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平成27年(ネ)10040号「装飾品鎖状端部の留め具」事件

名称:「装飾品鎖状端部の留め具」事件
特許権侵害行為差止等請求控訴事件
知的財産高等裁判所第2部:平成27年(ネ)10040号 判決日:平成27年8月6日
判決:棄却
キーワード:特許法70条、文言解釈
[概要]
被控訴人製品は、構成要件B,Cを充足せず本件特許発明の技術的範囲には属さないと判断された事例。
[特許請求の範囲]**(マーカー部分は争点)(アンダーラインは訂正箇所:控訴審の段階で訂正審判を行った)
A 装飾品の片方の鎖状部の端部に設けたホルダーと
B 他方の鎖状部の端部に設けたホルダー受けとを噛合わせて係止する方式の留め具であって,
C 前記ホルダーとホルダー受けには,これらを正しい噛合い位置に誘導できる部位に,互いに吸着する磁石の各一方を,あるいは磁石とこれに吸着される金属材を,それぞれ吸着部材として設けた装飾品鎖状端部の留め具において,
D 前記ホルダーが,ホルダー受け嵌入用の開口部を構成すると共に先端部に噛合い形状を形成した1対の顎部材を開口/閉口可能に軸支したバネ閉じ式の鰐口クリップであり,
E 前記ホルダー受けが1対の開口状態の顎部材間に嵌入して係止される係止部材であり,
F かつ,前記鰐口クリップの内部における1対の顎部材間に一方の吸着部材を設け,
G 前記係止部材の先端に他方の吸着部材を設けた装飾品鎖状端部の留め具。
[争点]
ア 被控訴人製品は「ホルダーとホルダー受け」(構成要件A~E)を備えるか
イ 被控訴人製品は「噛合わせて係止する」(構成要件B)を備えるか
ウ 被控訴人製品は「正しい噛合い位置」(構成要件C)を備えるか
[裁判所の判断]
ア「ホルダーとホルダー受け」(構成要件A~E)
顎部材とは別に,「ホルダー受け」が通過する固定的な挿入口を持つ構成物があってはならないとの限定はなく,鰐口クリップ内における吸着部材の設置場所の限定もない。
他方,「ホルダー受け」となる係止部材は,吸着部材を備えているほか,開口状態にある鰐口クリップの顎部材間に嵌入可能である適宜な形状と,鰐口クリップの顎部材と確実に噛合うことができる形状を備えていればよく,顎部材間にある別の構成物に嵌入されることまでは排除されていない。
控訴人は,引用文献3では,ロックレバー8ではなく,開閉可能な構成となっていない筒体5が,ホルダー受けの挿入口を構成するというべきであるから,引用文献3に記載された発明は,鰐口クリップがホルダーである発明とはいえないと述べたものと解される。
したがって,本件意見書の記載をもって,信義則上,本件発明から顎部材以外にホルダー受けに対する固定的な挿入口を持つ構成物がある構成が排除されると解すべきではない。
(被控訴人製品への当てはめ)
被控訴人製品において,鎖の一方に設けられたのは,部材ア,部材イ,部材ウ,部材オ及び部材カから構成された部品である。したがって,部材ア,部材イ,部材ウ,部材オ及び部材カから構成される部分は,「ホルダー」に該当するといえる。
イ「噛合わせて係止する」(構成要件B)
本件発明の属する技術分野である装飾品の「留め具」において,「噛み合う」という用語は,通常,凸部とそれに対応する凹部とが接触した組合せからなる係止の状態を示しているものと解することができる。
同明細書における「ホルダー受けである前記の係止部材4は,鰐口クリップ3と略同径の円柱形状又は円筒形状を持っている。・・・第5図に示すように,鰐口クリップ3が閉じて係止部材4と噛み合ったときには,1対の顎部材6の上記止め部14が,ネック部15に食い込む。」との記載も,上記の「噛み合う」についての解釈と矛盾しない。
少なくとも,上記第5図についての説明等と併せ読めば,止め部14とネック部15やS極磁石16との間に明白な隙間がある状態が「噛合い状態」に含まれることを前提とした記載とみることはできない。
(被控訴人製品への当てはめ)
部材ア及び部材イは,部材エとは接触していない。その状態では,部材ウの中に部材エが完全に収まっており(嵌入しており),部材ウ及び部材エは,それぞれの内部の磁石の吸着によって固定されているにすぎない。したがって,ホルダーである部材ア,部材イ,部材ウ,部材オ及び部材カと,ホルダー受けである部材エとが「噛合わせて係止」した状態とはいえない。
以上によれば,被控訴人製品は,構成要件Bを充足しない。
ウ 「正しい噛合い位置」(構成要件C)
本件発明における「正しい噛合い位置」とは,ホルダーとホルダー受けにおける吸着部材同士が吸着した際に音が発生する際のそれぞれの位置のことを指すというべきである。そして,本件発明が,「正しい噛合い位置」にガイドされた後,そのまま手の力を緩めて鰐口クリップを閉じることによって,ホルダーとホルダー受けを噛み合わせることを予定していることからすると,「正しい噛合い位置」において,ホルダーとホルダー受けとが噛み合っていることを要するものというべきである。
(被控訴人製品への当てはめ)
部材ア及び部材イの開口部を閉じることにより装着が終了した時点での留め具の内部の構造は,同別紙の2-a図のとおりであり,部材ア及び部材イは,部材エとは接触していない。このように,部材ウの中に部材エが完全に収まっている(嵌入している)状態においては,部材ウ及び部材エは,それぞれの内部の磁石の吸着によって固定されており,ホルダーである部材ア,部材イ,部材ウ,部材オ及び部材カと,ホルダー受けである部材エとが「噛合わせて係止」した状態とはいえない。
したがって,被控訴人製品は,構成要件Cを充足しない。
[コメント]
結論は一審と変更ないが、ホルダに関する解釈は異なる。一審は、審査経過における意見書の内容(引用文献3に対する差の主張)を取り上げて、ホルダを限定解釈したが、控訴審では限定解釈をせず被控訴人製品はホルダの要件を備えると判断した。ホルダの解釈としては控訴審の方が妥当であろう。「噛み合い」の解釈は権利者に対して厳しいのではないかとの意見があった。

平成27年(ネ)10040号「装飾品鎖状端部の留め具」事件

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