IP case studies判例研究

平成27年(ネ)第10109号「発光ダイオード」事件

名称:「発光ダイオード」事件
損害賠償請求控訴、同附帯控訴事件
知的財産高等裁判所:平成27年(ネ)第10109号  判決日:平成28年2月9日
判決:原判決取消、付帯控訴棄却
不競法2条1項14号(H27改正法15号)、4条、民法709条、特許法2条3項1号
キーワード:ウェブサイトへの製品掲載、物の譲渡の申出をする行為
[概要]
特許権者である控訴人(一審被告)の本件プレスリリースの掲載については、一審被告が、被控訴人(一審原告)のウェブサイトから、一審原告が本件製品について譲渡等の申出をしていると判断したことは無理からぬところであるとして、一審被告の過失を認めず、損害賠償請求の一部認容した部分が取り消された事例。
[事件の経緯]
一審被告は、特許第4530094号の特許権者である。
一審被告が、一審原告の行為が当該特許権の侵害に当たるとして、一審原告に対し特許侵害訴訟(先行訴訟)を提起するとともに、当該先行訴訟に関するプレスリリースを自身のウェブサイト上に掲載した。
そこで、一審原告が、一審被告に対し、上記のプレスリリースの掲載が平成27年法律第54号による改正前の不正競争防止法(以下単に「不正競争防止法」という。)2条1項14号(現行法15号)所定の不正競争行為に該当するとして、同法4条に基づき、損害金と遅延損害金の支払を求めるとともに、一審被告による上記訴訟の提起等が不法行為を構成するとして、不法行為(民法709条)に基づき、損害金と遅延損害金の支払を求めた(大阪地裁平成26年(ワ)第3119号)。
大阪地裁は、一審原告の請求について、不正競争防止法に基づく損害金と遅延損害金の支払を求める限度で一部認容し、その余の請求を棄却したため、一審被告は、その敗訴部分を不服として控訴を提起し、さらに、一審原告においても、その敗訴部分を不服として、附帯控訴を提起した。
知財高裁は、一審原告の請求は、いずれも理由がないから、全部棄却すべきであるとして、原判決中一審被告の敗訴部分を取り消した。
[本件訂正発明](下線は訂正により付加された部分)
【請求項1】
窒化ガリウム系化合物半導体を有するLEDチップと、該LEDチップを直接覆うコーティング樹脂であって、該LEDチップからの第1の光の少なくとも一部を吸収し波長変換して前記第1の光とは波長の異なる第2の光を発光するフォトルミネセンス蛍光体が含有されたコーティング樹脂を有し、前記フォトルミネセンス蛍光体に吸収されずに通過した前記第1の光の発光スペクトルと前記第2の光の発光スペクトルとが重なり合って白色系の光を発光する発光ダイオードであって、前記コーティング樹脂中のフォトルミネセンス蛍光体の濃度が、前記コーティング樹脂の表面側から前記LEDチップに向かって高くなっており、かつ、前記フォトルミネセンス蛍光体は互いに組成の異なる2種以上であることを特徴とする発光ダイオード。
[争点]
(1)被告による本件プレスリリースの掲載が、不正競争防止法2条1項14号所定の不正競争行為に該当するか(争点1)
(2)被告による先行訴訟の提起等が、不法行為を構成するか(争点2)
(3)原告の被った損害額(争点3)
[原判決]
争点1につき、一審原告が、一審被告の特許権を侵害していることを窺わせる事情は見当たらず、一審被告のプレスリリースに記載された事実は虚偽であること、また、一審被告には尽くすべき注意義務を怠った過失があることが認められる。
[裁判所の判断](筆者にて適宜抜粋、下線)
1.争点1における一審被告の過失の判断について
『特許法2条3項1号は,物の発明について,その物の生産,譲渡,輸入又は譲渡等の申出をする行為を,実施行為と定義している。
本件においては,一審原告がE&E社等を経由してエバーライト社から本件製品を輸入,販売したことを認めるに足りる証拠はない。また,上記認定事実によれば,一審被告も,本件プレスリリース当時,一審原告による本件製品の輸入,販売を立証し得る直接的な証拠を有していたわけではない。
しかし,譲渡等の申出については,製品のカタログやパンフレット等を示して販売の申出をする行為がその典型的な例であると解されており,製品のカタログ等については,商社や代理店等がこれを作成する場合があるとしても,製造メーカーがこれを作成し,販売会社がそのカタログを利用して譲渡の申出をする場合等が多いと推認される。
そして,現代の社会においては,カタログだけではなく,インターネットのウェブサイトに製品を掲載してこれを宣伝広告し,販売することも多いことからすれば,仮に一審原告のような商社が,自社のウェブサイトに,取扱製品と同製品の販売に必要な情報を直接掲載し,その販売をする趣旨の記載をしていれば,同製品について,譲渡等の申出をしていることになると解されるところである。また,そうでなくとも,一審原告のような商社が,自社のホームページにおいて,特定の複数の製造メーカーを紹介した上で,その製品を販売する旨を記載し,その趣旨で当該製造メーカーのウェブサイトにリンクを貼り,同サイトにおいて各製品の種類と仕様等の販売に必要なデータが説明されている場合にも,製造メーカーのウェブサイトを利用する形での同製品について譲渡の申出をしているものと解される。すなわち,商社がそのウェブサイトにおいて製造メーカーのウェブサイトにリンクを貼るだけで,同メーカーのウェブサイトに掲載されている製品のすべてについて常に譲渡の申出をしていると解することはできないけれども,その商社と製造メーカーとが取引関係にあることが記載され,当該商社に問い合わせれば当該製造メーカーの製品を購入することができる趣旨の記載があり,かつ,製造メーカーのウェブサイトには,製品の種類や仕様等の販売に必要な情報が開示されているなどの状況があれば,製造メーカーのウェブサイトにリンクを貼り,これを利用している場合でも,製造メーカー作成のカタログを利用する場合と同様に,製造メーカーのウェブサイト掲載の製品について,譲渡の申出をしていると解される。
