侵害差止等請求事件 » 平成23年(ワ)10590号「家具の脚取付構造」事件

名称:「家具の脚取付構造」事件
特許権侵害差止等請求事件
大阪地方裁判所:平成23年(ワ)10590号 判決日:平成25年5月24日
判決:請求棄却
特許法70条
キーワード:技術的範囲、用語の解釈、自白の成立(禁反言)
判決全文:http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20130719154502.pdf

[概要]
被告製品は構成要件Cを備えておらず、被告が構成要件Cを備えていることを当初は争わず、後から充足性を争ったことについて、自白を撤回するものではないとして、請求を棄却した。

[特許請求の範囲](**アンダーラインは争点)
A テーブル等の家具の脚部を,天板等の家具本体に着脱自在に取付ける為の構造であって,
B 家具本体1に固定させる基盤6に,有底短筒状の嵌合突起8を下向きに突設した固定部4と,
C 脚部2の上端に設けられて,前記嵌合突起8を緊密に挿嵌させる嵌合孔10を備える被固定部5とから成り,
D 前記嵌合突起8の底面8aには,筒の径方向に伸びるスリット9を設けると共に,
E 底面8aの上面は,前記スリット9の両側端9a,9aから夫々筒周方向に上向きに緩やかに傾斜する斜面aに形成し,
F 前記嵌合孔10の底部11には,前記スリット9に挿嵌させ得る形状を備えて,その上端に前記斜面aに当接させる掛止部12bを設けた掛止部材12を突設し,
G 前記掛止部12bを前記スリット9に挿通させたうえ,前記脚部2をその軸周りに回動させると,
H 前記掛止部12bが前記斜面aを次第に締付けて,前記固定部4と被固定部5とが強固に掛合される様にしたことを特徴とする
I 家具の脚取付構造

[原告の主張]
1.自白の成立
被告製品の構成につき,「脚部2の上端に設けられて,前記下方膨出部80を緊密に挿嵌させる嵌合孔10を備える被固定部5とから成り,」(構成c2)と特定した上,構成要件A,D,E,F,H及びGの非充足のみを主張し,その余の点については積極的に非充足の主張をしていなかったことからすれば,被告製品が,下方膨出部80を嵌合孔10に「緊密に挿嵌」させる構造を有することを自白したといえる。

2.仮に,自白の成立が認められないとしても,被告製品が「緊密に挿嵌」を充足する。
「緊密に挿嵌」とは,本件特許発明の採用する連結方法によって固定部4と被固定部5を強固に掛け合わせる必要から,嵌合突起8を嵌合孔10に緊密に挿嵌して被固定部5の上面と内側面とを固定部4に緊密に接触させることであり,その機能は,これによって脚部2の回動の軸を決定し,回動中も軸を固定して軸がぶれないようにすることで回転制御を行うものである。

[裁判所の判断]
(1)構成要件Cの充足性
1.用語の解釈
「嵌合突起8を緊密に挿嵌させる嵌合孔10」とは,その文言から,「嵌合突起8」を「嵌合孔10」に挿嵌させた際,「嵌合突起8」の外周面と「嵌合孔10」の内周面がほぼ一致し,全面にわたって隙間のない状態となることを意味すると解される。

ただし、「脚部2」を「その軸周りに回動させる」ことが想定されているため,「回動」ができないほどに隙間がないことを求めているとはいえず,若干の隙間があるにとどまる場合を除外するものではないと解される。
嵌合突起8と嵌合孔10とが「緊密に挿嵌」されることは,脚部2の回動開始時から,支脚3の回転軸の位置決めを行うことができる点にその技術的意義があると解される。

