侵害差止等請求事件 » 平成26年(ワ)第654号「繰り出し容器」事件

名称:「繰り出し容器」事件
特許権侵害差止等請求事件
知財高裁:判決日27年1月15日、平成26年(ワ)第654号
判決:請求棄却
(前訴:平成23年(ワ)第7407号、平成25年(ネ)10018号)
キーワード:先使用権の抗弁(先使用権の援用)

[概要]
前訴被控訴人を変更して新たに提訴された侵害訴訟において、前訴で認められた先使用権の抗
弁が援用されて請求棄却された事案である。

[争点]
(1)本件訴訟の提起が,訴訟上の信義則に違反する不適法なものかについて
(2)被告容器が,本件特許の構成要件Gを充足するかについて
(3)本件特許発明が,進歩性欠如の無効理由を有するかについて
(4)本件特許発明が,公然実施(29条1項2号)の無効理由を有するかについて
(5)被告容器の販売等が,先願の発明の実施品として,本件特許権の行使を受けないものといえる
かについて
(6)被告が,被告容器につき,本件特許に対する先使用権を有するか。又は日本ロレアルの先使用
権を援用できるかについて

[裁判所の判断]
1.結論
被告容器は,本件特許の構成要件Gを充足し,その技術的範囲に属する(争点(2))が,被告は,
被告容器について,本件特許に対する先使用権を有する(争点(6))から,原告は,被告容器を使
用した被告口紅に対し,本件特許権に基づく権利行使はできないものと判断する。

2.争点(2)(被告容器が,本件特許の構成要件Gを充足するか)について
被告容器の「内側部材」は本件特許訂正発明1の「内筒部(4)」に,「外側部材」は「外筒部
(3)」に当たり,「突状部」は,「内筒部(4)の外壁に設けられた突片部」に当たる。そし
て,当該「突状部」は,被告容器を組み立てた状態で,回転台側に折れ曲がる上,被告容器の分
解後も,それら突状部は水平方向には戻らず,折れ曲がった状態が視覚的に確認できる程度残存
すると認められるから,構成要件Gの求める構成,つまり,突片部(6)の変形が,内筒部(4)
と外筒部(3)の分別後にも,視覚的に確認可能な程度に残存するとの構成を備えており,同構
成要件を充足する。

3.争点(6)(被告が,被告容器につき,本件特許に対する先使用権を有するか。又は日本ロレア
ルの先使用権を援用できるか。)について
被告容器は,本件特許の出願前に公知であった乙5考案の実施品と認められ,被告に先使用権
(特許法79条)が成立する。
<事実経過>
平成17年3月26日:蘇州シャ・シン社とatoo社との提携(覚書:原告発明の使い切り容
器の独占的製造・販売)
平成17年 6月22日:使い切り容器の図面を作成
平成17年 8~10月:台湾シャ・シン社による乙5考案に係る出願(実登3116256号)
平成18年 2月 8日: 試作品第1号→原告、原告が「突状部」について指示(口頭、バイ
ク便)
平成18年 2月14日:蘇州シャ・シン社による本件ランコム図面の作成
平成18年11月24日:蘇州シャ・シン社とatoo社→使い切り容器に係る特許発明につき,
中華人民共和国で独占的に製造することができる旨の契約締結。ただし本件特許発明への言及は
ない。
平成19年 2月 7日:原告は、蘇州シャ・シン社を訪問し「ランコム」用の使い切り容器試
作品の開示を受けた
平成19年 3月 1日:原告は、特許出願(特許4356901号)
原告は、乙5考案の実案についてこの時点では知らない。
平成19年 4月19日:蘇州シャ・シン社は、使い切り容器に係る図面を完成させて原告に電
子メールで送信。他のやりとり。
平成19年 6月22日:原告は、蘇州シャ・シン社から,実用新案登録証の写しを受け取る。
この時、原告は初めて知る。
平成19年7月 :原告と蘇州シャ・シン社とが開発を進めていた使い切り容器は、製品
化の見通しが立たない状況になった。
また、原告は、日本ロレアルの販売する口紅に,平成19同年4月の上記図面の容器が使用さ
れていることを発見
その後、原告は、蘇州シャ・シン社に対し,前訴口紅容器の製造及び販売を中止するよう要請。
平成21年 8月14日:原告の特許権設定登録(特許4356901号)、その後日本ロレアルとの交

