侵害差止等請求事件 » 平成24年(ワ)第10746号「プロジェクションナットの供給方法とその装置」事件

名称 :「プロジェクションナットの供給方法とその装置」事件
侵害差止等請求事件
大阪地裁:判決日26年7月24日、平成24年(ワ)第10746号
判決 :請求棄却
キーワード:被告製品を示す証拠の疑義

[概要]
被告製品と認めることができず、構成要件Eに相当する構成を備えていないため技術的範囲
に属さないと判断されて請求棄却された事案である。

[訂正審決で訂正された請求項2の文説]
A 円形のボウルに振動を与えてプロジェクションナットを送出するパーツフィーダと
B このパーツフィーダからのプロジェクションナットをストッパ面に当てて所定位置に停
止させ,
C その後,供給ロッドのガイドロッドをプロジェクションナットのねじ孔内へ串刺し状に貫
通させてプロジェクションナットを目的箇所へ供給する形式のものにおいて,
D 正規寸法よりも大きいプロジェクションナットを排除し正規寸法あるいはそれ以下のプ
ロジェクションナットを通過させる計測手段をパーツフィーダの送出通路に設置し,
E ストッパ面に位置決めされた正規寸法よりも小さいプロジェクションナットを供給ロッ
ドの進出時にその先端部で弾き飛ばすガイドロッドの外径は正規寸法のプロジェクションナ
ットのねじ孔の内径よりもわずかに小さく設定されていると共に正規寸法よりも小さいプロ
ジェクションナットのねじ孔の内径よりも大きく設定されている
F ことを特徴とするプロジェクションナットの供給装置。

[争点]
(1)被告製品が本特許発明の技術的範囲に属するか
裁判所で判断されていないため、争点(2)~(4)は省略。

[原告の主張]
被告製品の構成eは,構成要件Eに相当し,被告製品は,構成要件Eを充足する。
被告製品が,「正規寸法よりも小さいプロジェクションナットを供給ロッドの進出時にそ
の先端部で弾き飛ばす」ことについては,次のとおりである。
ア 「弾き飛ばす」の意義
被告製品において,正規寸法より小さいナットが「はねて,空中を移動する」場合もあれ
ば,ガイドロッドの前進が途中で停止し,ナットがヒンジカバーとジェットピンに挟まれた
ロック状態となる場合もあり得る。そして,これらを区別して解釈しなければならない理由
は,本件明細書には存在しない。 したがって,「弾き飛ばす」とは,「ガイドロッドの先端
部がプロジェクションナットの上面に当たった結果,プロジェクションナットが串刺しにさ
れず,目的箇所に供給されなくなること」をいう。
イ 仮に,ガイドロッドの前進が途中で停止し,ナットがヒンジカバーとジェットピンに挟
まれたロック状態となる場合が「弾き飛ばす」に該当しないとしても,次のとおり,被告製
品は,「弾き飛ばす」構成を有しており,構成要件Eを充足する。
(ア)M6ナットにM5ナットが混入した場合,ロッドの進出時にジェットピンの先端部分
でM5ナットを弾き飛ばすから,平成12年製品は,構成要件Eを充足する。
(イ)M8ナットにM6ナットが混入した場合,正規寸法よりも小さいM6ナットは,ガイ
ドロッドの進出時にジェットピンの先端部で弾き飛ばされるから,平成17年製品は,構成
要件Eを充足する。
(ウ)平成24年製品の事実実験では「正規寸法よりも小さなプロジェクションナット」を
用いたものであるとは証明されていない。また,ナットが進出する速度と,ジェットピンの
前進速度とを調整することにより,フランジ部分に次のナットが引っ掛からないようにする
ことは可能である。被告による事実実験の結果から,「正規寸法よりも小さなプロジェクシ
ョンナット」一般において同様の結果が生じるとの結論を導くことはできない。また,スピ
ンドル及びノーズピンは消耗品であり,平成24年製品や平成15年製品のそれらは交換さ
れている疑いがある。したがって,平成24年製品及び平成15年製品についての実験結果
から,被告製品の構成を認定することはできない。

