侵害差止等請求事件 » 平成25年(ワ)10151号「カラーアクティブマトリックス型液晶表示装置」事件

名称:「カラーアクティブマトリックス型液晶表示装置」事件
損害賠償請求事件
東京地方裁判所:平成 25 年(ワ)10151 号 判決日:平成 26 年 12 月 25 日
判決 : 請求棄却
特許法104条の3第1項,123条1項6号
キーワード:冒認による特許無効

[概要]
原告特許は、冒認による無効理由を有するから,原告は被告に対し本件特許権に基づく権
利行使をすることができないと判断された事案である。

[主な争点]
冒認による特許無効の成否

[前提事実](P.2 第 8 行目~P.4 の下から 5 行目)
(1) 当事者
原告は,金型の設計・製造・販売,自動車用部品及び付属品の製造・販売並びにプレス加
工業等を業とする株式会社であり,A(以下「原告代表者」という。)はその代表者である。
被告は,液晶テレビ,レコーダー及びノートパソコン等の製造・販売を業とする株式会社
である。
補助参加人は,ダイオード,トランジスタ及びこれらに類似する半導体の製造等を業とす
る大韓民国の法人である。B及びCは,平成7年~8年頃,補助参加人に技術者として勤務
していた。

[裁判所の判断]
・判断(P.17 第 1 行目~P.23 第 1 行目)
ア 原告は,原告代表者が,別紙5の図7(b)の・・・電極構成に,図8の・・・構成を組み
合わせて,本件発明を完成させたと主張する。

しかしながら,原告の提出した原告代表者の陳述書,証言調書等の書証及び原告代表者の
本人尋問中には,上記主張のうち,原告代表者が上記の図7(b)の電極構成を基に本件発明を
完成させたとの陳述・供述はあるものの,上記証拠のいずれを検討しても,これに上記の図
8の構成を組み合わせたとの陳述・供述は見当たらない。なお,上記の図7(b)の電極構成に
図8の構成を組み合わせて本件発明を完成させたとの主張は,本件訴訟において尋問実施後
に初めてされたものであって,それまで主張されたこともなかった(当裁判所に顕著である。)。
したがって,本件発明の完成に関する原告の主張は,証拠に基づかないものであって,そ
もそも採用し難いものである。

イ 上記の点をおくとしても,仮に原告が主張するとおり,原告代表者が日立公報に基づきこ
れを改良する形で本件発明を着想したということが事実であるとすれば,原告代表者は,そ
の改良点等・・・につき,・・・少なくとも当業者に匹敵するほどの技術的能力を有していた
ことになる。

ウ ・・・しかるところ,前記(1)エ(ア)の認定事実によれば,原告代表者は,液晶表示装置に
関する技術を専門的に研究したり,技術開発や部品製造等の業務に従事したりした経験はな
く,原告代表者が本件出願日当時,液晶表示装置について当業者に匹敵するほどの技術的能
力を有していたとは到底認めることができない。このような原告代表者において,本件学会
に出席して日立公報や関連する論文,雑誌及び新聞の類に目を通して本件発明を完成したと
するのは不自然というほかはない。

加えて,原告代表者が日立公報を基に本件発明を着想したとする原告の主張については,
その裏付けとなる客観的証拠(例えば,当時入手した特許公報等の資料,Bに説明した際に
作成したとするメモ等)が全く示されていない。また,本件における原告代表者の本人尋問
の結果及びBの証言からは,原告代表者が本件学会に出席して高視野角の拡大という技術に
強い感銘を受け,これをBに伝えた経緯は強調されているものの,原告代表者において,い
かにすれば日立公報に開示された発明(原告の主張によれば第1の構成を有するとされるも
の)との差別化を図ることができるかという,当然検討されてしかるべき中心的テーマにつ
いて,原告がいかなる説明をしたのかも明らかではない。

以上のような不自然さは,本件発明が原告代表者以外の,少なくとも当業者と同水準の知
識・経験を有する者によって着想されたことを推認させる事情ということができる。

エ 他方,前記(1)エ(イ)認定のBの液晶技術に関する経歴・経験及び補助参加人に提出した技
術報告書の記載内容等に照らせば,Bは,本件出願日当時,液晶表示装置に関する技術や製
造方法等に精通し,少なくとも当業者と同水準の知識・経験を有していたものと認められる。
また,前記(1)ウ(ア),エ(ウ)のとおり,本件明細書は,原告代表者と長年の付き合いのあった
Bが,図面も含めて全てを作成したものである。

そして,証拠(甲2,丙4の添付書類1,丙39)によれば,本件明細書の図1,3及び
7のいずれの図面においても,映像信号配線に隣接する配線が画素電極(液晶駆動電極)で
はなく共通電極とされているところ(第3の構成),Bは,画素電極が映像信号配線と隣り合
うパターンと,共通電極が映像信号配線と隣り合うパターンとが比較検討されている技術論
文に基づき,後者の有利性を平成7年11月2日付けの技術報告書に報告しており,第3の
構成の有利性を認識していたことが認められる。

さらに,前記(1)ウ(イ)のとおり,Bが補助参加人に平成9年1月30日付けで提出した「5
MASK-ZIGZAG-IPS開発」と題する技術報告書(丙36,48)の内容は,ほ
ぼ本件発明と同様のものであるところ,Bは,同報告書中に,同発明が原告代表者において
着想したものであることや,日本で出願中であることを記載していない。このことは,Bに
おいて本件発明の発明者が真に原告代表者と考えていたとすれば合理的な説明が困難なもの
である。これらは,いずれも本件発明がBによって着想されたことを推認させる事情という
ことができる。

オ 以上の事情を総合考慮すれば,・・・原告代表者が第1~第3の構成を着想したとはいえ
ず,少なくとも第2の構成及び第3の構成を着想したのはBと認めるのが相当である。
よって,本件特許は,その発明について特許を受ける権利を有しない者の特許出願に対して
されたものと認められる。

[コメント]
本件は、本件発明を完成できるはずのない人が発明者として記載されていたためにその立
証が成功し、冒認が認められたレアケースと考える。一般的に、真の発明者ではない者が発
明者として記載されていても、それが当該技術分野に属する者であれば、本件発明をした可
能性を否定することは難しいと思われる。

とはいえ、当然であるが、発明者の欄には真の発明者を記載すべきである。真の発明者を
記載した上で特許を受ける権利を適法に自社に移転させておけば、このような問題は起きな
い。

事後分析的にはなるが、本件では、Aとも原告株式会社とも関係のないBが発明をしてい
るので、Bを発明者として記載しておき、特許を受ける権利を原告株式会社に移転しておけ
ば冒認とはならなかったと思われる。(おそらく、Aとしては具体的な構成までは着想できな
かったものの、「学会で見たこの技術を使えないか?」と考えたこと自体が発明である、と考
えたのかもしれない(判決文中「高視野角の拡大という技術に強い感銘を受け,これをBに
伝えた経緯」との記載より推測)。無論、このような考え方は誤りである)。

現行法上、「発明者」とはどのような者であるかについての明文の規定はないが、学説上は、
当該発明の創作行為に現実に加担した者だけを指すとされ、判例でも、当業者が実施できる程度
の具体的な着想をした者とされた例がある。従って、これらに即した発明者を記載すべきである。