侵害差止等請求事件 » 平成25年(ネ)10017号、第10041号「ロータリー式撹拌機用パドル」事件

名称:「ロータリー式撹拌機用パドル」事件

特許権侵害差止請求控訴事件

知的財産高等裁判所第2部:平成25年(ネ)10017号、第10041号    判決日:平成26年3月26日

判決:一部認容

キーワード:特許法70条、技術的範囲、文言侵害、均等侵害

 

[概要]

被控訴人製品(ロ号装置)につき、本件訂正発明2の文言侵害はないが、均等侵害が成立した事例。(他の争点は省略)

 

[特許請求の範囲]

【請求項1】

・・・(前半略)・・・

前記ロータリー式攪拌機用のパドルであって,長杆の先端に,2枚の板状の掬い上げ部材を前後に且つ前後方向に対し傾斜させて配置し,その前側の傾斜板の外面は斜め1側前方を向き,その後側の傾斜板の外面は斜め1側後方を向くように配向せしめて配設したことを特徴とするパドル。

【請求項2】

A2 有機質廃物を経時的に投入堆積発酵処理する長尺広幅の面域の長さ方向の1側に長尺壁を設け,

B2 その他側は長尺壁のない長尺開放側面として成る大容積のオープン式発酵槽を構成すると共に,

C2 該長尺壁の上端面にレールを敷設し,該レール上と該長尺開放側面側の面域上を転動走行する車輪を配設されて具備すると共に

D2 堆積物を往復動撹拌する正,逆回転自在のロータリー式撹拌機を横設した台車を該オープン式発酵槽の長さ方向に往復動走行自在に設け,

E2 更に該ロータリー式撹拌機は,該台車の幅方向に水平に延びる回転軸と,該回転軸の周面に且つその軸方向に配設された多数本の長杆の先端に板状の掬い上げ部材を具備するパドルとから成るオープン式発酵処理装置において,

F2 これらのパドルのうち,該オープン式発酵槽の該長尺開放側面側に位置する該回転軸の外端から少なくとも1本乃至数本のパドルは,該長杆の先端に,前後一対の板状の掬い上げ部材が夫々台車の走行方向に対し斜めに交叉し且つ内側に向けられて配設された請求項1に記載のパドルからなり,

G2 その他の残る各パドルは,長杆の先端に,該台車の走行方向に対し直交して板状の掬い上げ部材を取り付けた通常のパドルから成ること
H2 を特徴とするオープン式発酵処理装置。

 

[争点](抜粋)

(1)本件訂正発明2の文言侵害の成否(ロ号装置が構成要件C2及びF2を充足するか。)

(2)本件訂正発明2の均等侵害の成否(構成要件F2)

 

[裁判所の判断]

(判断1)構成要件F2を文言上充足しない。

(判断2)本件訂正発明2と均等なものとしてその技術的範囲に属すると認められる。

(争点1)

原告日環エンジニアリングは,本件訂正発明2のV字型掬い上げ部材における「2枚の板状の部材を傾斜させて配置」するという技術的事項は,①掬い上げ部材は,往動時の放散を防ぐための部分(2枚の板状の部材の一方)と,復動時の放散を防ぐための部材(2枚の板状の部材の他方)とを備え,しかも,両部分は互いに対称的な配置あるいは構成であること,②「傾斜」は放散を防止するための傾斜であり,その傾斜角度は,特定の傾斜角度でなければならないというものではないこと,という2つの技術的意義を有するところ,この側面からすれば,ロ号装置の掬い上げ部材105dは,これらの技術的意義のいずれも充足しており,・・・

上記主張は,本件訂正発明2の特許請求の範囲に記載された発明特定事項に基づくものではなく,技術的意義を考慮するという観点から実質的にはこれを拡張するものであるから,採用することはできない。

(争点2)

本件訂正発明2のV字型掬い上げ部材が「2枚の板状の部材を傾斜させて配置されるもの」であるのに対し,ロ号装置の掬い上げ部材105dは,「半円弧状の形状を有する1枚の部材から構成されたもの」である点が相違することになる。

(1) 本質的部分について

パドルの掬い上げ部材により,往動走行時にはその前側の傾斜板により,復動走行時には,その後側の傾斜板により,常にそれぞれ対応する前方の堆積物を内側に向け掬い上げることができ,堆積物の外側への掬い上げ時の拡散,崩れなどの不都合を解消でき,・・・との効果を奏するものである。

