侵害差止等請求事件 » 平成24年(ワ)8071号「薬剤分包用ロールペーパ」事件

名称:「薬剤分包用ロールペーパ」事件
特許権侵害差止等請求事件
大阪地方裁判所:平成 24 年(ワ)8071 号 判決日:平成 26 年 1 月 16 日
判決:請求認容
特許法102条2項、3項
キーワード:特許権の消尽

[概要]
特許権は消尽しているとの被告の主張が退けられて、原告の有する特許権に基いて差止等
が認められた事案。

[裁判所の判断]
2 争点2-1(原告製品の芯管に関する譲渡の有無等)について

(1)特許権の消尽
特許権者又は実施権者が我が国の国内において特許製品を譲渡した場合には,当該特許製
品については特許権はその目的を達成したものとして消尽し,もはや特許権の効力は,当該
特許製品を使用し,譲渡し又は貸し渡す行為等には及ばない(最高裁判所平成9年7月1日
第三小法廷判決・民集51巻6号2299頁参照)。

(2)認定事実
ア 原告は,原告装置を販売するに際し,関連会社又は代理店の従業員を介し,顧客に対し,
① 原告製品の芯管は分包紙を使い切るまでの間無償で貸与するものであること,② 使用後
は芯管を回収すること,③ 第三者に対する芯管の譲渡,貸与等は禁止することを説明してお
り,顧客も,このことについて承諾の意思表示をしている。

イ 原告は,原告製品の芯管の円周側面,外装の上端面及び側面,原告製品を梱包する梱包箱
の表面にも,上記①から③までと同じ内容の記載をしている。

また,原告装置の製品紹介をする原告のウェブサイト及びカタログにも同旨の記載をして
いる。

原告は,原告製品の芯管が顧客から返却された場合にポイントを付与し,ポイントが一定
数に達すれば景品と交換するサービスを実施しているところ,当該サービスの広告にも同旨
の記載をしている。

ウ 原告による原告製品の芯管の回収率は,平成22年には97.4%であり,平成23年に
は97.7%であり,平成24年(1月~8月)には97.3%である。

(3)検討
前記(2)のとおり,原告は,原告装置を販売する際に,顧客との間で,原告製品の芯管
について無償で貸与するものであり,その所有権を原告に留保する旨の合意をしていること,
原告製品自体やその梱包材,広告等においても芯管の所有権が原告にあることを明記してい
ることが認められる。また,実際に,最近3年間で約97%もの原告製品の芯管を回収して
いることから,最終的な顧客である病院や薬局だけでなく,卸売業者も含め,これらの表示
を十分に認識していることが認められる。

これらのことからすれば,原告が,顧客に対し,原告製品の分包紙を譲渡したことは認め
られるものの,原告製品の芯管を譲渡しているとまでは認めがたいというべきである(原告
製品は芯管と分包紙に分けることができ,原告は,芯管に巻いた分包紙のみを譲渡し,芯管
については,所有権を留保し,使用貸借をしていると認めるのが相当である。)。

そうすると,原告製品のうち分包紙は顧客の下で費消されており,この部分について本件
特許権の消尽は問題とならないし,芯管については消尽の前提を欠いているから,この点に
関する被告の主張には理由がない。

3 争点2-2(被告製品と原告製品の同一性)について
原告製品の芯管に関する譲渡の成否にかかわらず,次のとおり,被告製品と原告製品の同
一性を認めることはできないから,被告製品について本件特許権の消尽を認めることはでき
ない。

(1) 特許製品の新たな製造
特許権者又は特許権者から許諾を受けた実施権者が我が国において譲渡した特許製品につ
き加工や部材の交換がされ,それにより当該特許製品と同一性を欠く特許製品が新たに製造
されたものと認められるときは,特許権者は,その特許製品について,特許権を行使するこ
とが許される。

特許権者又は特許権者から許諾を受けた実施権者が我が国において譲渡した特許製品につ
き加工や部材の交換がされた場合において,当該加工等が特許製品の新たな製造に当たると
して特許権者がその特許製品につき特許権を行使することが許されるといえるかどうかにつ
いては,当該特許製品の属性,特許発明の内容,加工及び部材の交換の態様のほか,取引の
実情等も総合考慮して判断すべきである(最高裁判所平成19年11月8日第一小法廷判
決・民集61巻8号2989頁)。

(2)検討
特許製品の属性としては,分包紙の部分の価値が高く,分包紙を費消した後の芯管自体は
無価値なものであり,分包紙が費消された時点で製品としての本来の効用を終えるものとい
うことができる。芯管の部分が同一であったとしても,分包紙の部分が異なる製品について
は,社会的,経済的見地からみて,同一性を有する製品であるとはいいがたいものというべ
きである。

被告製品の製造において行われる加工及び部材の交換の態様及び取引の実情の観点からみ
ても,使用済みの原告製品の芯管に分包紙を巻き直して製品化する行為は,製品の主要な部
材を交換し,いったん製品としての本来の効用を終えた製品について新たに製品化する行為
であって,かつ,顧客(製品の使用者)には実施することのできない行為であるといえる。

以上によれば,使用済みの原告製品の芯管に分包紙を巻き直して製品化する行為は,製品
としての本来の効用を終えた原告製品について,製品の主要な部材を交換し,新たに製品化
する行為であって,そのような行為を顧客(製品の使用者)が実施することもできない上,
そのようにして製品化された被告製品は,社会的,経済的見地からみて,原告製品と同一性
を有するともいいがたい。これらのことからすると,被告製品は,加工前の原告製品と同一
性を欠く特許製品が新たに製造されたものと認めるのが相当である。被告製品を製品化する
行為が本件特許発明の実施(生産)に当たる旨の原告の主張には理由がある。

[コメント]
裁判所は、「原告製品のうち分包紙は顧客の下で費消されており、この部分について本件特
許権の消尽は問題とならないし、芯管については消尽の前提を欠いている」として、本件に
ついては消尽が問題とならないとした。

その上で、裁判所は、「原告製品の芯管に関する譲渡の成否にかかわらず」、被告製品が、
加工前の原告製品と同一性を欠く特許製品が新たに製造されたものに該当するかについても
さらに検討し、被告製品と原告製品の同一性を認めることはできないから、被告製品につい
て本件特許権の消尽を認めることはできないと判断した。被告製品が特許製品の新たな製造
に当たるかどうかの判断に際し、インクカートリッジ事件で挙げられた「特許製品の属性」、
「加工及び部材の交換の態様」、「取引の実情」の各項目について裁判所が行った当てはめは
参考になる。