[被告の主張]
被告による被告製品の構成。
a マグネットホルダーの磁石の磁力によってプロジェクションナットを吸着して送出する
選別機を備え,
b この選別機からのプロジェクションナットを供給ホースによって供給ユニットの先端ブ
ロックの底面に当てて所定位置に停止させ,
c その後,供給ユニットのロッド先端のジェットピンをプロジェクションナットのねじ孔内
に貫通させてプロジェクションナットを目的箇所へ供給する形式のものにおいて,
d 選別機に設置した選別片により裏返ったプロジェクションナットを排除して正姿勢のプ
ロジェクションナットだけを通過させる選別片を選別機に設置し,
e ジェットピンの外径(4.64㎜)は正規寸法であるM6のプロジェクションナットのね
じ孔の内径よりも小さく設定されていると共に正規寸法よりも小さなプロジェクションナッ
ト(M5)のねじ孔の内径よりも大きく設定されている
f ことを特徴とするプロジェクションナットの供給装置

(4)被告製品では,プロジェクションナットがヒンジカバーとジェットピンとに挟まれた
状態となり,正規寸法より小さいナットを「弾き飛ばす」とはいえず,被告製品の供給ユニ
ットは「供給ロッドの進出時にその先端部で弾き飛ばすガイドロッド」を備えていないから,
被告製品は構成要件Eを充足しない。
ア 「弾き飛ばす」の意義
構成要件Eの「弾き飛ばす」とは,「確実にはねて,空中を移動する」と解釈されるべき
である。
イ 平成12年製品は,原告らが勝手に,被告製品を改造し,あるいは被告製品を模して製
作した模造品である疑いが強い。
ウ 弁護士法23条の2第2項による照会に対し,平成17年製品を現在保有している●●
●●の担当者がどのような状態を「弾き飛ばす」に該当すると理解して回答したか,そのほ
かの者が改造,修理,部品の交換を行っていないかが不明である。
エ 事実実験を実施したところ,供給ユニットのロッドが前進を開始しても,その前進が途
中で停止し,M5ナットがヒンジカバーとジェットピンで挟まれるロック状態となり,プロ
ジェクションナットが「はねて」もいないし,「空中を移動」してもいないことが確認され
た。 平成24年製品も平成15年製品も,被告が製造した後,修理,改造及び部品交換は行
っていない。平成15年製品のガイドロッドの進出速度は,平成24年製品とほぼ同じであ
る。被告製品は,平成15年の時点においても平成24年の時点においても,その機構に変
わりはない。 したがって,被告製品は,構成要件Eの「弾き飛ばす」ことをしておらず,構
成要件Eを充足しない。

[裁判所の判断]
被告製品が本件特許発明の構成要件Eに相当する構成を備えていると認めるに足りる証拠
はなく,被告製品は,本件特許発明の技術的範囲に属するものとはいえない。

1 「弾き飛ばす」の意義
「弾き飛ばす」とは,供給ロッドのガイドロッドが,その進出時に,ストッパ面に当たっ
て所定位置に停止した正規寸法よりも小さいプロジェクションナットのねじ孔内へ串刺し状
に貫通せずに,ガイドロッドの先端部を当該ナットの上面やねじ孔の角部に当てて,当該ナ
ットをはねて,空中を移動させて落下させることによって,当該ナットを排除するという動
きを意味すると解される。 正規寸法よりも小さいプロジェクションナットが,ヒンジカバー
とジェットピンで挟まれ,停止したままの状態(ロック状態)は,当該ナットを排除してい
るわけでなく,「弾き飛ばす」とはいえない。

2 被告製品の構成及び構成要件充足性
現在の平成12年製品と平成17年製品が,製造当時のものと同じ構成であると認めるこ
とはできず,被告製品が,本件特許発明の構成要件を充足するとの原告らの主張を認めるこ
とはできない。
(1)平成12年製品
平成12年製品は,正規寸法よりも小さいプロジェクションナットを弾き飛ばす構成を備
えているが,ジェットピンの形状が被告製品のものとはいえず,平成12年製品によって,
被告製品の構成を認定することはできない。

ア 平成12年製品の構成(プロジェクションナットを弾き飛ばすこと)

イ 平成24年製品及び平成15年製品の構成(プロジェクションナットを弾き飛ばさない
こと)

