その他 » 平成27年(ワ)10913号「血栓除去用部材とそれを使用した血栓除去用カテーテル」事件

名称:「血栓除去用部材とそれを使用した血栓除去用カテーテル」事件
債務不履行損害賠償請求事件
大阪地方裁判所:平成27年(ワ)10913号  判決日:平成28年5月23日
判決:請求棄却
通則法17条本文等
キーワード:審査官補正、不法行為

[概要]
米国審査官からのクレーム補正の電話連絡に対し、被告(出願代理人)は補正書面を提出すべき義務はなく、口頭で応諾の連絡をすべき義務を怠ったと認めるに足りる証拠もないため、被告の不法行為が成立するとは認められないとして、損害賠償請求が棄却された事例。

[事件の経緯]
原告は、日本特許出願に基づき、優先権主張して米国特許出願を行った出願人である。
被告は、前記米国特許出願に係る原告の出願代理人である。
原告は、被告の行為が不法行為に該当すると主張して、損害賠償を求めた。
大阪地裁は、原告の請求を棄却した。

[争点]
・争点1:被告らが、審査官からのクレーム補正の電話連絡に対し、補正の書面を提出すべき義務又は口頭で応諾の連絡をすべき義務を怠ったか否か
・争点2及び3:省略

[裁判所の判断](筆者にて適宜抜粋、下線)
『2 被告らが、審査官からのクレーム補正の電話連絡に対し、補正の書面を提出すべき義務を負うか否か
(1) 前記認定事実等(1)ア(ア)のとおり、米国特許出願手続における補正は、書類を提出することによって行われるが、審査官補正の場合には、米国特許商標庁(審査官)が審査官補正書を発行して行われると認められる。そして、前記認定事実等(1)ア(イ)c及びdのとおり、審査官補正は、出願人が電話又は個人面接にて権限を授与した場合に許されることから、審査官補正の場合には、出願人が補正の書面を提出する必要はないと認められ、前記認定事実等(4)のとおり、578出願での審査官補正でも電話面接による権限授与が行われているにとどまる。そこで、本件で、被告らが審査官からの連絡に対して補正の書面を提出すべき義務を負うといえるためには、審査官からの連絡が審査官補正の提案でなく、出願人による補正の促しであったことが必要となるので、まずこの点を検討する。
ア 前記認定事実等(2)アのとおり、被告P2は、P4に対する電子メールにおいて、審査官からの補正提案を許容する旨を審査官に伝えれば、審査官は審査官による補正を用意すると連絡しており、これによれば、被告P2は、審査官からの連絡を審査官補正の提案であると理解したと認められる。そして、同電子メールに記載された審査官の提案は、クレームを提案のように補正すれば、特許可能であるという内容を電話で伝えてきたものであるところ、これは、審査官補正が、「出願を特許として通す場合」(又は「特許申請登録の段階に於いて」)、「電話又は個人面接にてかかる変更について権限を授与した場合に」許されるものである(前記認定事実等(1)ア(イ)c)との定めにも適合している。そうすると、本件での審査官の提案は、審査官補正の提案であったと認めるのが相当である。
イ これに対し、原告は、本件での審査官からの連絡は、特許の根幹をなすクレーム1及び2の補正であり、このような特許の根幹をなすクレームの実体的変更は審査官補正ではできないものであるから、審査官からの連絡は審査官補正の提案ではないと主張する。
(ア) 前記認定事実等(1)ア(ア)(g)、同(イ)a及び同cにおける米国特許規則の定め及び特許審査便覧の記載によれば、審査官補正においてクレームの補正を行えることが定められていると認められ、その範囲を制限する定めがあるとは認められないから、審査官補正においては、誤記の訂正等の形式的不備の是正にとどまらない実体的な変更を伴うクレームの補正も行うことができると認められる。・・・(略)・・・
(2) 小括
以上によれば、本件における審査官からの電話連絡は、本件出願のクレーム1をクレーム2の限定を含むものに補正し、クレーム2を削除する審査官補正を提案し、それを許容することができるかを尋ねるものであると認められるから、被告らは、これに対する応答として、電話面接を通じて審査官補正を受諾する旨の出願人である原告の意向を伝えることによって、クレーム補正についての権限授与を行うことができるということができ、被告らが、審査官からのクレーム補正の電話連絡に対し、補正の書面を提出すべき義務を負うと認めることはできない。

