侵害差止等請求事件 » 平成25年(ワ)3360号「 非磁性材粒子分散型強スパッタリングーゲト 非磁性材粒子分散型強スパッタリングーゲト 非磁性材粒子分散型強スパッタリングーゲト 非磁性材粒子分散型強スパッタリングーゲト 非磁性材粒子分散型強スパッタリングーゲト 」事件

名称:「非磁性材粒子分散型強磁性材スパッタリングターゲット」事件
特許権侵害差止請求事件
東京地方裁判所:平成 25 年(ワ)3360 号 判決日:平成 27 年 9 月 29 日
判決:請求棄却
特許法 70 条、29 条第1項第 3 号
キーワード:構成要件充足性、均等

[概要]
被告の実施が、原告の特許権に係る特許発明の構成要件を充足していないとして、原告の
特許権を侵害しないとされた事例。

[事件の経緯]
原告は、特許第 4975647 号の特許権者である。原告は、被告の行為が当該特許権を侵害す
ると主張して、被告の行為の差止め等を求めた。東京地裁は、原告の請求を棄却した。

[本件発明1]
【請求項1】
[1-A]Co若しくはFe又は双方を主成分とする材料の強磁性材の中に酸化物, 窒化物,
炭化物,珪化物から選択した1成分以上の材料からなる非磁性材の粒子が分散した
材料からなる焼結体スパッタリングターゲットであって,
[1-B]前記材料の研磨面で観察される組織の非磁性材の全粒子は,非磁性材料粒子内の任
意の点を中心に形成した半径2μmの全ての仮想円よりも小さいか,又は該仮想円
と,強磁性材と非磁性材の界面との間で,少なくとも2点以上の接点又は交点を有
する形状及び寸法の粒子とからなり,
[1-C]研磨面で観察される非磁性材の粒子が存在しない領域の最大径が40μm以下であ
り,
[1-D]直径10μm以上40μm以下の非磁性材の粒子が存在しない領域の個数が100
0個/mm 2 以下である
[1-E]ことを特徴とする焼結体からなる非磁性材粒子分散型強磁性材スパッタリングター
ゲット。

[被告の行為]
(被告製品)被告製品1 Coを含有し,さらに,Cr:6-10mol%,Pt:11-
15mol%,SiO2:8-12mol%を含有する磁気記録メディア用ターゲット(セ
ミコン・ライト株式会社向け製品であって,被告社内の品名コードが2301353508
であるものに限る。)(納品済み)
被告製品2および3の製造等

[争点]
(1)被告製品1について、構成要件1-Bの充足性
(4)本件各発明に係る特許(以下「本件特許」という)の無効理由の有無
特開平10-88333号公報(乙23)に基づく新規性又は進歩性の欠如