ウ ジェットピンの形状の比較
平成12年製品のジェットピンのフランジ部分の角がなだらかなテーパー状になっている
のに対し,平成24年製品及び平成15年製品のジェットピンのフランジ部分の角が直角に
なっている。加えて,平成11年に製造されたNUT FEEDER(製造番号M6-98,型式NS
-ARF)も,ジェットピンのフランジ部分の角が直角になっている(乙33の1・2)。 以
上によると,むしろ,被告製品のジェットピンの形状は,一貫して,フランジ部分の角が直
角になっていることが認められる。
また、平成12年製品を保有する●●●●の担当者による平成25年10月23日付けの
陳述書(甲20)には,平成12年●●●に平成12年製品を購入した当時,スピンドルの
先端の形状が平成12年製品を撮影した写真のとおりであり,平成20年9月頃に原告会社
に貸与するまでの間,部品の交換,修理,改造をしたことはない旨が記載されている。しか
し,上記の陳述書は,平成12年製品を保有する●●●●の社員から聞き取った内容を記載
したにとどまり(甲24),上記の記載内容によって,当該社員が約13年前に購入した平
成12年製品のジェットピンの形状まで記憶しており,製造された当初から平成12年製品
のジェットピンのフランドル部分がなだらかなテーパー状であったと認めることはできず,
ほかにそのような事実を認めるに足りる証拠はない。

エ プロジェクションナットを弾き飛ばすか否かを決める原因
ジェットピンの形状の違いが,正規寸法よりも小さいナットを弾き飛ばすか否かに違いが
生じる原因となっていると考えられる。
オ ジェットピンの速度が及ぼす影響
速度の違いだけがナットを弾き飛ばす原因であると断定することもできず,ジェットピン
の形状が前記のロック状態の原因であることを否定することはできないというべきである。
仮に,ジェットピンの前進する速度の違いが原因で,ナットを弾き飛ばすか否かの違いが生
じる可能性があるとしても,被告製品において,ジェットピンの前進する速度の設定が,平
成12年製品のものと認めるに足りる証拠はない。むしろ,証拠(乙1)によると,平成2
4年製品のものは,ジェットピンの前進する速度を調整する機構を備えておらず,被告製品
の設定どおりであることが窺える。

カ まとめ
平成12年製品は,ジェットピンが交換され,被告製品が本来備えているはずのジェット
ピンとは異なるジェットピンが取り付けられている疑いがあり,被告製品と認めることはで
きない。したがって,平成12年製品によって,被告製品が正規寸法よりも小さいプロジェ
クションナットを「弾き飛ばす」という構成要件Eに相当する構成を備えていると認めるこ
とはできない。

(2)平成17年製品
弁護士法23条の2第2項による照会に対し,●●●●は,工場内に,・・平成17年製
品(製造番号●●●●●●●,型式NS-ARF)を保有し,供給ホースにM8ナットと共
にM6ナットを混入した場合,M6ナットは,供給ユニットのロッドの進出時に,ジェット
ピンの先端部で弾き飛ばされる旨回答している(甲25の1・2)。
しかし●●●●は,M6ナットを混入した場合,供給ユニットのロッドの前進が途中で停
止し,M6ナットがヒンジカバーとジェットピンに挟まれたロック状態になることが「あり
ます。(一瞬ですが)」と回答しており,ロック状態が生ずるとも読み取れる。また,回答
書のみでは,●●●●の工場内にあるプロジェクションナット供給装置,特に,ジェットピ
ンがどのような形状をしているか,あるいはどのような状況で供給装置を作動させたかは明
らかではない。したがって,平成17年製品によって,被告製品が正規寸法よりも小さいプ
ロジェクションナットを弾き飛ばすという構成要件Eに相当する構成を備えていると認める
ことはできない。

[コメント]
被告から離れて第三者が保有し使用されている被告製品の使用実態を特定することは、原
告および被告ともに非常に困難である。本事案において、裁判所は、原告提出の陳述書(第
三者)よりも、被告提出の証拠物件の方を採用している。陳述書の証拠力を直接的に否定す
るものではなかったが、その陳述を裏付ける証拠について言及しているため、今後の実務に
おいて留意すべきと考える。