侵害差止等請求事件 » 平成25年(ネ)10025号「金属製棚及び金属ワゴン」事件

名称:「金属製棚及び金属ワゴン」事件
特許権侵害差止等請求事件
知的財産高等裁判所:平成 25 年(ネ)10025 号 判決日:平成 26 年 12 月 17 日
判決:一部認容
特許法100条2項、民法709条及び719条
キーワード:共同不法行為、侵害行為から受けた利益、限界利益、推定覆滅

[概要]
被控訴人らの侵害行為に対する控訴人の損害賠償請求に対し、共同不法行為責任成立によ
る連帯支払い判決がなされた事案。

[争点]
争点3(被控訴人らの連帯責任の有無及び控訴人の損害(推定覆滅事由を含む)

[裁判所の判断](筆者にて適宜要約、太字、下線を加えている。)
(1) 被控訴人らの連帯責任
複数の者について不法行為責任が認められる場合において,各侵害者につき,共同不法行
為責任が成立するためには,各侵害者に共謀関係があるなど主観的な関連共同性が認められ
る場合や,各侵害者の行為に客観的に密接な関連共同性が認められる場合など,各侵害者に,
他の侵害者による行為によって生じた損害についても負担させることを是認させるような特
定の関連性があることを要するというべきである。そして,製造業者が小売業者に製品を販
売し,これを小売業者が消費者に販売するという取引形態は,極めて一般的なものであり,
製造業者と小売業者双方が,このような取引形態を取っていることを認識し容認していると
しても,これだけでは共同不法行為責任を認めるに足りるだけの十分な関連共同性があると
はいえない。

本件において,弁論の全趣旨によれば,製造業者である被控訴人コージ産業は,小売業者
である被控訴人トラスコ中山に対し,被控訴人製品をすべて納入しているが,被控訴人らの
間に資本的,人的関係があることを認めるに足りる証拠はなく,被控訴人製品の売上げが被
控訴人双方における売上げに占める割合は極めて低い上,被控訴人トラスコ中山にとって被
控訴人コージ産業は多数の取引先の1つという評価もできる。しかしながら,被控訴人コー
ジ産業は,被控訴人トラスコ中山の営業力を背景として,同被控訴人に被控訴人製品の全品
を確実に買い取ってもらえるという信頼の下に,当該製品の製造を行い,他方,被控訴人ト
ラスコ中山も,被控訴人コージ産業の製造した製品を独占的に買い取ることで,商品供給を
確実にするという関係にあったと認められるから,被控訴人双方は,相互に利用補充しなが
ら,被控訴人製品の製造・販売をしてきたということができる。したがって,本件において,
被控訴人らの行為には,客観的に密接な関連共同性があったといえ,共同不法行為責任が成
立するというべきである。

(2) 被控訴人トラスコ中山の行為による損害
ア 特許法102条2項の利益について
特許法102条2項に基づいて損害賠償を算定するに当たり,同項に定める侵害行為から
受けた「利益」とは,当該特許権を侵害した製品の売上合計から原材料費ないし仕入れ価格
の合計を控除した上で,さらに,侵害製品の販売数量の増加と直接関連して変動する経費の
みを控除したものを指すと解するのが相当である。また,当該侵害品の販売と関連する一定
の費用を要したとしても,そのことが侵害行為を行った者の会計処理上明らかでない場合は,
原則として,当該費用を変動経費に算入すべきではない。なぜなら,上記の損害賠償の算定
に当たって,当該費用を侵害品と明確に関連性させて処理していないことによる不利益は,
侵害を行った者が負うのが相当だからである。
以上に反する被控訴人らの主張は採用しない。

イ 損害の算定
(ア) 販売数量及び販売金額
被控訴人製品の販売数量が●●●●個であり,販売金額が●●●●●●●●●円であるこ
とは,当事者間に争いがない。

(イ) 控除される変動経費
① 被控訴人コージ産業からの仕入額、被控訴人製品の運搬に要する費用は、変動経費に当た
るので,控除される。

② 販売のための広告費用(販売促進費、謝恩企画、通信費,旅費交通費及び会議費)、販売
のための人件費用、 被控訴人製品の保管等に要する費用(借地借家料、保守点検費,水道光
熱費及び消耗品)は、いずれも控除することができない。

