侵害差止等請求事件 » 平成22年(ワ)11353号「貯水タンク」事件

名称:「貯水タンク」事件
特許権侵害差止等請求事件
大阪地方裁判所:平成 22 年(ワ)11353 号 判決日:平成 24 年 3 月 22 日
判決:控訴棄却
特許法70条
キーワード:均等侵害,本質的部分、意識的除外、出願経過

[概要]
イ号の両面接着テープは、本件特許の「環状の弾性部材から構成されたスペーサ―」に該
当せず、文言侵害は否定された。また、上記スペーサ―は本質的部分であると解され、拒絶
対応で「環状の弾性部材から構成されたスペーサ―」に限定したことから、それ以外の構成
を意識的に除外したと判断され、第1要件と第5要件を充足しないとして均等侵害も否定さ
れた。

[特許請求の範囲]
A 透明樹脂によって形成されたタンク本体と
B-1 該タンク本体に環状の弾性部材から構成されたスペーサーを介して取付けられ,
B-2 透明な紫外線カット樹脂から形成された水位表示板とを
C 備えていることを特徴とする貯水タンク

[イ号の構成](被告主張のもの:イ号特定に争いあり)
b-1’ 該タンク本体の一側面に該タンク本体と一体的に成型された凸状の矩形枠と該矩形
枠の凸部上面内周側の,該矩形枠の三辺に段差を設けて形成された段部とによって構成され
た水位表示板取付台座部と,
b-2’ 該段部及び該段部のない該矩形枠の凸部上面内周側の一辺のタンク本体表面に,該
矩形枠の凸部上面内周に沿って貼られた帯状の両面接着テープ(*表現について原告と争いがある。)
によって固着された,青色透明なUVカット高分子樹脂から形成された水位表示板と
b-3’ 該水位表示板表面と該矩形枠上面との間隙部を被うコーキング

[原告の主張]
1.イ号製品の矩形枠状の弾性のある樹脂から構成された部品(両面接着テープ)は,その
作用効果に照らしても「スペーサー」に該当する。
2.両面接着テープが「スペーサー」に該当しないとしても,これと水位表示板取付台座部
とが一体となって「スペーサー」に該当する。
3.両面接着テープと「該タンク本体の水位表示板取付台座部」が一体となった構成は均等
である。

[裁判所の判断]
(1)文言侵害について
「スペーサ―」の解釈
(明細書の記載および出願経過を参酌すると・・・)「スペーサー」とは,水位表示板の
タンクへの取り付けに介在して,その間に空間を確保する部品であり,形状は環状で,材質
は弾性部材から構成されるものであり,また,その技術的意義は,水位表示板が結露するこ
とのないように,タンク本体との間に断熱効果のある空間(間隔)を確保するためにあるも
のと解される。そして,さらに出願経過を参酌すれば,この「スペーサー」は,上記断熱効
果を得るために,これによって確保する空間が完全に閉鎖されていることも必須の要件とさ
れているものと解されるべきである。
水位表示板取付台座部は,・・・高さが3.1mmの直角三角形となる空間を確保している
のに対し,両面接着テープは,これに厚さにして0.1mmの空間を付加するにすぎない。
両面接着テープに水位表示板取付台座部と水位表示板を接着する手段以上の技術的意義が
あるものとは認められない。

原告の主張:「「該タンク本体の水位表示板取付台座部」が一体となって「スペーサー」に
該当する。
→「スペーサー」については弾性部材から構成される旨限定されていることからすると,
「スペーサー」とは,タンク本体とは異なる材質から構成され,タンク本体とは独立した部
材であると解するのが相当である。
段部のない該矩形枠(水位表示板の上辺に対応)については,・・・タンク本体に水位
表示板を直接取り付ける構造となっている。∴両面接着テープと該タンク本体の水位表示板
取付台座部を一体の構成としてみても,これがスペーサーとしての「環状」になっていると
はいえない。
以上の通り、両面接着テープが矩形形状に貼られているか否かに関係なく、文言侵害はな
いと判断された。

(2)均等侵害について
(明細書の記載によれば)・・・という課題を解決するため,その解決手段として,タンク
本体に環状の弾性部材から構成されたスペーサーを介して水位表示板を取り付けるという構
成を採用した。
(出願経過において)・・・スペーサーが「環状の弾性部材」から構成されているからこそ,
タンク本体と水位表示板との間の空間が完全に閉鎖され,優れた断熱効果が得られるもので
あることを出願経緯において強調していた。
密閉した空間により断熱効果を得て結露防止をするという技術そのものは,本件特許の出
願当時,既に公知技術であった。
タンク本体に「環状の弾性部材から構成されたスペーサーを介して」水位表示板を取り付
けるという構成が本件発明の本質的部分である。
∴均等侵害の第1要件を充足するとはいえない。
(拒絶理由に対する補正書及び意見書によれば)・・・,環状の弾性部材から構成されたス
ペーサー以外の構成を採用することを意識的に除外したものといわなければならない。
∴均等侵害の第5要件も充足するとはいえない。

[コメント]
両面接着テープも厚みを有する以上はスペーサ―と言えなくもないが、明細書の記載事項
と出願経過を考慮して、本件特許の「環状の弾性部材から構成されたスペーサ―」ではない
と解釈した点は、妥当な判断である。両面接着テープが弾性を有するとは、通常は考えない
であろう。拒絶理由への対応で請求項を限定した場合は、限定することにより除外された構
成は、意識的に除外したと見なされるので、実務上は、その点を考慮する必要がある。