IP case studies判例研究

平成26年(ワ)第19447号「記録媒体」事件

名称:「記録媒体」事件
特許権侵害差止等請求権不存在確認等請求事件
知財高裁:判決日27年3月24日、平成26年(ワ)第19447号
判決:請求認容
キーワード:明細書に基づかない発明の構成要素の主張
[概要]
原告製品が被告特許権を侵害していないとして被告特許権差止等請求権の不存在および不正競
争防止法2条1項14号に該当することで同法3条1項に基づく差止請求権が認められた事案で
ある。
[争点]
(1)構成要件E(前記読取不可領域には,認識不可能なデータとして,当該記録媒体が保有す
る誤り訂正プログラムが作動する範囲以上の長さを有するピットが配置されている部分を有し)
の充足性 (争点(2)、(3)は省略する)
[被告主張]
(1)争点1について
「誤り訂正プログラム」とは,DVDの正常な再生を阻害する要因を排除するためのプログラ
ムを一般的に意味しており,被告が主張するものに限られない。本件明細書には,本件各発明の
記録媒体が特別な再生装置を必要とせずに再生できることが記載されており,DVDとして再生
できるようなプログラムが存在することが前提とされているほか,記録媒体の記録面にキズなど
が入った場合に動作する誤り訂正用プログラム「など」が収納されていると記載され,「のみ」
とは記載されていない。本件各発明の「誤り訂正プログラム」は,DVD規格には本来存在しな
い読取不可領域を正規DVDと認識し再生するプログラムを除外していないのである。被告は,
本件特許に関する無効審判においても,「誤り訂正プログラム」の意味をECC内の誤り訂正用
のデータであるパリティデータに限定するわけではない旨を述べている。したがって,構成要件
Eの「当該記録媒体が保有する誤り訂正プログラム」とは,DVDの正常な再生を阻害する要因
を排除するプログラム,すなわち,当該記録媒体をDVD規格に修復するプログラムをいい,「誤
り訂正プログラムが作動する範囲以上の長さを有するピット」とは,一定の長さと反射率(構成
要件F)を有するためにDVD規格上の誤り修正するプログラムが完結できず再生できなくなる
ピットをいうと解釈されるべきである。
「被告の実験によれば,原告コピーガード済み光記録媒体は,読取不可領域を配置している結
果,正規のDVDの規格ではなくなっており,通常に再生できない「誤り」を保有しているが,
その「誤り」を訂正するプログラムを保有させ,通常再生が可能となるようにしている。その上
で,読取不可領域となる部分にレーザー加工で読取可能領域とは異なる長さないし間隔のキズ(ピ
ット)を配置し,その上に動画を読取不可領域に上書きし,キズを上書きすることによってDV
Dには大きなキズがないと認識させ,更に本体映像を再生する際には読取不可領域全体をジャン
プするよう再生プログラムが備えられている。したがって,原告コピーガード済み光記録媒体は,
「誤り訂正プログラム」と「誤り訂正プログラムが作動する範囲以上の長さのピットが配置され
ている部分」を有しているから,構成要件Eを充足し,本件各発明の技術的範囲に属する。」
[原告主張]
(1)争点1について
被告特許の構成要件Eに対応する原告製品の構成要件Eは「前記読取不可領域には、認識不可
能なデータとして、当該記録媒体の再生装置が保有する誤り訂正プログラムが正常に作動するこ
とができないパターンのピットが配置されている部分を有し」である。
「誤り訂正プログラム」とは,技術的一般常識上,ディスク及びドライブ上の共通規格であり,
論理記録方式(DVDの場合はECCブロックによる方法)に対応して,記録不良,ディスクの
傷等によって読取エラーが発生した場合に,正しいデータに復元するプログラムをいう。このよ
うな「誤り訂正プログラム」は,記録されているコンテンツがPDF等のデータファイルなのか,
DVDビデオ用の動画ファイルなのかなどに関係なく,同一規格のドライブ装置により共通の動
作をする。これに対し,被告の主張するものは,DVDビデオを再生するためにのみ用いられる
DVDビデオ規格上のプログラムであるか,又はCell等のDVDビデオ規格上の単なるデー
タである。また,「誤り訂正プログラムが作動しない範囲以上の長さ」とは,誤り訂正プログラ
ムが作動しない,すなわち,誤り訂正が不可能となる長さを指している。そうすると,「誤り訂
正プログラム」が被告の主張するとおりであるとすると,DVDビデオとして認識されなくなる
はずである。
[裁判所の判断]
1.争点(1)について
明細書の記載によれば,「誤り訂正プログラム」とは,記録媒体の記録面にキズなどが入った
場合に動作するものであって,そのような場合にも記録媒体の再生を可能にするプログラムであ
ると解釈することができる。
証拠(甲2)及び弁論の全趣旨によれば,①本件特許の出願(優先日。以下同じ。)当時,ピ
ット列中の連続するいくつかのピットをレーザビーム照射で破壊することにより,再生装置の訂
正機能により復元することが不可能であるように破壊された部分を有する光記録媒体(特開20
03-338050号公報),光ディスクに多少の傷やデータの欠損があっても再生できるよう
なエラー訂正機能を備えた再生装置により訂正することができない大きさのデータの欠損を設け
た光ディスク(特開2003-296937号公報)が公知であったこと,②本件特許について
は無効審判が請求されたが,本件各発明と引用発明(特開2000-231759号公報。正常
な読み出しができない不良部分に形成される正常なピットとは異なるピットを,読取装置が保有
する誤り訂正プログラムが作動しない長さとした記録媒体)は,誤り訂正プログラムの保有場所
が記録媒体であるか読取装置であるかの点で相違し,この点につき本件各発明の進歩性が認めら
れるとして,無効審判請求を不成立とする審決がされたことが認められる。
「上記事実関係によると,本件特許の出願当時,光記録媒体の技術分野において,「誤り訂正
プログラム」とは,ディスクの傷やピットの破壊その他データの欠損といった「誤り」があるた
めに再生装置が正常な読み出しを行えない場合に,その「誤り」を訂正して光記録媒体の再生を
可能にする機能を有するプログラムをいうと理解されていたと認められる。このような理解は,
上記(2)及び(3)の本件明細書の記載に基づく「誤り訂正プログラム」の解釈に沿うものである。
被告は「誤り訂正プログラム」の意義につき前記(1)のとおり主張するが,本件明細書にそのよ
うな解釈を基礎付け,又は示唆する記載は見当たらず(前記段落【0020】の「誤り訂正用の
プログラムファイル(誤り訂正ファイル)」に続く「など」は,記録媒体に収納されるプログラ
ムファイルが誤り訂正プログラム以外にも存在することを示すものであり,記録面にキズなどの
「誤り」が入った場合以外に動作する「誤り訂正プログラム」があることを記載したものとは解
し難い。),また,本件特許の出願当時,被告が主張するような機能を有する「誤り訂正プログ
ラム」が存在したことを示す証拠はない。
[コメント]
被告が「誤り訂正プログラム」について新たな機能を主張したことに対し裁判所は明細書およ
び出願当時技術常識から認めなかったことについて妥当であると考える。

平成26年(ワ)第19447号「記録媒体」事件

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