(ウ) 推定覆滅事由等
特許権等の侵害者が受けた利益を特許権者等の損害と推定する特許法102条2項の推定
を覆滅できるか否かは,侵害行為によって生じた特許権者等の損害を適正に回復するとの観
点から,侵害品全体に対する特許発明の実施部分の価値の割合のほか,市場における代替品
の存在,侵害者の営業努力,広告,独自の販売形態,ブランド等といった営業的要因や,侵
害品の性能,デザイン,需要者の購買に結びつく当該特許発明以外の特徴等といった侵害品
自体が有する特徴などを総合的に考慮して,判断すべきものである。

① 寄与度
本件発明は,金属製ワゴン全体に関する発明であり,発明の効果をもたらす美観と傾き防
止機能は,金属製ワゴンの支柱に合うように形成された棚板のかど部の形状によるものであ
るが,被控訴人製品が製品全体に関する本件発明の実施品であることに変わりはなく,被控
訴人製品の特徴的機能に本件発明が大きく寄与しているものと認められる。

本件発明の効果である美観や傾き防止機能を有する製品は,従前からあったとしても,こ
れまで公に知られていた金属製ワゴンは,両方の機能を兼ね備えたものとは必ずしも認めら
れないから,両方を兼ね備えた被控訴人製品の購買への訴求力を否定するものではない。

② 推定覆滅事由
控訴人は,従業員数、営業所数として十分な生産能力や販売能力を有していると推認され,
事業規模による推定覆滅は認められない。

もっとも,被控訴人製品がカタログ販売されていた事情に鑑みると,被控訴人製品の購入
動機が,本件発明に関わる美観と傾き防止性能のみにあるとは考えられないし,金属製ワゴ
ンの市場では,多数のメーカーが製品を販売している以上,被控訴人トラスコ中山が販売し
た被控訴人製品のすべてについて,控訴人が控訴人製品を販売できたと解することは困難で
ある(ただし,前述したとおり,被控訴人製品が他の金属製ワゴンにはない機能を有してい
る事情に鑑みれば,市場で販売された他の金属製ワゴンが直ちに競合品や代替品に該当する
ということはできず,大幅な推定覆滅は認められない。)。

③ 小括
以上の事情を総合すると,覆滅割合としては,20%が相当である。

ウ 損害の計算
(販売金額-仕入額-運搬に要する費用)×0.8=1245万3719円

エ 弁護士費用
弁護士費用として150万円を被控訴人トラスコ中山の行為による損害と認める。

オ 合計
以上によれば,損害額合計は1395万3719円となる。

(3) 被控訴人コージ産業の行為による損害
上記で述べたとおり,限界利益を算定する。
ア 損害の算定
(ア) 販売数量及び販売金額
被控訴人コージ産業の平成23年4月28日以降の被控訴人製品の販売金額が●●●●●
●●●●円であると認められる。

(イ) 控除される変動経費
① 被控訴人製品の材料費,外注費、購入費、運送費、輸入関税費用等、金型の製作費用は、
控除される。

②被控訴人製品の加工賃、機器設備費用,その稼働に要する水道光熱費・消耗費・雑費等、
販売のための人件費は,控除することができない。

(ウ) 推定覆滅事由等
寄与度及び推定覆滅事由については,被控訴人トラスコ中山について述べたのと同様であ
り,覆滅割合としては,20%が相当である。

イ 損害の計算
(販売金額-材料費-外注費-購入費-運送費-輸入関税費用-金型の製作費用)×0.8
=1611万6402円

ウ 弁護士費用
弁護士費用として200万円を被控訴人コージ産業の行為による損害と認める。

エ 合計
以上によれば,損害額合計は1811万6402円となる。

(4) 損害額の合計
以上によれば,被控訴人らは,1395万3719円と1811万6402円の合計32
07万0121円を連帯して支払う義務を負うことになる。

[コメント]
共同不法行為につき、裁判所は、被控訴人間の信頼関係の下での全品独占的納入及び買い
取りという事情より、被控訴人双方は,相互に利用補充しながら,被控訴人製品の製造・販
売をしてきたとして、被控訴人らの行為における客観的に密接な関連共同性を認めて共同不
法行為責任の成立との判断を下している。

損害額については、特許法第102条第2項の「利益」として限界利益説を採った上で、
推定覆滅事由に関して、本件発明の被控訴人製品機能への寄与度は全部認める一方、被控訴
人製品の競合関係や被控訴人の販売力を理由に小幅な推定覆滅を認めている。
いずれも一般的、常識的な範囲内の判断であり妥当と考える。