審決取消請求事件 » 平成30年(行ケ)第10034号「液晶表示デバイス」事件

名称:「液晶表示デバイス」事件
審決取消請求事件
知的財産高等裁判所:平成30年(行ケ)第10034号 判決日:平成31年3月20日
判決:請求棄却
特許法36条6項1号、特許法164条の2
キーワード:サポート要件、審決の予告
判決文:http://www.ip.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/554/088554_hanrei.pdf

[概要]
本件審決と第2予告がそれぞれ認定した本件訂正発明の解決しようとする課題は、表現こそ異なるものの、実質的には同じ内容を意味するものと理解されるため、サポート要件違反により審判の請求を理由があるとする第2予告の後、実質的に訂正の機会が与えられたものといえる等から、更に審決の予告をすべき場合には当たらないとしたうえで、サポート要件を否定した審決を維持した事例。

[事件の経緯]
原告は、特許第3828158号の特許権者である。
被告が、当該特許の請求項1及び4~14に係る発明についての特許を無効とする無効審判(無効2014-800056号)を請求し、原告が訂正を請求したところ、特許庁が、当該特許を無効とする審決をしたため、原告は、その取り消しを求めた。
知財高裁は、原告の請求を棄却した。

[本件訂正発明]
【請求項1】(筆者にて適宜抜粋)
液晶セルおよび少なくとも1枚の補償膜または偏光板と少なくとも1枚の補償膜を有する光学補償板との組合せを含む液晶表示デバイスであって、該補償膜は
a)式I
P-(Sp-X)n-MG-R I
式中、
Pは、重合性基であり、
Spは、・・・(略)・・・
Xは、・・・(略)・・・
nは、1であり、
MGは、下記式IIに従い選択され:
-(A1-Z1)m-A2-Z2-A3- II
(式中、
A1、A2およびA3は・・・(略)・・・
Z1およびZ2は・・・(略)・・・
mは0、1または2である)、そして
Rは、・・・(略)・・・
で表される化合物から選択される、1個の重合性官能基を有する少なくとも2種のメソゲン75~99重量%を
b)開始剤
c)必要に応じて、2個または3個以上の重合性官能基を有する非メソゲン化合物、および
d)必要に応じて、安定剤、
の存在下において含む、
重合性メソゲン物質の混合物の重合あるいは共重合によって得られる少なくとも1つのアニソトロピックポリマー層を含み、上記アニソトロピックポリマー層がホメオトロピックまたは傾斜したホメオトロピック分子配向を有することを特徴とする、前記液晶表示デバイス。

[取消事由]
手続違背(取消事由1)
サポート要件の判断の誤り(取消事由2)

