は
自己が有すると認める特許を受ける権利の持分に応じてするものとする旨規定された。冒認
は、発明の内容を知り得た他人が出願した場合に加えて、本事例のように、特許を受ける権
利の承継に疑義がある場合にも問題となるため、企業が出願人として特許出願する場合、職
務規定などの整備が求められる。更に平成 27 年特許法改正により、職務発明の特許を受ける
権利の帰属に関して、従業者等がした職務発明について、契約等により予め使用者等に特許
を受ける権利を取得させることを定めたときは、その特許を受ける権利はその発生時から使
用者等に帰属する旨規定された。一方、契約等を予め設けていない場合は、職務発明の特許
を受ける権利は、従前どおり、従業者等に帰属するため、職務規定を備えていない中小企業
等は、弁理士等に相談の上、職務規定などの整備に努めることが望ましい。
以上
(担当弁理士:西﨑 嘉一)