IP case studies判例研究

平成25年(ワ)6185号「アクセス制御システム」事件

名称:「アクセス制御システム」事件
損害賠償請求事件
大阪地方裁判所:平成 25 年(ワ)6185 号 判決日:平成 26 年 9 月 4 日
判決:請求棄却(非侵害)
特許法第70条
キーワード:技術的範囲
[概要]
発明の名称を「アクセス制御システム」とする特許第 5211401 号の特許権者である原告が、
被告に対して損害賠償を請求した事案。
[本件特許発明1]
A ユーザにより操作されるユーザ端末の操作によりネットワークを介して特定の者同士が
コンタクトを取る際に用いるアクセス制御システムであって,
B 所定の地理的エリア内にいる者によるコンタクト可能状態にするための同意がとれたこ
とを確認するための確認手段と,
C コンタクトを取るためのコンタクト用共有ページへのアクセス要求を受付けるアクセス
要求受付手段と,
D 前記アクセス要求受付手段によりアクセス要求が受付けられたときに,前記確認手段に
よる同意がとれたことの確認が行なわれたことを条件に,同意した者同士がコンタクト
を取るためのコンタクト用共有ページへのアクセスを許容するためのアクセス制御手段
と,
E を備えた,アクセス制御システム。
[争点]
争点1 被告物件が,構成要件Bを充足するか
争点2 被告物件が,構成要件Cを充足するか
争点3 被告物件が,構成要件Dを充足するか
争点4・5 省略(無効論)
※以下、争点1のみ記載し、その他の争点については省略する。
[原告の主張]
原告は、構成要件Bの「同意」について、以下の2つの解釈がされたとしても、被告物件
が構成要件Bを充足すると主張した。
1.友人申請の承認が,構成要件Bの「同意」にあたる
2.「一緒にボタンを押す」のボタンを押すことが,構成要件Bの「同意」にあたる
[被告の主張]
(省略)
[裁判所の判断]
1.「コンタクト可能状態」について
・・・構成要件Bにおける「コンタクト可能状態」とは,メールアドレス等の個人情報を
交換せず,これを交換したのと同様に,利用者と相手方が連絡可能となる状態をいうものと
解せられる。
前記前提事実(5)によれば,被告物件においては,利用者が他の利用者に友人申請を送信し,
受信した利用者がこれを承認(友人申請承認)してはじめて,両者はコミュニケーションを
取ることができるようになるのであり,友人申請が承認される以前は,被告物件を利用して
連絡を取ることはできないのであるから,友人申請の承認が完了した状態が「コンタクト可
能状態」に該当すると解される。
2.コンタクト可能状態にするための「同意」について
・・・構成要件Bにおいて「同意」の対象となるのは,上記意味における「コンタクト可
能状態にすること」であり,構成要件Dにも,「前記確認手段による同意が取れたことの確認」
が含まれていることを考慮すると,被告物件における友人申請に対する承認が,構成要件B
の「同意」に該当するというべきである。
3.地理的情報の利用と,同意が取れたことの確認の時間的関係について
・・・原告は,地理的情報の利用時期が,最終的な同意確認前である場合も含まれると主
張し,その根拠として,本件明細書中の【0129】,【0130】に,そのような構成が開
示されていると主張する。しかし,明細書の記載が,直ちに特許請求の範囲の文言の意味内
容に影響を与えるものではないし,当該段落の記載は,むしろ,あらかじめ利用者の過去の
地理的位置に関する情報を登録し,コンタクトの申出の際に,登録した地理的位置と時間に
合致する相手を検索するというのであるから,コンタクト可能状態とするための同意の際に,
地理的情報を利用するものであることが示唆されており,この点からしても,原告の主張す
る解釈が導かれるとはいえない。
構成要件Bは,所定の地理的エリア内に「いる」者による同意をその構成要件とし,「所定
の地理的エリア内にいる者によるコンタクト可能状態にするための同意」を一体の要件とし
て定めているのであるから,その確認も一体のものとしてなされることが予定されていると
いうべきであり,地理的エリア内にいることと,コンタクト可能状態にするための同意とを
分断し,所定の地理的エリア内に「いた」者について,その後に,コンタクト可能状態にす
るための同意のみを確認する構成は含んでいないと解するのが相当である。
・・・以上を総合すると,被告物件の利用者らが「一緒にボタンを押す」ボタンを押し,
付近にいる者が「一緒にいる人一覧」に検索・表示される段階では,地理的情報の利用はあ
るものの,「コンタクト可能状態にするための同意」の確認はされず,他方,利用者の友人申
請を他の利用者が承認する際には,「コンタクト可能状態にするための同意」はあるものの,
「所定の地理的エリア内にいる」ことの確認はされない。
したがって,被告物件は,「所定の地理的エリア内にいる者によるコンタクト可能状態にす
るための同意がとれたことを確認するための確認手段」であるとの,構成要件Bを充足しな
い。
[コメント]
本件においては、原告がクレームの「同意」という文言について、2つの解釈を展開し、
何れの解釈においても、被告物件が構成要件Bを充足すると主張した。
なぜ、このような主張をしたか真意は分からないが、出願当初において、被告物件のよう
な構成を予期していなかったことが理由であれば、仕方ないのかもしれない。
結果論ではあるが、出願当初において、被告物件のような構成を予期していたのであれば、
クレームや明細書の記載をもう少し工夫するべきであった。

平成25年(ワ)6185号「アクセス制御システム」事件

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