[裁判所の判断](筆者にて適宜抜粋、下線)
『1争点(1)(被告製品1の構成要件1-B充足性)について
(1)構成要件1-Bは、非磁性材の全粒子が粗大粒子(半径2μmの仮想円を内包する大
きさの粒子)でないことを要件とするところ,鑑定嘱託の結果及び当事者の主張によれば,
被告製品1には2回目の研磨後の研磨面に少なくとも4か所の粗大粒子が存在することが明
らかである。そうすると,被告製品1は構成要件1-Bを充足せず,本件発明1の技術的範
囲に属しない・・・(略)・・・判断するのが相当である。
(2)これに対し,原告は,① 不可避的な粗大粒子は「全粒子」に含まれない,②「研磨面」
とは1回目の研磨後の面をいう,③ 非磁性材の粒子中に含まれる強磁性材は除外される,④
被告製品1は本件発明1の構成と均等であるとして,構成要件1-Bを充足する旨主張する
が,以下のとおり,いずれも失当と解すべきである。
ア 上記①(不可避的な粗大粒子)について
(ア)構成要件1-Bに係る特許請求の範囲の記載は・・・(略)・・・。そうすると,特許
請求の範囲の文言上,非磁性材の粗大粒子が存在する場合には構成要件1-Bを充足しない
と解するのが相当である。このような解釈は、本件明細書の発明の詳細な説明の記載及び本
件特許の出願経過から裏付けることができる。
(イ)本件明細書には次の趣旨の記載がある一方、本件発明1において非磁性材の粗大粒子
の存在が許容されることをうかがわせる記載は見当たらない。(甲2) ・・・(略)・・・
(ウ)上記(イ)の事実関係に照らすと、本件発明1は、粗大な非磁性材の粒子が存在する
ことによりパーティクルが発生するとの従来技術の問題点を解決するため,非磁性材の粒子
を特許請求の範囲に記載された形状及び寸法に限定するという構成を採用したものであり,
これにより上記の効果が得られたと認められる。そうすると,非磁性材の粒子の大きさが上
記の範囲内にあること,すなわち,非磁性材の粗大粒子が存在しないことは課題解決のため
の本質的部分であり,粗大粒子の存在は本件発明1の目的に反するとみることができる。
(エ)これに加え,原告は,本件特許の出願経過において,①本件各発明のスパッタリング
ターゲットにおいては,半径2μmの仮想円を超える球形の粒子は存在せず,・・・(略)・・・
これ以外の粒子が存在すると発明の目的を達成することができないので,その存在は許容さ
れない旨(・・・略・・・),②存在しては困る非磁性材の粒子は,・・・(略)・・・このよ
うな「太った粒子」が存在すると,本件各発明の効果を得ることができない旨(拒絶理由通
知に対する意見書。乙6)を述べている。そうすると,原告が不可避的な粗大粒子が存在し
ても構成要件1-Bを充足すると主張することは許されないと解すべきである。
イ 上記②(研磨面)について
(ア)構成要件1-Bに係る特許請求の範囲には「前記材料の研磨面」と記載されていると
ころ,この「前記材料」は,・・・(略)・・・スパッタリングターゲット自体ではなく,その
材料を指すと認められる。そうすると,特許請求の範囲の文言上,「研磨面」が1回目の研磨
後のターゲットの表面に限られるとみることは困難である。
(イ)また,・・・(略)・・・スパッタリングの進行に伴ってターゲットの表面が消耗すると
ターゲットの内部が露出し,その部分もスパッタリングに供されることが認められる。そう
すると,非磁性材の粗大粒子によるパーティクル発生の防止という課題は,非磁性材がター
ゲットの表面にある場合だけでなく,ターゲットの内部にある場合にも共通すると解される。
(ウ)以上によれば,構成要件1-Bにいう「前記材料の研磨面」は,焼結体スパッタリン
グターゲットの材料の表面又は内部の任意の箇所を研磨した面を意味し,2回目以降の研磨
後の面も含むと判断するのが相当である。・・・(略)・・・
ウ 上記③(強磁性材の除外)について
本件明細書(甲2)には,本件発明1のスパッタリングターゲットの製造方法として,強磁
性材及び非磁性材の1~5μmの微粉・・・(略)・・・を混合した後に焼結することが記載
されており,・・・(略)・・・。上記の製造方法に照らすと,比較例における非磁性材の粗大
粒子は微粉が凝集して粗大化したものと推認され,その過程で強磁性材の微粉を取り込むこ
とがあると想定されるが,本件明細書には,上記各比較例の非磁性材の粗大粒子に関して,
強磁性材の含有の有無やこれによる本件発明1の効果との関係等を出願人が考慮したとうか
がわせる記載はない。また,粗大粒子が脱粒することがパーティクル発生の原因とされると
含んでいるか否かにより変わるものでないと解される。そうすると,非磁性材の粗大粒子中
の強磁性材の存在は構成要件1-Bの充足性と関係がないと解すべきである。
エ 上記④(均等)について
原告は,被告製品1と本件発明1の作用効果の共通をいうものの,均等の成立を認めるに足
りる要件の主張をしていない。かえって,前記ア(ウ)で判じしたとおり、粗大粒子が存在
しないことは本件発明1の本質的部分というべきものであるから,これが存在する被告製品
1につき均等による特許権侵害を認めることはできない。
したがって,その余の点について判断するまでもなく,被告製品1に係る原告の損害賠償請
求は理由がない。』
『争点(4)(本件特許の無効理由の有無)について
・・・(略)・・・
(1)原告は、乙23文献は酸化物の体積比率と面積比率がかい離する点で記載内容に信ぴ
ょう性がないから、これに基づく無効理由は認められない旨主張する。・・・(略)・・・仮に
乙23文献に誤りがあるとしても,そのことから直ちに同文献が特許法29条1項3号所定
の「刊行物」に当たらないとすることはできない。また,原告は,・・・(略)・・・乙23発
明のターゲットに含まれる酸化物の体積比率及び面積比率を算出した旨主張するが,体積比
率については,ターゲット中の金属部分及び酸化物粒子それぞれの密度が不明であるなど,
これを算出した過程が明らかでなく,その正確性は判断し難い。面積比率については,・・・
(略)・・・客観的に適正であることの裏付けに欠けている(なお,原告は,本件特許の出願
経過において,乙23文献の図1は不鮮明であり,これに記載されている組織は全く判別で
きない旨述べており(乙8),2値化をいうこと自体がこれと矛盾するというほかない。)。さ
らに,体積比率と面積比率が一致するとの技術常識を認めるべき証拠もない。したがって,
原告の上記主張を採用することはできない。
進んで,乙23文献の記載と本件各発明の構成を対比すると,・・・(略)・・・乙23文献
には前記第2の3(4)(被告の主張)アa~eのとおりの構成を備えた乙23発明が記載さ
れていると認めることができる。なお,乙23文献の図1は不鮮明であり,非磁性材の粒子
の大きさや分散状況を認定するのは困難であるが,乙24写真は何人も閲覧可能であるので,
これを含めて上記a~eの構成が公知であったと認められる。そうすると,本件発明1~3
は,乙23発明と同一であり,新規性を欠くと判断すべきものとなる。』
『また,本件発明6は,DCスパッタリング用とされる点において,そのような限定のない
乙23発明と相違するが,・・・(略)・・・同種の組成のターゲットをDCスパッタリングに
用いることが公知であったこと(乙29~31)に照らせば,この点は当業者が容易に推考
することができたと解される。以上によれば,本件特許は無効にされるべきものであるから,
原告が本件特許権を行使することはできない(特許法104条の3第1項)。』

[コメント]
非磁性材の粗大粒子が存在しないことが発明の本質的部分であるとして、非磁性材の全粒
子の形状と寸法を規定する本件特許権の文言上の充足性も均等の成立も排斥されている。本
件の場合には、原告が均等の要件を詳細には主張していないこと、従来技術との境界が明確
でない点があること、審査経過では実施可能要件サポート要件違反の指摘に対して原告自ら
が非磁性材の粒子が粗大粒子でないことを課題解決の原理として強調していることなどから、
文言上も均等も認めないとした結論は妥当であると考えられる。また、本件の場合、審査経
過では指摘されていない新規性の欠如も判断された。製造方法などに従来技術との明確な差
異があるのであれば、そのような明確な差異点が反映されるようなクレームとして権利化で
きたのではないだろうか。
以上
(担当弁理士:高山 周子)