侵害差止等請求事件 » 平成24年(ワ)7887号 「サイホン式雨水排水装置」事件

名称:「サイホン式雨水排水装置」事件
特許権侵害差止等請求事件
大阪地方裁判所第26民事部:平成 24 年(ワ)7887 号 判決日:平成 25 年 11 月 5 日
判決:請求棄却
キーワード:特許法70条、技術的範囲、文言侵害、均等侵害、第 4 要件

[概要]
被控訴人製品につき、文言侵害はなく、均等の第4要件(公知技術から容易に推考でき
たものではない)を満たさないとして均等侵害も成立しないとされた事例。

[特許請求の範囲]
【請求項1】(訂正後)枠囲み部は争点
A1 軒先に取付けた軒樋の底部に,
A2 該底部に形成した開口に挿入した落し口を,該落し口を構成する,上端にフランジ部
を設け,外周面に雄ネジを形成した雄筒部と,上端にフランジ部を設け,内周面に雌ネジ
を形成した締付けリングとを螺合させて,軒樋の底部の開口周縁部の上下から前記両フラ
ンジ部により挟持することにより取付け,該落し口の下端に,
B 家屋の外壁材に沿って縦方向に配設した
C 3~13㎠の開口面積を有するサイホン管
D の上端を外嵌して接続した
E ことを特徴とするサイホン式雨水排水装置。

[争点]
(1)文言侵害の成立
被告製品は本件特許発明の構成要件を文言上充足するか。
特に、構成要件Cの「サイホン管」に継手部材を含むか?
(2)均等侵害の成立
被告製品は本件特許発明と均等なものとしてその技術的範囲に属するか。

[裁判所の判断]
(判断1)構成要件のうち少なくとも構成要件Cを文言上充足しない。
(判断2)本件特許発明と均等なものとしてその技術的範囲に属すると認められない。

(1)「構成要件C(サイホン管)」の解釈について
(ア)【特許請求の範囲】の記載に基づく検討
構成要件A2によれば,「サイホン管」と「落し口」の構成は明確に区別された上,「サ
イホン管」は「落し口」を外嵌するとされている。
構成要件Cは,「サイフォン」の効果を奏する「竪樋(縦樋)」の「開いた口」が,3~
13㎠の面積を有する構成を特定するものと一応は解される。

(イ)明細書の記載に基づく検討
構成要件C「3~13㎠の開口面積を有するサイホン管」は,「3~13㎠の開口面積を
有する合成樹脂製の丸樋もしくは角樋,又は,可撓性のチューブ」等を指すものである。

本件明細書等において,サイホン管は継手部分と明確に区別されており,本件特許発明
の課題解決手段であるサイホン管として継手部分を想定した記載は全くなく,継手の開口
面積をもってサイホン管の開口面積とすることは全く想定されていない。

上記「サイホン管」は,継手部材や落し口などを含まない竪樋自体をいい,その開口面
積とは,竪樋自体の開口部の面積をいうのであって,継手部材や落し口等の内径断面積を
含むものではない。

(2)被告製品の構成要件足性
被告製品の角竪樋の開口面積は,いずれも平均14.09㎠であり,誤差を考慮しても1
4.00㎠以上であることが認められる。

そうすると,被告製品は,本件特許発明の構成要件D「3~13㎠の開口面積を有する
サイホン管」に相当する構成を有するものではなく,本件特許発明の構成要件を文言上充
足するということはできない。

(3)均等侵害の成立について
(ア)均等の第4要件(対象製品等が,特許発明の特許出願時における公知技術と同一又
は当業者がこれから上記出願時に容易に推考できたものではないこと)

(イ)被告製品1の構成
1a1 軒樋2は,建物の軒先に略水平に取り付けられる。
1a2 軒樋2には,接続部(落し口)5bを含む角ドレンセット5が配置されている。
軒樋2の底部には,角ドレンセット5の接続部(落し口)5bが,軒樋2の底部に形成し
た開口に挿入され,接続部(落し口)5bを構成する,上端に上フランジ部を設け,外周
面に雄ネジを形成したネジ筒部と,上端に下フランジ部を設け,内周面に雌ネジを形成し
たネジ筒部とを螺合させて,軒樋2の底部の開口周縁部の上下から挟持することにより取
り付けられている。
1b 角竪樋3は,建物の外壁材に沿って縦方向に配置されている。
1c 角竪樋3は,14.09㎠の断面積を有する。角継手4は,長さ19㎜であり,11.
4㎠(端部側)から11.6㎠(奥部側)の断面積を有する。
1d 角ドレンセット5の接続部5bと角継手4が接続している。角継手4と角竪樋3が接
続している。
1e 角ドレンセット5,角継手4及び角竪樋3により,サイホン式雨水排水装置を構成し
ている

(ウ)被告製品の容易推考性
(被告製品の構成1c、2c)
乙5公報によれば・・・上記【図5】で示される従来技術の雨樋においても,落し口の
寸法(雨樋の開口部分の面積)は,要求される処理能力に応じて適宜設定することができ
るものと認められる。

乙15文献等には,本件特許発明の数値範囲に入る開口面積が12.56㎠の竪樋からそ
れ以上の大きさの竪樋まで,様々な開口面積の竪樋が記載されている。

そうすると,被告製品の構成1c及び2cのうち「角竪樋3は,14.09㎠の断面積を
有する。」という部分は,本件優先日における従来技術と同一の構成であることが認められ
る。

(その余の構成の容易推考性)
被告製品の構成のうち1a1及び1b並びに2a1及び2bの構成は,いずれも雨樋一
般に共通する構成である。

乙25の記載によれば,被告製品の構成1a2及び2a2の構成は,本件優先日前にお
ける「従来の自在ドレン」(公知技術)と同一であり,雨樋においても一般的な構成であっ
たことが認められる。

・・・カタログ(乙23,24)によれば,1c及び2cの構成のうち「継手部材の断
面積が竪樋の断面積よりも小さい。」という構成並びに1d及び2dの構成も,雨樋一般に
見られる一般的で,ありふれた構成であったことが認められる。

(結論)
以上によれば,被告製品の各構成は,本件優先日において雨樋の技術分野でごく一般的
であった構成を単に組み合わせたにすぎないものであり,これらごく一般的で公知の構成
を組み合わせることについて何らかの阻害要因等が存在したことを窺わせる主張立証も全
くない。

[コメント]
構成要件Cのサイホン管に関する文言解釈は、特許請求の範囲および明細書の全体に基
づいて判断しており、判断手法及びその結論において妥当である。なお、特許発明では「落
し口の下端にサイホン管の上端を外嵌する」ことも要件であり、被告製品とはこの点も文
言上異なるはずであるが(被告は争っている)、裁判所は判断していない(判断しなかった
という、「その余の点」に含まれるのであろう)。被告製品が公知技術から容易に推考でき
るのであれば、特許発明も容易に推考できるはずでは?と通常は考えるが、この案件は必
ずしもそうとは言えない。文言上の相違点が存在するからである。