3 被告らが、審査官からのクレーム補正の電話連絡に対し、口頭で応諾の連絡をすべき義務を怠ったか否か
(1) 本件において、被告らは、P4を通じて、クレーム補正を承諾する旨の原告の意向を知らされていたから、審査官からのクレーム補正の電話連絡に対し、口頭で応諾の連絡をすべき義務を負っていたと認められる。
(2) そこで、被告らがこの義務に違反したかを検討するに、被告らは、平成19年2月20日に電話で審査官補正に応諾する旨を連絡した旨主張し、前記認定事実等(2)ウのとおり同年3月14日のP4宛ての電子メールでもその旨を述べているのに対し、原告は、前記認定事実等(2)エのとおり本件出願に係るTH(甲6)とIFW(乙14)のいずれにも、審査官からの電話連絡に対して口頭で応諾の連絡をしたのであれば、THやIFWにその旨が記録されるはずである旨主張・・・(略)・・・被告らが、審査官からの電話連絡に対して期限までに応諾の連絡をしなかったと考えられる旨が指摘されている。・・・(略)・・・しかしながら・・・(略)・・・審査官補正に関する面接がTHやIFWに記録されないこともあり得ると考えられるところであり、特に本件出願については、結局、審査官補正がなされなかったこともあって、審査官からのクレーム補正に関する電話連絡やそれに対する応諾の連絡が記録されなかった可能性も否定できない。・・・(略)・・・
以上からすれば、本件出願に係るTHやIFWに記録されていないことをもって、被告らが審査官からの電話連絡に対して口頭で応諾の連絡をしなかったと認めることはできない。
(3) また、原告は、被告らが審査官に対して応諾の連絡をしなかったために、本件出願について平成19年3月7日に非最終拒絶理由通知が出されたと主張する。
しかし・・・(略)・・・被告らが非最終拒絶理由通知に応答して同提案どおりの補正をしたにもかかわらず、拒絶理由は解消されずに最終拒絶理由通知が発せられるに至っている。そうすると、本件出願に関しては・・・(略)・・・審査官補正の提案後に、米国特許商標庁内部で本件出願に対する方針の変更があった可能性が否定できないから、非最終拒絶理由通知が出されたからといって、被告らが審査官補正の応諾の連絡をしなかったとは認められない。・・・(略)・・・
(5) 以上によれば、被告らが審査官からのクレーム補正の電話連絡に対して口頭で応諾の連絡をしなかったと認めるに足りる証拠はなく、被告らが口頭で応諾の連絡をすべき義務を怠ったと認めることはできない。』

[コメント]
本事例では、被告が審査官との連絡を取った後、非最終拒絶理由通知が出た後に、原告に対して、審査官との連絡やそのやり取り(すでに、クレーム補正の提案が撤回されたこと)を報告しており、原告(クライアント)への対応の遅さが、原告との信頼関係を破たんさせる原因となったものと考えられ、最終的に被告の代理人解任、債務不履行に基づく損害賠償請求事件にまで発展している。弊所では、現地代理人に対して、遅くとも期限当日までに弊所に当該手続きの完了報告を行うように指示しており、本事例のような問題が生じないことを担保しているが、さらなる早期対応を徹底し、クライアントに高い満足を提供できるように、改善を継続して行かねばならない。そのためにも、現地代理人との信頼関係の構築・維持に今後も尽力していく必要がある。
以上
(担当弁理士:西﨑 嘉一)