(掬い上げ部材について)

「掬い上げ部材5c1及び5c2の傾斜角度は,・・・20°傾斜せしめたものを示したが,一般に10°~80°の範囲が採用できる。」(段落【0015】)と記載されているから,回転軸5aの中心軸線に対して10°~80°の傾斜があれば足り,その傾斜角は一定でなければならないものではない。

「,「本発明のパドルの変形例として,図5に示すようなパドル5b″に構成しても良
い。・・・」(段落【0006】)との記載もあり,必ずしもV字状の掬い上げ部材に限られるものではないことが明らかである。

「また,その本発明のパドル5b′の夫々の傾斜板5c1及び5C2は長矩形状とし,同一形状,寸法であることが一般・・・これに限定する必要はない。また,その各傾斜板5c1及び5C2の長さ又は高さ寸法は所望に設定される。」(段落【0009】)

堆積物を掬い上げるための形状も,平面な「板状」に限られるものではない。

(特徴的部分について)

堆積物の外側への掬い上げ時の拡散,崩れなどの不都合を解消するために,前後一対の板状の掬い上げ部材が,それぞれ回転軸の軸方向に対し所定角度内側(オープン式発酵槽の長尺壁の方向)を向くようにし,掬い上げ部材の内側に向いて傾斜した部材の外側が,その前方に堆積する堆積物の長尺開放面側の外端堆積部に当接し,斜め内側に向けてこれを掬い上げるよう,傾斜板を所定角度内側に向けて配置したこと・・が特徴的部分である。

・・・掬い上げ部材が前後の両方向に傾斜されて配置されるとの構成も,本件訂正発明2を基礎付ける特徴的部分である。

本件訂正明細書2には,掬い上げ部材が2枚であることの技術的意義は,何ら記載されておらず,傾斜板の外面が正又は逆回転時のそれぞれにおいて,外端堆積部に当接することが重要であるから,本件発明2の掬い上げ部材が2枚で構成されることに格別の技術的意義があるとはいえず,・・・2枚の部材を直接溶接してV字状を形成することと,1枚の部材を折曲してV字状を形成することとの間に技術的相違はないから,この点は本質的部分であるとはいえない。・・・前後に傾斜させる角度が,回転軸5aの中心軸線に対して10°~80°の角度であればよく,・・・平面な板状に限定されず,外端堆積部に当接して内側に掬い上げることができればよいことに照らすと,掬い上げ部材が,平面な板状で構成されていることも,本質的部分であるとはいえない。

そうすると,本件訂正発明2のV字型掬い上げ部材が「2枚の板状の部材を傾斜させて配置されるもの」に対し,ロ号装置の掬い上げ部材105dは,「半円弧状の形状を有する1枚の部材から構成されたもの」であるとの相違点は,本質的部分に係るものであるということはできない。

(2) 置換可能性について

ロ号装置は、・・・往復動走行に伴って正又は逆回転する場合のいずれであっても,外端堆積部に当接する側の1/4円弧状部分の外面が作用して,堆積物に当接して堆積物を常に内側(長尺壁側)に向かって掬い上げることができるものであり,被告が認めるとおり,堆積部に半円弧状部の外側が当接し,長尺壁の側に堆肥を寄せ,レールへの堆肥の崩れ落ちを避けるという効果を有する。本件訂正発明2と同様に,堆積物の外側への掬い上げ時の拡散,崩れなどの不都合を解消するものである。

(3) 置換容易性について

ロ号装置の掬い上げ部材が1枚の半円弧状である点で相違するものである。そして,前
記のとおり,掬い上げ部材が2枚であることに格別の技術的意義があるともいえない。そうすると,本件訂正明細書2に開示される2枚の板状の部材を溶接してV字型を構成する実施例に直面した当業者において,1枚の部材を折り曲げて構成することは容易に着想することであり,さらに,本件訂正発明2における掬い上げ部材の傾斜角度が広範なものであることに照らせば,1枚の板を折り曲げて湾曲させ,V字状あるいは逆への字状等に代えて半円弧状とすることも,当業者であれば,必要に応じて適宜なし得る設計変更にすぎない。