2.被告製品の充足性
嵌合突起8は傾斜縮小する有底円錐台形状なため,その頂部(下方)へと向かうにつれ,嵌合孔10の内周面と嵌合突起8の外周面との隙間は大きくなる。「緊密に挿嵌」といっても,脚部2を回動させるためには,嵌合突起8と嵌合孔10の内周面との間にある程度の隙間は必要であるが,被告製品の嵌合孔10の内周面と嵌合突起8の外周面との間には,必要以上の隙間がある。そうすると,「締め付けを開始する時点から,脚部2の回転軸の位置決めを行う」という作用効果を奏しているとはいえず,嵌合孔10は,嵌合突起8を「緊密に挿嵌」させるものとはいえない。

(2)自白の成立性
1.裁判所に顕著な事実として認定した経緯
① 原告製品は、被告製品と同様の隙間ができる構成である。しかし原告は、これも「緊密に挿嵌」に当たると考えていた。
② 被告は当初は原告から製品を購入していたが、後に原告製品の形状に依拠した被告製品を製造した。
③ 本件訴訟において、原告は、被告製品を「緊密に挿嵌」と表現し構成要件B及びCを充足する旨主張した。被告は「有底短円錐筒状の下方膨出部80」と,上記挿嵌の状態を「緊密に挿嵌させる嵌合孔10」と特定した上,構成要件B及びCの充足性について積極的に争う主張をしなかった。
④ 無効論において、原告は乙1発明に対して、構成要件Cを相違点として主張しなかった。
⑤ 被告は訴訟と並行して無効審判を請求。訴訟は中断。審決は、上記相違点により進歩性があると判断した。ただし原告は、相違点として主張はしなかった。
⑥ 審決の写しが裁判所に送付され、弁論再開。原告は、再開後、乙1発明との相違点を初めて主張した。
⑦ 原告の新たな主張に基づき、被告製品は「緊密に挿嵌」を充足しないと初めて主張した。原告が、解釈について属否論と無効論とで異なる主張をすることは禁反言の法理から許されないとも主張した。
⑧ 原告は、被告製品が「緊密に挿嵌」の構成を備えていることには自白が成立し,構成要件B及びCを充足することも争いがなかったのであり,被告らがこれと矛盾する主張をすることは禁反言の法理から許されない旨主張するに至った。

2.検討
自白(民事訴訟法179条)は,具体的な事実について成立するものであり,ある事実を前提とした抽象的な評価について成立するものではない。「緊密に挿嵌」との文言は,嵌合突起8を嵌合孔10に挿嵌させたときの状態を評価したものであり,事実そのものではない。

抽象的な評価の前提となっている嵌合突起8や嵌合孔10の形状等の事実関係について自白が成立したと見る余地はあるものの,挿嵌時の状態が「緊密に挿嵌」と表現されるべきものとの点について自白が成立したとはいえないし,ましてや構成要件Cの一部である「緊密に挿嵌」を充足するとの点について自白が成立したともいえない。

原告は,当初「緊密に挿嵌」の解釈について,嵌合突起の外周面と嵌合孔の内周面との接触の有無及び程度を特段限定するものではないことを前提とした主張をしていたが,弁論再開後にお

いては,本件特許発明が進歩性を欠くとの判断を回避するため,「緊密に挿嵌」の意義を限定的に解釈するに至ったものである。つまり,被告らが「緊密に挿嵌」の充足性を積極的に争うに至ったのは,「緊密に挿嵌」の解釈に関し,原告が従前の主張と異なる新しい主張をしたためであり,十分に合理的な事情があったといえる。

従って、被告らの主張は,そもそも事実に係る自白を撤回するものではなく,禁反言の法理など信義則に反するものでもない。

[コメント]
技術的範囲への属否、自白の成立に対する判断は妥当である。自白は具体的な事実について成立するという点は参考になる。被告製品と対比すれば、明らかに構成要件BとCは文言上相違するので、なぜ被告が当初から争わなかったのか不思議である。「緊密に挿嵌」の原告の当初の解釈は、明細書の記載内容に沿っておらず無理がある。本件発明と乙1発明との相違点は、緊密か否かの違いでしかなく(つまり本質的部分)、仮に均等論で争っても無理な事案である。