侵害差止等請求事件 » 平成19年(ワ)第2525号「接触操作型入力装置」事件

名称:「接触操作型入力装置」事件
債務不存在確認請求本訴,損害賠償請求反訴事件
東京地方裁判所:平成 19 年(ワ)第 2525 号,第 6312 号 判決日:平成 25 年 9 月 26 日
判決 : 原告の請求却下、被告の請求一部認容
特許法第68条、民法第709条、特許法104条の3、特許法第29条第2項
キーワード:特許権侵害、損害賠償、無効理由の抗弁、損害額

[概要]
原告製品(原告製品目録に記載の iPod 等)が被告の特許権を侵害するとして、損害賠償請
求を認めた事案である。

[裁判所の判断]
1 争点1(原告各製品が本件各発明の技術的範囲に属するか否か)について
原告各製品は,本件各発明の技術的範囲に属する(詳細略)。

2 争点2(本件特許が特許無効審判により無効にされるべきものと認められるか否か)について
本件特許が特許無効審判により無効にされるべきものとは認められない(詳細略)。

3 争点3(原告が受けた損害の額)について
(2) 本件各発明の実施に対し被告が受けるべき金銭の額に相当する額の金銭を算出するに当
たっては,前記消費税込みの売上高に相当な実施料率を乗じる方法によるのが相当である。
原告は,クリックホイールの価格をベースとすべきであると主張するが,原告各製品の原価
が証拠上不明であることに照らしても,採用することができない。

(3) そこで,相当な実施料率につき,以下検討する。
イ 本件各発明は,① リング状に予め特定された軌跡上にタッチ位置検出センサーを配置し
て軌跡に沿って移動する接触点を一次元座標上の位置データとして検出すること,及び,②
前記軌跡に沿ってタッチ位置検出センサーとは別個にプッシュスイッチ手段の接点が設けら
れており,前記検出とは独立してプッシュスイッチ手段の接点のオン又はオフを行うことが
できることに特徴があると考えられるところ,①については,同様の機能を有するタッチホ
イールを搭載したiPodが原告各製品の販売開始より前の平成14年7月に既に販売され
ていたものであり(乙3,26,36,37,39,41),②については,甲5公報及び甲
39公報に開示されていたほか,タッチ位置検出センサーの下部にプッシュスイッチ手段を
設置し,タッチ位置検出センサーによる検出とは独立してプッシュスイッチ手段の接点のオ
ン又はオフを行う構成については甲6公報,甲7公報及び甲31公報等に開示があり,この
ような構成は,原出願当時,広く知られた技術であったと認められる。そうであるから,本
件各発明の技術内容,程度は高度なものであるとは認め難いというべきである。

ウ 代替手段については,平成19年9月から発売が開始されたiPod touchではク
リックホイールが採用されず,タッチパネルが採用されているが(乙26),これによる入力
方法等の詳細は証拠上判然としないから,これをもって代替手段となるとは認め難い。

原告各製品の販売開始前に販売されていたiPodは,前記のタッチホイール及びタッチホ
イールの上部(軌跡から外れた位置)等に配置しているものがあり(乙3,26),そのよう
な構成で代替することは可能であったということができるものの,それを採用したのでは操
作性に劣り先進性を欠くことになると考えられるし(乙30ないし38),実際に原告各製品
の販売開始後にそのような構成を採用したモデルがあることは窺えないから,この点を重視
することはできない。

エ 本件各発明の技術が原告各製品に対して寄与する程度について見る。
(ア) 証拠(甲1の1)によれば,本件明細書の発明の詳細な説明には,発明の効果として,
次の記載があることが認められる。
「本発明は,以上のように構成されており,・・・・操作性良く薄型でしかも少ない部品点数
で電子機器を構成することができるように1つの部品で複数の操作ができるプッシュスイッ
チ付きの接触操作型電子部品を提供することができる。」(段落【0014】)

(イ) 1つの部品で複数の操作ができるプッシュスイッチ付きの接触操作型電子部品を提供す
る点は,原告各製品は・・・1つの部品で複数の操作ができるようになっているものではな
く,これらは別の部品で構成されているのであり,装置の薄型化は,バッテリや液晶ディス
プレイとハードディスクとの配置の工夫やフラッシュメモリの採用等により果たされている
ことが窺える。

操作性の向上の点は,タッチホイールを採用していた従前のモデルの後に,クリックホイ
ールを採用した原告各製品等が販売されたことや原告自身がクリックホイールによる操作性
の向上を宣伝していることからすると,一定の寄与があるとは考えられるが,クリックホイ
ールの機能の割当てや本件各発明とは無関係のセンターボタンの存在の果たす役割も大きい
と考えられるから,この点に関する本件各発明の寄与の程度が大きいとは認め難い。
そうすると,本件各発明の技術が原告各製品に対して寄与する程度は大きくないというべ
きである。

オ 本件各発明が原告各製品の売上げに寄与する程度について見るに,証拠(乙4,21,3
0,31,34,37,38,40,41,43)によれば,原告自身,クリックホイール
を原告各製品の操作性の要と位置付け,新機能,セールスポイントとしてこれを積極的に宣
伝し,好評を博してきたことが認められる。

また,証拠(甲97,乙4,16,23,27,28,29,31,34,38,39,4
0,53,62)によれば,「アップル」のブランドの価値は非常に高く,原告各製品のデザ
イン,カラーバリエーション,iTunes,ビデオ再生,ゲーム,大型液晶,記憶容量,
バッテリ容量,小型軽量といった点の訴求力がかなり強いものであり,平成18年11月1
6日時点におけるデジタルミュージックプレーヤー市場におけるiPodの国内シェアは約
60%に達しているが,それには原告の販売努力が相当程度貢献していることが認められる。

カ このような諸般の事情を総合考慮すると,相当な実施料率は,●(省略)●%と認めるの
が相当である。

(4) そうすると,被告が受けた損害の額は,次の算式のとおり,3億3664万1920円(円
未満切捨て)となる。
(算式)●(省略)●円×●(省略)●=336,641,920.824 円

[コメント]
技術内容、原告の販売努力等に鑑み、実施料率に関しては低く設定されたと思われるが、
原告の販売額が多額であるために、結果として3億円超の損害賠償額が認定されている。原
告側は賠償額が低すぎるとして控訴する方針との報道もあり、控訴審での判断に注目したい。