[裁判所の判断](筆者にて適宜抜粋)
『2 取消事由1(手続違背)について
(1) 審判長は、特許無効審判の事件が審決をするのに熟した場合、審判の請求に理由があると認めるときその他の経済産業省令で定めるときは、審決の予告を当事者等にしなければならない(特許法164条の2第1項)。上記「経済産業省令で定めるとき」として、特許法施行規則50条の6の2が規定されている。同条3号は、同条1号又は2号に掲げる審決の予告をした後であって事件が審決をするのに熟した場合にあっては、「当該審決の予告をしたときまでに当事者…が申し立てた理由又は特許法153条第2項の規定により審理の結果が通知された理由(当該理由により審判の請求を理由があるとする審決の予告をしていないものに限る。)によって、審判官が審判の請求に理由があると認めるとき」は、審決の予告をしなければならない旨規定する。
この規定によれば、先に行われた審決の予告までに当事者が申し立てた理由のうち、当該予告において判断が留保され又は有効と判断された理由につき特許を無効にすべきものと判断する場合のように、「当該理由により審判の請求を理由があるとする審決の予告をしていない」場合は、実質的に訂正の機会が与えられなかったものであり、再度の審決の予告をしなければならない。他方、そうでない場合、すなわち、先に行われた審決の予告と実質的に同じ内容の理由により特許を無効にすべきものと判断する場合のように、実質的に訂正の機会が与えられていた場合は、審判長は、更に審決の予告をする必要はないものと解される。審決予告の制度は、特許無効審判の審決に対する審決取消訴訟提起後の訂正審判の請求につき、それに起因する特許庁と裁判所との間の事件の往復による審理の遅延ひいては審決の確定の遅延を解消する一方で、特許無効審判の審判合議体が審決において示した特許の有効性の判断を踏まえた訂正の機会を得られるという利点を確保するために、審決取消訴訟提起後の訂正審判の請求を禁止することと併せて設けられたものであるところ、上記の解釈は、この制度趣旨にかなうものである。
・・・(略)・・・
(3) サポート要件について
ア 本件審決と第2予告は、いずれもサポート要件につき、特許請求の範囲の記載は、発明の詳細な説明の記載により当業者が本件訂正発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるとは認められず、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるとも認められないとして、サポート要件に適合しないと判断したものである。
イ 本件訂正発明の解決しようとする課題
(ア) 本件審決が認定した本件訂正発明の解決しようとする課題は、前記第2の3(2)アのとおりである。また、第2予告が認定した本件訂正発明の解決しようとする課題は、前記(2)イ(ア)aのとおりである。
(イ) 本件審決と第2予告がそれぞれ認定した本件訂正発明の解決しようとする課題は、表現こそ異なるものの、実質的には同じ内容を意味するものと理解される。
ウ 以上によれば、サポート要件との関係では、サポート要件違反により審判の請求を理由があるとする第2予告の後、原告には実質的に訂正の機会が与えられたものといえるから、更に審決の予告をすべき場合には当たらない。
(4) 新規性及び進歩性について
ア 本件審決及び第2予告において判断の対象とされた新規性・進歩性の判断に当たり対比される主引用例は、いずれも甲1(引用例)であり、同一である。
イ 引用発明の認定
・・・(略)・・・
(イ) 引用発明1Bと甲1の3発明とを対比すると、本件審決の認定と第2予告の認定は同一である。他方、引用発明1Aと甲1の2発明については、本件審決では式(N-a)の化合物を含むのに対し、第2予告ではこれを含まない点その他の点で、液晶表示素子に係る混合物を構成する重合性液晶組成物の一部が相違する。
しかし、甲1を主引用例として認定された引用発明に基づき、新規性又は進歩性が欠如するとの無効理由により審判の請求を理由があるとする第2予告により、上記無効理由に関しては、実質的に見て原告に訂正の機会が与えられたものといえる。
よって、新規性及び進歩性との関係では、第2予告の後更に審決の予告をすべき場合には当たらない。』

『3 取消事由2(サポート要件違反の判断の誤り)について
・・・(略)・・・
(3) 特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載との対比
ア 前記のとおり、特許請求の範囲に発明として記載して特許を受けるためには、明細書の発明の詳細な説明に、当該発明の課題が解決できることを当業者において認識できるように記載しなければならない。そして、本件訂正発明におけるメソゲン化合物a、a1、a2を定義する式IないしI’は、請求項によってその具体的内容を多少異にするものの、いずれも当該式を構成する重合性基P、スペーサー基Sp、結合基X、メソゲン基MG、末端基Rといった基本骨格部分において非常に多くの化合物を含む表現である上、これらに結合する置換基の選択肢も考慮すれば、その組合せによって膨大な数の化合物を表現し得るものとなっている。
このような場合に、特許請求の範囲の記載が、明細書のサポート要件に適合するためには、発明の詳細な説明は、上記式が示す範囲と得られる効果との関係の技術的な意味が、特許出願時において、具体例の開示がなくとも当業者に理解できる程度に記載するか、又は、特許出願時の技術常識を参酌して、当該式が示す範囲内であれば、所望の効果が得られると当業者において認識できる程度に、具体例を開示して記載することを要するものと解するのが相当である。換言すれば、発明の詳細な説明に、当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる程度に、具体例を開示せず、特許出願時の当業者の技術常識を参酌しても、特許請求の範囲に記載された発明の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえない場合、サポート要件に適合するとはいえない。』

(担当弁理士:片岡 慎吾)