侵害差止等請求事件 » 平成25年(ネ)10069号「ソレノイド駆動ポンプの制御回路」事件

名称:「ソレノイド駆動ポンプの制御回路」事件
特許権侵害差止等請求事件
知的財産高等裁判所:平成 25 年(ネ)10069 号 判決日:平成 26 年 5 月 29 日
判決:請求棄却(非侵害)
特許法29条2項
キーワード:進歩性

[概要]
控訴人(原審・原告)は、発明の名称を「ソレノイド駆動ポンプの制御回路」とする特許
第 4312941 号及び特許第 4716522 号の特許権者である。
控訴人(原審・原告)が被控訴人(原審・被告)に対し差止等を請求し、原審は、上記各
特許はいずれも特許無効審判により無効にされるべきものと認められるから、控訴人の請求
を棄却したことから、控訴人(原審・原告)が控訴した事案。

[本件訂正発明1(特許第 4312941 号の訂正後の請求項1)]
A1’ ソレノイド駆動ポンプのポンプを駆動するソレノイド8に,時間が一定で且つ周期的に
発生される駆動パルスに応じて駆動電圧を周期的に供給して,該ソレノイド8を駆動する駆動回
路7と,
B1’ 90~264Vの間で電圧が異なる複数の交流電圧の電源1のうちの任意の交流電圧の
電源1から整流されて駆動回路7に提供される直流電圧を分圧して検出する検出手段5と,
C1’ 該検出手段5で検出した直流電圧を一種の制御回路に対応した所望の直流電圧と比較し,
且つ駆動回路7に提供された直流電圧を所望の直流電圧に変換すべく該駆動回路7に制御信号を
供給する演算処理部6とを具備し,
D1’ 電源1の電圧に関わりなく前記所望の直流電圧を駆動電圧としてソレノイド8に供給す
るソレノイド駆動ポンプの制御回路であって,
E1’ 前記制御信号は,駆動回路7に提供される直流電圧をスイッチングし,前記駆動パルス
内におけるオン・オフのデューティを制御する信号であることを特徴とする
F1’ ソレノイド駆動ポンプの制御回路。
※下線部は、訂正箇所を示す。
※本件訂正発明2(特許第 4716522 号の訂正後の請求項1)は省略する。

[争点]
争点5-1 本件各訂正発明における無効理由解消の有無(乙28文献)
※その他の争点については、省略する。

[裁判所の判断]
控訴人は,本件各訂正発明と乙28発明とを対比すると,本件各訂正によって新たに相違点A
ないしCが生じ,これら相違点に想到することは容易ではないから,・・・本件各訂正によって,
本件各特許について乙28文献に基づく無効理由は解消されたといえる旨主張する。しかし,次
のとおり,相違点A及びBは,本件各訂正によって新たに生じたものとは認められず,また,相
違点Cは,実質的な相違点であるとは認められない。

ア 相違点Aについて
控訴人は,本件各特許発明の構成要件A1,A2をそれぞれA1’,A2’と訂正することによ
り,本件各訂正発明が制御対象とするソレノイド駆動ポンプは,吐出量の「定量性」が絶対的に
要求される定量ポンプであって,時間が一定で且つ周期的に発生される駆動パルスに応じた駆動
電圧を周期的にソレノイド8に供給することによってポンプを駆動するソレノイド駆動ポンプで
あることになるとして,本件各訂正によって新たに相違点A,すなわち,本件各訂正発明が,吐
出量の「定量性」が絶対的に要求される定量ポンプであって,時間が一定で且つ周期的に発生さ
れる駆動パルスに応じた駆動電圧を周期的にソレノイド8に供給することによってポンプを駆動
するソレノイド駆動ポンプであるのに対し,乙28発明は,種類も特性も明らかでない(つまり,
吐出量の「定量性」に関係ない)燃料ポンプであるとの相違点が生じたと主張する。
しかし,本件各特許発明の構成要件A1,A2に関する訂正事項は,訂正前の「ソレノイド駆
動ポンプのソレノイド8に駆動電圧を供給して,該ソレノイド8を駆動する駆動回路7と,」を,
訂正後の「ソレノイド駆動ポンプのポンプを駆動するソレノイド8に,時間が一定で且つ周期的
に発生される駆動パルスに応じて駆動電圧を周期的に供給して,該ソレノイド8を駆動する駆動
回路7と,」とするものである。これら訂正事項は,ソレノイド駆動ポンプのソレノイドが,ポン
プを駆動するものであることを明確にした上で,ソレノイドの駆動電圧が,時間が一定で且つ周
期的に発生される駆動パルスに応じて供給されるものに限定したものにすぎず,これらの訂正事
項により,本件各訂正発明の「ソレノイド駆動ポンプ」が,「吐出量の「定量性」が絶対的に要求
される定量ポンプ」になる理由があるとは認められない。
したがって,本件各訂正発明と乙28発明とを対比すると,本件各訂正により新たに相違点A
が生じるとする控訴人の上記主張を採用することはできない。

イ 相違点Bについて
省略

ウ 相違点Cについて
省略

以上のとおり,控訴人の主張する相違点A及びBは,本件各訂正によって新たに生じたものと
は認められず,また,相違点Cは,実質的な相違点であるとは認められない。
そうすると,本件各特許発明が乙28発明及び周知慣用技術に基づいて当業者が容易に発明を
することができたものである以上,本件各訂正発明もまた,乙28発明及び周知慣用技術に基づ
いて当業者が容易に発明をすることができたものであることは明らかであり,本件各訂正により
本件各特許の無効理由が解消されたものとは認められない。

以上のとおり,本件各特許発明はいずれも進歩性を欠如しており,また,本件各訂正によって
も,本件各訂正発明がいずれも進歩性を欠如していることに変わりはないから,本件各特許はい
ずれも特許無効審判により無効にされるべきものと認められ,控訴人は,本件各特許権に基づく
権利を行使することはできない。

[コメント]
本件においては、クレームに記載された発明は、原告が主張したような明細書に記載され
ていない効果を奏するとは認められず、その結果、当該発明の進歩性は、否定された。
明細書を作成する上では、発明者等からのヒアリングを充分に行い、隠れた作用効果等を
抽出し、明細書に十分反映させておく必要がある。それは、特許を受ける上でも重要である。
なお、審査基準においては、『明細書に引用発明と比較した有利な効果が記載されているとき、
及び引用発明と比較した有利な効果は明記されていないが明細書又は図面の記載から当業者がそ
の引用発明と比較した有利な効果を推論できるときは、意見書等において主張・立証(例えば実
験結果)された効果を参酌する。しかし、明細書に記載されてなく、かつ、明細書又は図面の記
載から当業者が推論できない意見書等で主張・立証された効果は参酌すべきでない。』(第 2 章 2.5
⑶ ② 参照)という記載ある。