侵害差止等請求事件 » 平成 26 年(ワ)11110 号「美顔器」事件

名称:「美顔器」事件
損害賠償請求事件
東京地方裁判所:平成 26 年(ワ)11110 号 判決日:平成 27 年 3 月 25 日
判決:請求棄却
特許法70条
キーワード:均等論第4要件、容易に推考、動機付け

[概要]
均等の第4要件を充足せず、被告製品は原告の特許発明と均等なものとして技術的範囲に
属するとは認められないから、被告の実施が原告の特許権を侵害しないとされた事例。

[事件の経緯]
原告は、特許第 4277306 号の特許権者である。
原告は、被告の行為が当該特許権を侵害すると主張して、損害賠償金の支払を求めた。
東京地裁は、原告の請求を棄却した。

[本件発明]
【請求項1】
所定量の化粧水を収納する化粧水収納カップと、該化粧水収納カップを装備すると共に、
前記化粧水収納カップから滴下された化粧水が引き込まれる導管を内蔵し、且つ該導管の先
端に設けられた噴出ノズルを有するスプレー本体と、更にこの導管内において前記滴下化粧
水と混合して炭酸混合化粧水を噴出ノズルから霧状に噴出させる炭酸ガス供給用ボンベと、
この炭酸ガス供給用ボンベと前記スプレー本体内の導管とを接続する炭酸ガス供給用パイプ
と、而も前記スプレー本体に備えられた炭酸混合化粧水の噴出調整用摘子とで成したことを
特徴とする美顔器。

[争点]
(1) 被告各製品の構成等
(2) 被告各製品は本件特許発明と均等なものとしてその技術的範囲に属するか
(3) 本件特許発明についての特許は特許無効審判により無効にされるべきものと認められ
るか
(4) 損害
以下、争点(2)について記載する。

[原告の主張](筆者にて適宜抜粋、下線)
1.均等の第4要件について
以下では、特開平1-110304公報を「乙1文献」といい、これに記載された発明を
「乙1発明」という。また、特開2003-88781公報を「乙4文献」といい,これに
記載された発明を「乙4発明」という。

『(4) 均等の第4要件
被告各製品が,本件特許の原出願時の公知技術と同一である,又は公知技術から容易に推
考できたという事情は存在しない。被告は,本件各製品は乙1発明から容易に推考し得たと
主張するが,争う。
ア 被告各製品と乙1発明の相違点は,以下のとおりである。
・・・(略)・・・
イ 特開2003-88781公報・・・(略)・・・記載の公知技術について
・・・(略)・・・乙4文献に記載されているのは,塗料スプレー装置であり,炭酸ガス,
化粧水及び炭酸ガス混合化粧水を吹き付けるものでもなければ,美顔器でもない。・・・(略)・・・
ウ 組合せによる推考容易性の欠如
(ア) 被告は,乙1発明に乙4発明を適用する動機付けがある旨主張しているが,被告が乙
1発明と乙4発明の共通点として挙げる技術分野は,「液体を噴霧上に塗布させる技術」と
いう抽象的なものにすぎない。乙1発明は,役者やモデルのような舞台に上がる者を対象と
したメイクアップの技術であるのに対し,乙4発明は,模型等を対象とした塗装技術であっ
て,技術分野が全く異なる。したがって,組合せの動機付けはなく,乙1発明では,炭酸ガ
スと化粧水を混合して炭酸混合化粧水を生成し,これを顔肌に吹き付ける技術思想は開示さ
れていないから,被告各製品の推考が容易であったとはいえない。
(イ) 乙1発明の解決課題は,従来技術における,噴霧量の調整が困難であったこと,化粧
料が短期間で消費されること,長時間一定の状態で噴霧することができないこと,大気を汚
染すること,連続して吹き付けることができないことといった問題であるのに対し,乙4発
明の目的は,液体スプレーから吹き出す流体の流量を極めて簡単な構造で調整できるように
し,さらに塗料色を変えて使用する場合にも,キャップや吸い上げノズルの洗浄回数を減ら
したり,省略することのできる塗装スプレー装置を安価に提供することである。したがって,
両者の解決課題は全く異なるものであり,両者を組み合わせることを示唆する事情はない。』

[裁判所の判断](筆者にて適宜抜粋、下線)
1.均等の第4要件について
紙面の都合上、被告製品と乙1文献との相違点に対する裁判所の判断については省略する。
なお、裁判所は、原告が主張する相違点1~7のうち相違点2~7を相違点として認めた上、
何れの相違点についても乙4文献から容易に推考できると判断した。

『(ク) 動機付けについて
原告は,乙1発明は,役者やモデルのような舞台に上がる者を対象としたメイクアップの
技術であるのに対し,乙4発明は,模型等を対象とした塗装技術であって,技術分野が全く
異なること,また,乙1発明と乙4発明の解決課題が異なることから,乙1発明に乙4発明
を適用する動機付けがないと主張する。しかし,証拠(乙1)によれば,乙1文献の「問題
点を解決するための手段」には,「本発明者は,上記の問題点を解決するために,化粧料を,
手作業によって塗布する代りに,工業的に吹き付けることに気が付き,塗料を噴霧して吹き
付けるのと同様な方法によって化粧料を噴霧して吹き付けることを考え付いたのである。」と
の記載があり,この記載はまさに,塗料を噴霧して吹き付ける塗装技術を,化粧料を吹き付
ける技術に応用することが可能であることを示唆するものであると認めることができる。し
たがって,上記記載に照らせば,化粧料の吹付けに関する乙1発明に塗装技術である乙4発
明を適用する動機付けがあるというべきであり,これに反する上記原告の主張は採用するこ
とができない。・・・(略)・・・
オ したがって,・・・(略)・・・被告各製品が本件特許発明と均等なものとしてその技術
的範囲に属すると認めることはできない。』

[コメント]
裁判所は、被告製品と乙1発明との相違点を認めた上で、何れの相違点についても乙4文
献から容易に推考できると判断した。原告は、乙1文献がメイクアップの技術に関するもの
であるのに対し、乙4文献は塗装技術に関するものであり、技術分野が異なることから両者
を組み合わせる動機付けがない旨を主張した。しかし乙1文献には、「本発明者は,上記の問
題点を解決するために,化粧料を,手作業によって塗布する代りに,工業的に吹き付けるこ
とに気が付き,塗料を噴霧して吹き付けるのと同様な方法によって化粧料を噴霧して吹き付
けることを考え付いたのである。」との記載があり、裁判所はこの記載を根拠に、乙1発明に
乙4発明を適用する動機付けがあると判断した。
乙1文献のように、発明が属する分野と異なる分野における技術を転用した旨を明細書に
記載すると、分野が異なる文献同士を組み合わせる動機付けがあると判断される虞がある。
明細書を起案する際、特許権の取得という観点では、余程の事情が無い限りこのような記載
をすべきでないと考える。
なお、被告は原告の特許に対し、乙1文献及び乙4文献を含む証拠を提出して特許無効審
判を請求したが、請求は成り立たないとする審決がされた(無効2014-800132、
審決日:平成27年6月23日)。これに対し被告は、平成27年7月28日に審決取消訴訟
を知財高裁に提起している(平成27(行ケ)10144号)。今後、知財高裁の判断に注目
したい。