侵害差止等請求事件 » 平成26年(ネ)第10051号「ハイドロキシシンナム酸誘導体又はこれを含むトウキ抽出物を含有する痴呆予防及び治療 用の組成物」事件

名称:「ハイドロキシシンナム酸誘導体又はこれを含むトウキ抽出物を含有する痴呆予防及び治療
用の組成物」事件
平成26年(ネ)第10051号 特許権侵害差止請求控訴事件
知的財産高等裁判所第3部
判決日:平成26年10月23日
判決:棄却判決
関連条文:特許法第100条1項
キーワード:食品組成物、包袋禁反言の原則

[概要]
本件発明に係る「組成物」には「食品組成物」が含まれないものであり、被控訴人の健康食品は、
本件発明の技術範囲に属しない。

[本件発明]
A フェルラ酸又はイソフェルラ酸であるハイドロキシシンナム酸誘導体又はこれの薬学的に許
容される塩を痴呆の予防及び治療に有効量で含有する
B 痴呆予防及び治療用の
C 組成物

[被告製品]
被告各製品は,フェルラ酸を含有する栄養補助食品(健康食品・サプリメント)

[控訴人の主張]
被告各製品は,栄養補助食品(健康食品・サプリメント)であるところ,本件明細書等の段落【0
025】には,本件発明がフェルラ酸を含む痴呆予防又は治療の効果を示す食品組成物を提供し,
当該食品には健康食品が含まれる旨の記載があるから,上記栄養補助食品が構成要件Cの「組成
物」に該当することは明らかである。
・本件特許権者は,本件特許の出願経過において,本件発明の構成要件Cの「組成物」から食品
の構成を除外し,又は薬剤に限定するような補正や主張をしていないし,本件発明と独立の関係
にある「食品組成物」に係る他の請求項を削除する補正を行ったものの,本件発明が特許査定さ
れたのはかかる補正を行ったためではない。
・特許庁審査官は,本件発明に係る「組成物」に食品組成物が含まれると考えて審査を行ってお
り,これが医薬組成物のみを指すことを前提に審査された形跡はない。

[裁判所の判断]
控訴人は,特許庁審査官は本件発明に係る「組成物」に食品組成物が含まれると考えて審査を行
っており,これが医薬組成物のみを指すことを前提に審査された形跡はないと主張する。しかし
ながら,仮に,特許庁審査官が,請求項1における「組成物」に医薬組成物のみならず食品組成
物が含まれると理解していたのであれば,請求項1の発明は,本件補正の前後を問わず,「フェル
ラ酸を含有する食品」を含む点で,引用文献2に記載された発明に対して新規性を有しないこと
となるから,本件特許権者に対し,その旨の拒絶理由が通知されることとなるはずである。それ
にもかかわらず,本件特許の審査の過程を通じて,このような拒絶理由が本件特許権者に通知さ
れることがなかったことに照らすと,特許庁審査官が請求項1における「組成物」は食品組成物
を含むものではないと理解していたことは明らかである。
・・・
また、控訴人は,特許庁審査官は前記イ(ウ)の補正後の請求項7の発明が「請求項1の組成物を食
品の形態にしたものであり,請求項1に記載の全ての構成を含んでいる」と記載された本件特許
権者の平成18年12月13日付けの意見書(乙11)を前提に,審査をしたと主張する(同上)。
しかしながら,仮に,上記意見書の記載が,請求項1の「組成物」に食品組成物が含まれるとの
趣旨に解されるものであったとしても,その後,請求項1の発明が引用文献2に記載の発明に対
して新規性を有しない旨の拒絶理由が,特許庁審査官から新たに通知されていないことに照らせ
ば,特許庁審査官は,請求項1の「組成物」が食品組成物を含むとの理解を採用することはなか
ったというべきである。
・・・このような特許庁審査官の理解によれば,請求項7の発明は,「ハイドロキシシンナム酸誘
導体」をさらに「フェルラ酸又はイソフェルラ酸である」と特定するか否かを問わず,「フェルラ
酸を含有する食品」を含む以上,引用文献2に記載された発明に対して新規性を有することはな
い。このことは,現に上記のとおりの特定がされた上記補正後の請求項8の発明を含めて,引用
文献2に記載された発明との関係で新規性がないとの拒絶理由が示されていたこと(乙13)か
らも明らかである。
この点,控訴人は,本件特許に係る発明が,フェルラ酸やイソフェルラ酸がβアミロイドの脳内
蓄積による神経損傷を防止するとの作用機序に着目してなされた発明であると指摘する(同上)。
しかし,かかる作用機序が,引用文献2(乙28)に記載された,フェルラ酸を含有すると認め
られるトウキのアルコール抽出物の活性酸素除去作用とは異なるものであるとしても,痴呆の予
防及び治療の目的が食品としての新たな用途を提供するものとはいえない以上,これに関わるこ
のような作用機序の相違をもって,「フェルラ酸を含有する食品」に係る発明が引用文献2に記載
された発明に対して新規性を有することとなるものではない。

これらの事情に加え,控訴人が,本件補正に係る補正事項の説明において,「拒絶査定において,
本願請求項7-12に係る発明は,引用文献6(判決注・引用文献2を指す。)に記載された発明
であると認定された。このご認定に対し,手続補正書において,請求項7-12を削除したので,
当該拒絶の理由は解消されたと思料する。」と記載し(乙16),前記イの発明が引用文献2に記
載の発明に対して新規性を有しないとの特許庁審査官の認定判断を前提に,上記各請求項の削除
によってかかる拒絶理由が解消されたと述べていることに照らせば,本件特許権者は,本件特許
に関して,食品組成物としての発明について特許を取得することを断念する趣旨で本件補正を行
ったと解するのが相当であり,これを踏まえ,本件特許について特許査定がされたと認められる。
よって,控訴人の上記主張は採用することができない。なお,控訴人がその他縷々主張する点は,
いずれも,前記イ,ウ及び上記の認定判断を左右するものではない。

[コメント]
食品分野の用途発明は、医療分野や化粧品分野と異なり、公知の食品と区別できるような新た
な用途を提供することはない、と判断され、新規性がないとして特許を受ことができない(審査
基準第 II 部 第2章1.5.2)。このような現行の審査基準の下においては、機能性食品のよ
うな、新規な生体調整機能の発見に基づく食品の発明については、方法のクレームとして記載す
れば産業上利用可能性を否定され、物のクレームとして記載すれば新規性を否定される状況にあ
り、例えば、その用途発明を「~用剤」と記載し、医療用途発明として特許を受ける等がなされ
ている。機能性食品が多く流通する昨今、機能性食品においては用途クレームが認められても良
いのでは、と感じる。