平成21年12月:日本ロレアルの取引先に対し警告状送付

<発明の知得経路についての検討>
・P3が平成17年には既にその乙5考案を考案し
・原告からの指示がなくても,前訴口紅容器の構成に至ることのできる技術を,平成17年の段
階で既に持ち合わせていたこと
・平成18年2月までに,乙5考案の技術的範囲に属し,かつ,突片部の位置及び形状が前訴口
紅容器と構成を同じくする本件ランコム図面(乙9)を作成していたこと
・原告が本件特許の出願をしたのは,それらから大幅に遅れる平成19年3月1日であること
・原告から蘇州シャ・シン社に対して突状部の指示があったことを裏付ける客観的証拠はなく,
原告が当該指示のあった日とする平成18年2月8日より後に締結された口紅容器の製造に係る
ライセンス契約においても,本件特許発明への言及はないこと
・平成19年4月における原告と蘇州シャ・シン社との電子メールのやりとりは,前訴口紅容器
や被告容器と同一部位・同一形状の突状部につき,蘇州シャ・シン社が日本で特許権(正確には
実用新案権であった。)を有する旨を説明し,原告もこれを受け入れていると理解され,そのや
りとりから原告の指示が過去にあったとは読み取れず,両者間で過去に話題になった様子さえう
かがわれないこと
・バイク便の伝票(甲28,118)程度で,その内容物も証拠上明らかでなく,客観的裏付け
として十分でないこと
・上記伝票(甲28,118)は,サービスの種類,支払の種別の記載がなく,お問い合わせ番
号の記載も不自然であることに加え,ライダー番号,取扱者氏名,料金など,当該荷物を引き受
けた者が記載すべき箇所の字体も原告の字体と類似しているなど,当日真正に作成されたかどう
か,すなわち,真実そのようなバイク便の利用があったかどうかについて疑念を生じさせる
・原告は,前訴において,当初,蘇州シャ・シン社に突状部の指示をしたのは,本件特許出願を
した平成19年3月1日よりも後のことと主張していたにもかかわらず,蘇州シャ・シン社が同
日よりも前に前訴口紅容器を製造していた旨の日本ロレアルの主張及び裏付け証拠が提出される
や,指示があった日を,原告の主張及び証拠とも矛盾のない平成18年2月8日と大きく変遷さ
せた
・原告の主張によると,原告は,蘇州シャ・シン社から,平成19年2月7日,自身の指示に由
来する突状部も備えた容器試作品を初めて見せられ,それを確認してから同年3月1日に本件特
許の出願をしたとの経過があったというのであるから,本件特許の出願と蘇州シャ・シン社への
指示の時間的前後関係を勘違いすることは起こりにくいはずである。原告は同旨の陳述をしてい
るが,真に記憶に基づく主張,供述をしているか疑わしいと言わざるを得ない

<知得>
フランスロレアル社の子会社で,ロレアルグループの一員である日本ロレアル及びその完全子会
社である被告も,本件口紅の輸入時には,「本件特許出願に係る発明を知らないでその発明をし
た者」であるP3から,前訴口紅容器及び被告容器の突状部に係る発明を「知得」していたと評
価するのが相当である。(なお,先使用権の成否を判断するに当たり,発明の実施者が親会社で
あるか,あるいは,同社が支配する子会社であるかによって結論を左右させることは,特許法7
9条による利害調整の趣旨に沿う解釈とはいえない。)。

[コメント]
本件特許権は無効審判事件において特許維持の審決が確定しているものの、争点(3)(4)
についての判断がなされていないのが残念である。先使用権を認めたことで、公然実施の可能性
も否定できないと思われるが、判決文中の被告・原告主張から公然実施を認定することは難しい
と思われ、他の客観的証拠を示すこと必要であると考える。