これを本件についてみるに,一審原告のウェブサイトは,商社である一審原告が,「半導体 規格品からユーザー仕様まで,ニーズに合わせた半導体やデバイス製品を豊富な製品ラインアップから提供いたします。」との記載とともに,エバーライト社を含めた複数の取扱メーカーの名称を列記し,これによりこれらの製造メーカーと一審原告とが取引関係にあることを示した上で,各メーカー紹介のページの中で,エバーライト社の事業内容がLEDパッケージ等であること等を個別に紹介し,その上でエバーライト社のウェブサイトにリンクを貼り,そのウェブサイトにおいて同社が製造販売する各製品とその製品の詳しい仕様をみることができるようになっているというものである。LEDパッケージは,製品の部品として購入されるものであるから,これを購入するのは,製造メーカーやその代理店等の取引業者であると推認されるところ,一審原告のウェブサイトを見た取引業者は,一審原告が商社としてエバーライト社の製品(その主力は,前記認定のとおり白色LED製品であり,本件製品はその一部である。)を取り扱っており,一審原告に問い合わせれば,エバーライト社から白色LED製品等を購入することができると理解するものであり,また,製品の詳細については,リンクが貼られているエバーライト社のウェブサイトから,その詳しい仕様も見ることができるものである。そして,一審原告のウェブサイトにおいては,エバーライト社の製品について,一部取扱ができない製品がある等の記載はない。
上記の状況によれば,一審被告は,一審原告のウェブサイト及びこれとリンクされているエバーライト社のウェブサイトを見て,一審原告がエバーライト社のウェブサイトに掲載されている白色LED製品等を取り扱っており,取引業者からその商品を購入したいとの申込みがあり,価格等の条件が合致すれば,これを販売すると理解したものであり,一審原告がエバーライト社のウェブサイトに掲載されている本件製品を含む白色LED製品について譲渡の申出をしていると理解したとしても,無理からぬところである。
そして,一審被告は,その後本件製品と本件製品に使用されているLEDチップの構造,構成材料等を分析し,本件特許発明の当時の請求項1の技術的範囲に属することなどを確認した上で,先行訴訟を提起し,本件プレスリリースを掲載したのであり,一審被告が本件プレスリリースを掲載したとしても,一審被告には過失があったものとは認められない。
なお,本件特許発明の請求項1については,その後訂正がなされているものの,一審原告は,本件訴訟において,仮に一審原告が本件製品の譲渡等をしていたとしても,本件製品は本件特許権を侵害するものではないから,一審被告による本件プレスリリースの掲載は,不正競争行為に当たる,等の主張はしていないのであるから,本件の不正競争行為の過失の判断において,本件製品が本件特許発明の訂正後の請求項1の技術的範囲に属するか否かに関し,これ以上詳しく判断する必要はない。
・・・(略)・・・
以上によれば,一審被告の本件プレスリリースの掲載については,一審被告が,一審原告のウェブサイトから,一審原告が本件製品について譲渡等の申出をしていると判断したことは無理からぬところである。そして,一審被告は,その後本件製品と本件製品に使用されているLEDチップの構造,構成材料等を分析し,本件特許発明の当時の請求項1の技術的範囲に属することなどを確認した上で,先行訴訟を提起し,本件プレスリリースを掲載したのであり,一審被告が本件プレスリリースを掲載したとしても,一審被告には不正競争防止法4条の過失があったものとは認められない。
よって,一審原告による同法4条に基づく損害賠償請求は理由がない。』
[コメント]
原審では、商社のウェブサイトの記載や製造メーカーのウェブサイトのトップページへのリンクの貼り付けをもって、譲渡の申出があったとは認められないと判断した。
しかし、控訴審では、商社がウェブサイトに製造メーカーへのリンクを貼った際、商社が製造メーカーと取引関係にあり、その商社から製造メーカーのウェブサイト掲載の製品を購入できると理解でき、かつ製造メーカーのウェブサイトには、その製品の必要な情報が開示されていれば、商社は、その製品について、譲渡の申出の行為をしていると解されると判示された。リンクを貼る行為を一律に扱うのではなく、その具体的態様によって、一定の関係が認められる場合には譲渡の申出に該当しうるという実質的な判断をしている。
また、本事件は不正競争防止法に基づく損害賠償請求事件であるが、上記のウェブサイトへの製品記載における「物の譲渡の申出」に関する判示は、特許権侵害事件等の判断の際にも踏襲しうると考えられる。そのため、特に、多種多様の製品(商品)を扱う商社等の卸売業は、自己のウェブサイトの記載に関し、上記判示を鑑みて注意すべきである。
以上
(担当弁理士:片岡 慎吾)

平成27年(ネ)第10109号「発光ダイオード」事件

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